心のままに

冬が来るよ

秋も深まった晴天の一日。
 かさこそと落葉の音を楽しみながら歩いてみた。
 赤や黄色 薄ピンク色のキャンディーを散りばめたような道。
 季節の移りを目で確かめ 冷たくなった風の色を肌で感じながら。

 一枚、二枚と綺麗な葉を拾っていると 何かが頭に降ってくる。
 ふと上を見上げる小高い公園。
 きゃっきゃと歓声を上げている子供達。
  どんぐり攻撃。
 下を歩く人達を目がけて 当てっこしてるようだ。

 こういう場面 どこかで見たっけ。
 あれは何十年前のことだろう。

 小学校に通う道の傍には まだ田んぼや川があり 二十分程の道のりは 四十分にも
 一時間にもなり親や先生達に迷惑をかけたものだ。
 
 春にはレンゲやタンポポの花輪を作るのに夢中になり 遅刻したことは一度や二度では
 ない。
 そんな時 担任の先生は 優しく睨みながら
 自分の頭に花輪を乗せていたっけ。

 宿題はしない代わりに ポケットにザリガニをちゃんと入れての登校。
 それでもあの頃の子供達は 得意だった。
  
 夏には何故かトマトをかじりながら 登校している子もいた。
 今 考えてみると どこかでちょっとした「朝の泥棒」をしてきたのだろう。
 悪びれずにかぶりついていた 美味しそうなトマトの汁とその子の汗を覚えている。
 私もあのトマトが食べたい と思ったのを覚えているという方が正しい。

登下校の道に一箇所 低学年の子や女の子が小走りに駆けて行く場所があった。
 ○○学園という 今でいう 少年達の更正施設があった。
 同じ子供なのに 親と離れそこで生活している彼らは どこか自分達と違うのだと
 幼いながらに理解できた。

 学園は小高い丘の上にあり 私達が通る道の上に ちょうどその庭が見える。
 掃除時間、自由時間なのだろうか 登下校の時間と重なる事がある。

 時には石ころが投げられ問題になった事もあり 親や学校側の心配が私達に必要以上の
 恐怖を焼き付けたのかもしれない。
 箒や上靴が落ちてくることもあったし 何か大声で叫んでいるのが怖くて 走り抜けたのだ。

 ちょうど今日のような秋晴れの日、仲良し3人組の長い下校道。
 ススキを取って振り回しながら その道を息を殺し通り抜けようとした時
 ばらばらと上から何かが落ちてきた。

   「小石よ。」
         「走って逃げよう。」
                  「学校に戻って先生に 言いつけよう。」

 逃げて行くその手前手前に ばらばらと落ちてくるものをよく見てみると
 それは どんぐりだった。

    「どんぐりだ。」
 大きなどんぐり 小さなどんぐりの中に爪楊枝を刺した どんぐり独楽も混じっていた。
 私達は顔を見合わせ くすりと笑ったような気がする。
   
  怖い気持ちはどこかに消えて
   私達はススキを大きく振り回しながら 彼らに答えた。

 すると下を向いてずらりと並んだ頭が 一斉にこちらを向いたのだ。
  そして 同じようにススキを振り始めた。
 同じふさふさの優しいススキが揺れていた。
 
 初めてかわす合図と合図。

   秋だね。
     ススキが綺麗だね。
          どんぐりをたくさん集めたよ。

 そんな会話が 聴こえてきそうな「どんぐり攻撃」

 同じ季節を感じていたんだ。
 同じ色の秋。
  そして もうすぐ冬が来ることも。

 今 その小道は舗装され大きな道に変わっていることだろう。
 そして その学園もどこかに移転したと聞いた。

 セピア色の光景を懐かしく思い出しながら
 私はふと公園を見上げて
   「こら〜!」
 と言う代わりに手を振ってみた。

 悪そうに見えた ずらりと並んだ、いがぐり頭がこちらを向いて 可愛い笑顔に変わった。

  秋だね。
    そして  
       もうすぐ寒い
          冬が来るよ。

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