久野原の御田


和歌山県有田郡有田川町久野原に、「御田」という民俗行事が伝承されています。
「御田」というのは「御田祭(おんださい)」や「御田植祭(おたうえまつり)」が
簡略化された呼称のようですが、私達の地域では古くから「御田(おんだ)」
という言い方が用いられてきていますので、それにしたがっていくことにしています。
 
 近代まで有田川上流域で行われてきた多くの御田の中で、久野原の御田は
その芸態が他の地域と随分異なります。具体的な相違点は現地でご覧頂ければ
幸甚ですが、その一つをあげますと、主役は台詞を語らず演技だけを続けます。
座謡衆がその部分を語り、謡って進行していきます。次に、近畿地方に分布する
御田の多くは稲作の作業過程を模擬的に演じて終了するところが多いようですが、
ここでは「福田」「拒障合」という狂言的内容を持つ部分が挿入されています。
 台詞の用語にも転訛したと考えられるものがあって難解なところが多く、研究中
ですが、台詞も演技も長い歳月の伝承活動の間に少しずつ変化してきたのでは
なかろうか、ということも考えられます。この行事は本来は稲作に対するこの地域
の農民の祈りとして毎年初春に行われてきたもので、観賞のための芸能ではなか
ったと言えるでしょう。
 
 人の手作業によって営まれてきた時代の稲作農業が再現され、農村儀礼を
守りながら進められてきた農民生活と心情を、演技や台詞の語りから汲み取って
いただけるのではないでしょうか。



 名 称  久野原の御田
 
 指 定  昭和56年7月 和歌山県無形民俗文化財
 
 実施日  旧 正月九日(現在、平成奇数年2月11日 昼)実施
 
 場 所  久野原岩倉神社(「紀伊名所図会」では、多分お堂と思われる
       建物の中で演じているように描かれています)
 
 保存会  昭和46年2月結成 ・ 久野原の御田保存会
 
 出演者  舅・聟・太鼓打ち(2人)・早乙女(5人、4〜5才児)・牛
       ・座謡衆(多数)
 
 用 具  鍬(木製)・ササラ(木製棒ササラと女竹製ササラ)
       ・締め太鼓・鎌(木製 早乙女用)・牛面・花笠(早乙女用)
       ・早苗・稲穂・餅花(翁面等は使用しない)
 
 御田宿  民家が交代で務めます。出宿ともいわれますが、
       当日御田関係者がここに集合して衣装替えや化粧を行い、
       それぞれの役に必要な道具を揃え、心の準備も整えて、
       ケからハレに変身します。準備が完了したところで
       全員揃って昼食をいただき、一同の結束を固めます。 
       宿から出発するに際しては、庭に集合して宿に向かって整列し、
       太鼓の打ち初めとともに謡囃子を三番まで謡います。
       謡い終えると、ご祝儀として餅撒きを少しばかり行い、
       馬場に向かって出発します。

 所要時間 お渡り・・約30分、御田・・約1時間50分

 歴 史  文献史料は得られていませんからよくわかりませんが、
       阿?河荘久美原(あてがわのしょう くみのはら・現 有田川町久野原)
       の歴史事情からみて15世紀前半頃から始まったのではないかと
       考えられます。「御田本」の上限は、天正元年(1573年)
       の記録があります。「紀伊名所図会 後編巻之三」(嘉永四年 
        1851年刊)にお渡り(渡り初め)と御田の図絵が見事なタッチで
       描写されています。
 
 お渡り  久野原のほぼ中央部に、約300メートル余にわたって
       真直ぐに伸びた馬場があります。国道480号線と交叉した
       南端から出発し、太鼓のリズムに合わせて全員が神楽歌を
       謡いながら神社に向かって上って行きます。
       最後の二十七番目を謡い終わると、神社に到着するように
       できています。
      
 御 田  
       伝承本は、舅方、聟方座謡交互の掛け合いで、連続した書き方になって
       いますが、その内容を理解しやすくするため、次のように見出しをつけ段落
       に区切りました。ご希望の方は、御田本冊子を当日無料で差し上げます。
  
       一、発端・世の中踊り  二、鍬初め  三、溝浚え  
     
       四、水迎え  五、牛呼び・田起こし  六、畔はつり・畔ぬり
 
       七、田かき  八、肥持ち  九、籾持ち  十、田常祭り  
 
       十一、籾蒔き  十二、縄ない  十三、俵編み  

       十四、苧紡ぎ  十五、苗誉め  十六、聟呼び  
 
       十七、福田   十八、拒障合(こせあい) 十九、苗取り

       二十、田植え  二十一、稲刈り  二十二、初穂献供

   隔年毎に、地域住民が総がかりで繰り広げるこの行事を
   現地でご覧の上、無形民俗文化財についてよりご認識を深めていただき、
   ご支援を賜りますようよろしくお願い申しあげます。



           久野原の御田保存会  顧問 二澤 久雄 
            
御田について