心のままに

    ヘッドライト

                   夕暮れの道路
              連なったテールライト

         渋滞する時間帯ではあるが それにしてもこの渋滞
             「何があったんだ?」
                 「事故なの?」
                   「全くね こっちは急いでいるんだよな」
            誰もが 家路に そして何処かへ急いでいる時間
          ちょっとしたその時間さえ 敏感になっている忙しい人間がいる

                老犬が車にはねられ 動けなくなっていた
                    よく見る光景 
               またか・・・ 

           はねられたその老犬には 気の毒だけれど 
                    「ったくな  犬一匹でこの渋滞かぁ」
                      「他の車にぺちゃんこにされたら 可哀想ね」

           そして その物体を避けて ほっとする
         それが ほとんどの人の せめてもの横たわっている老犬への 気持ちかもしれない
              クラクションがけたたましく 鳴る
          その時 ある車から若者が降り その老犬を道の端に運んだ
                車の流れは 何事もなかったかのように 流れ始めた
               皆が また それぞれの忙しい目的地に向かう

          「ぺちゃんこになるなよー」
            「全くね  時間損しちゃった」

       しかし その老犬は かすかに息をしていたのだ
          その茶髪のピアスの若者が 血だらけになった老犬を見捨てる事なく
                 寄り添った
       その姿を見て 後続車から降りてきた人 通行人が立ち止まる
                    (世の中捨てたもんじゃないわ)

           携帯で動物病院に連絡をとった茶髪君
                     「手術は お金がかかりますよ」

            本当に動物の命を 心配してくれた先生に連絡が取れたのは
               しばらくしてからだった
                 「とにかく 至急連れてきてください」

               今 この命に対する連携で
                 確かに繋がっている人間関係がある
              それは この瀕死の老犬を通して繋がった

              その場で カンパを率先していた若者
             (君の方が カンパしてもらったら?って 感じだったけれど・・・)

                   自分の綺麗なコートを そっとかけてあげてた女性
                お金持ちのペットでなく たかが道でぺちゃんこ寸前な
                 飼い主も解らない老犬の命を 時間外に待っていてくれた獣医さん

                    命の輪が繋がった
 
            みるみるうちに そのお金は集まり
                          その瀕死の老犬は 助かった


               新聞記事で すぐに現れた飼い主は 
               食堂を営む老夫婦で
                       「たろうちゃん」  
              「温かい人達に触れて 帰ってきたんだね  良かったなあ」
             たろうと その若者との交流は続いているらしい

                     「諦めないでよかったな  たろう」 
                 いつも そう声をかけているらしい
               その茶髪の彼は 競艇選手

                    その老犬を救った事で 地方紙に掲載され
                 今まで その仕事での活躍はなかったのにも関わらず
                  協会から たろうちゃん救いで表彰された

             彼にとって 協会からの表彰は どんな気持ちであったであろう
                輝かしい優勝の表彰とは 違うのだから
                  名もない選手が たかが老犬の命救いでの表彰か
                       そんな声もあっただろう

                      「諦めないでよかったなぁ」

               それは 老犬への優しい思いであり
               そして 自分への言葉であるに違いない

           選手として 栄光を浴びるのも間近だろう

                  たろうは
                     こう言いたいってさ  

                 「最後まで諦めなくて よかったな! 茶髪」


            今夜も テールライトが繋がる 道。。。

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