My Fish Library (第13回 2006 / 07

ホホカギの一族

〜 忍者大集合 〜

   久々登場のこのコーナー。今回は「ホホカギの仲間達」を紹介したい。Gallery_Gobiidaeにも2種類の写真をだしているが、特集なので“全員集合”である。
 ホホカギの名前の由来は頬の後ろのほうに短いカギ上の突起があるところから来ている。ここで紹介する4種のハゼはすべてその特徴を有していて、すべて1つの属になると考えられている。ただ、「ホホカギ」という名前は、正式な名称ではなく、現時点では「ハゼ科の一種」である。

 

 泥地に棲むハゼたちは、ダイバーの気配を察するのが非常に上手で、相手のほうに顔を向けようとした瞬間に消えてしまう。かと思うと、彼らが姿を消すときに発生した煙幕が晴れるのを待っていると、横とか後ろとか、はたまた自分の真下とかにいつの間にか、顔を出していたりする。だから「進出気没の忍者達」という“喩え”がぴったりだなぁとずっと思っているんだけど、その中でも、第1級の忍術使いはサルハゼの仲間達で、ダイバーとの間の取り方が絶妙(ある一定の距離以上は非常につめづらい)とか、再度、出没する場所の位置が予想だにしなかったりして、本当に忍者の名前がぴったりである。また、表れる前に、泥煙がしゅるしゅるっとあがってそれからしばらくすると、もそもそっと顔がでてきたりするところも、映画やテレビ、漫画などで見た忍者の行動そっくりだ。
 もともと忍者の技、たとえば「木の葉がくれ」とかなど、動物や鳥達の行動からヒントを得たものなんだろうから、魚達のこのような行動パターンが忍者に似ているというのは正しくなくて、彼らが忍者のオリジナルというのが正しいのかもしれない。

 ホホカギの場合は、技自体はサルハゼ属ほど「それ」らしくないが、距離のとり方や変なところから顔を出したりと、忍者の名前をうけるに問題はない。加えて、らしいのが、その名前。2つの短い名詞を組み合わせが、まさにぴったりだと思う。たとえば、(古くて申し訳ないが)「赤影(アカカゲ)」とかがその代表格。ホホカギも、横山光輝さんの作品に、いかにも出てきそうな名前なのだ。

日本のハゼ」には、ホホカギは4種、ハゼ科の一種4〜7として紹介されている。西表は日本で一番のゴビーパラダイスで、ホホカギの仲間も当然のことながら、全員集合している。(なので今回の写真はすべて西表で撮影したものです。)

  トップのホホカギはナンバー7。背びれが伸びるのが特徴で、どちらかというと内湾の奥、水深も深めに棲んでいる。Gallery_Gobiidaeにも、おそらく同種と考えられる個体の写真を出しているが、こちらはバリ・マッドベイの水深-20mで撮影した。たぶん、老成魚ではないかと思うくらい、サイズ的にも大きくて迫力十分だった。おしりのほうから、するするっと隠れていったが、まさに「はまり技」。

 
  左のホホカギは、ナンバー5。
4種の中ではもっとも湾奥に棲むのではないかと思う。彼女に出くわしたのも、相当な湾奥のポイントだった。ナンバー7と同じく、背びれが伸びるタイプだが、写真の個体はメスなので、ちょっと短めだ。特徴は、その伸びている部分が縞状になること。見た感じはナンバー7よりは、優しい感じがするので区別はつきやすい。
 棲んでいるのは結構浅くて、彼女を撮影したのも-
5mくらいだったと思う。カイメンやゴミなど何か隠れるものがあるようなところに、ひょこっと顔を出しているようだった。4種のなかでは比較的警戒心は弱いほうではないかと思う。
 西表でホホカギの仲間をみていて面白いと思ったのは、棲み分けがきちんとできていることだ。4つとも内湾で泥っぽいところがすきなのだが微妙に奥だったり、外だったり、水深も浅かったり、深かったり、同じ場所に複数種がいるケースはほとんどなかったと思う。泥のやわらかさとか潮のかかり具合とか、やっぱりいろんな要素があって棲む場所をかえているんだろうなぁと思う。

 
 

 
  3番目に登場するのは、ナンバー6。
4種の中で、唯一、背びれが伸びないタイプだ。ナンバー6は奄美大島にもいて、Galleray_Gobiidaeにもすでに登場させている。ただ生息水深については、奄美大島は大体-20mよりも深いところなのに比べて、西表の場合はもう少し浅いところから見ることができる。
 背びれが伸びないので、多少、地味な感じがする。まあ、「白影」っていったところかなぁ。(笑)
  彼も、独自の距離感をもっていて、目があわなくても、その距離の中に入ると、すっとガレ場の下に隠れてしまうことが多い。サルハゼと同じく“結界”を持っているということかもしれない。
 そして彼も、周りになにもない泥地や砂地にポツンいることはなく、何か隠れるものが近くにあるところにいる。これはホホカギ4種に共通する特徴だと思うが、サルハゼの一族は、これとは異なり、泥場にポツンといることが多い。身につけている「技」のレベルが高いところからくる自信の表れなんだろうか。
 

 
 
 
  それでもって、最後に登場するのはナンバー4。
ナンバー7は見た目派手だけど、ちょっとグロい感じがするから、「黒影」だ。そして、一番のヒーローである「赤影」はこのナンバー4ということになる。(もうかなり話がシニアな領域になってしまって申し訳ない・・。)
 ナンバー4は、地味なホホカギの中では、一番派手目で、なぜなら、ピンと伸びた背びれの付け根に黄色い斑紋があるからだ。(まあ、それでも相当、地味なことに変わりはないのだけれど)
 それから、棲んでいるところはこれまでの種類と比べると、内湾の中でも外よりかなぁという気がする。ただ、結構、奥まったところにもいる場合もあったので、一概には言い切れない。そして、どちらかというと深場の魚、である。頻繁に撮影していたところは、結構深かった。と、思う。
 ちなみに、下の写真は、ナンバー4のメスの写真。背びれの伸びるタイプのホホカギも、メスはそれほど背びれが伸びることがない。ともすればナンバー6と間違えそうになってしまう。
 
 
 
 
  ホホカギは、普通のダイバーからすれば、本当に地味な外見なので、今回は特にオタクネタになってしまったと思う。ただ、泥ハゼフェチからすれば、正式な名前はついていないけれど、ひとつのグループであるにはほぼ間違いなくて、それがある人たちの間では「ホホカギ」って呼ばれている・・・。なんだか、自分だけが、特別な秘密を知っているような感じがして、こころくすぐられてしまう。
  問題は、ナンバー5のオスだ。メスだと背びれが短くて、その特徴となっている、長く伸びた背びれの縞々がいまいちわかりづらい。それにビュンと伸びたオスのほうがやっぱりかっこいいし。
  ただ、 ナンバー5は一番、奥まったところにいるので、彼がいるところに潜りにいくチャンスを作るのが、これまた大変なんだよなぁ・・・。
ま、でも課題はモチベーションの源泉なので、忍者の物語はまたまた「続く」ということだ。
 
   
ホホカギ ナンバー5のメスのアップ
(ね? 一応シマシマでしょう?)