My Fish Library (第8回 2004 / 11

モエギハゼ

〜 境界線 〜

 

 このホームページのGallery/Gobiidaeは一応「泥ハゼ」をテーマにしているわけですが、じゃ、これだけたくさんいるハゼの仲間のうち、どこまでが「泥ハゼ」で、どこからが違うのかっていうことについては、一部の限定的なダイバーやガイドの方々の暗黙知としてあるだけで、一般的な解釈は存在していないと思います。
 自分としても、「泥ハゼ」をテーマにしたコーナーを進めていくにつれて、これは「Gobiidae」のコーナーに掲載すべきか、すべきでないか迷うこともあります。環境的な見地からすれば、一部汽水域を含む内湾のシルト層や軟泥、砂泥底に棲むハゼ達ということになるかと思います。ところが。この「内湾の砂泥底」というのが問題で、ここには内湾の奥、中央部、外海との接点領域によっては生息しているハゼの種類も異なり、湾奥のハゼはもちろん含まれるとして、中央部や入り口周辺に生息する種類については個人的判断によって区別することにしています。

 

 もちろん、中にはちょっと「泥ハゼ」というには無理のある種類(キラキラハゼ近似種とかナカモトイロワケハゼ)も「Gobiidae」のコーナーには既に掲載されていて、これは本当に理由がなく、ただこのコーナーにいれておきたかったというだけなのですが。
 話を元に戻して、少し具体的にいくと、湾奥に生息するサルハゼ、ニュウドウやシルトを好むリボンゴビー、イトヒキハゼの一種などは最も典型的な「泥ハゼ」で、微妙なのは(コーナーには載せてないけれど)フタホシタカノハハゼや、ハチマキダテハゼ、レイドシュリンプゴビーとか、マスイダテハゼなど。柏島のツアーログに載せたホタテツノハゼ属の一種も微妙なラインで、ボルケーノシュリンプゴビーレッドバンデッドまでいっちゃえば明らかに「区域外」。
 「微妙なライン」のハゼは、自分の潜った感覚として内湾のハゼととして感じたのか、それとも内湾であっても少し潮通しのよいところに住むハゼとして感じたのかによって区別することとしています。これでいうとフタホシタカノハハゼは「泥ハゼ」、レイドやホタテツノハゼ属の一種やハチマキダテハゼは「泥ハゼ」ではないのです。(あくまで個人的判断ですよ)

 あとは水深も少し関係していて、潮通しのよい、内湾の入り口付近にすむ種類であっても、少し深めの環境は堆積物などの関係なのか、全体的に、もやっとしていたり、細かい泥が全体的に薄くかかっていたりしているため、自分としては、これは「泥ハゼ」の範疇に入ってきます。マスイダテハゼなどがそうですね。奄美では浅いのですが、西表などではすごく深い。
 で、そこでこのモエギハゼ。これはまさに自分的には「泥ハゼ」なのです。生息水深は深いし、さらに彼らが棲んでいるところは泥が堆積していて。まさに境界線上にいる「泥ハゼ」ってわけですね。

 被写体としては深くて泥場にいて、ぴょこぴょこ隠れるわけですから、こんなにやっかいなのは、なかなかいないです。ところが、モエギハゼは先月のこのコーナーで紹介したハゴロモハゼと同じく、@渋い体色、Aピンとのびた第一背鰭、B趣のあるネーミングと、これまた3拍子そろっていて、全くもって好みのハゼなのです。ただ、何回もいうように生息水深があまりにも深いので、ポイント、時期、ガイドさん、全てを選べないとじっくり撮影できる機会には、なかなか出会えません。
 写真の個体は石垣島で、ディ〜プに松村さん/ブレニーDSと潜ったときに撮影したものです。彼らがいる水深からすると、一緒に潜ったこのポイントは比較的浅く、また個体数もかなり多いところでした。潜った時にはまだこのポイントには名前がついていませんでした。その後、松村さんがゲスト(僕たち)と初めて潜ったその日の日付から、そのポイントの名前はこんな風になりました。

 「泡盛の日」。

 これまた「モエギハゼ」に劣らず、味わいのある名前だと思いませんか。