心のままに

       名画

          その日は春のお彼岸の中日
         連休で すっかり皆がくつろいでいた時間

        寝坊を楽しみ お気に入りの珈琲豆をミルで挽き その香りに贅沢な時間を
        楽しんでいた時間

             ごーーーっ!?

         っという聞いた事もない音と共に私は揺れた
                「あれ?貧血かな?」
      もっとも貧血など経験した事もないけれど・・・

      そう思った瞬間に 立っていられない大きな揺れが襲ってきた
        それでも いつもは憎たらしい息子を 無意識に探していた
       少々音がしようが そして起こしても絶対起きない子供が 飛んできた

       大きな恐怖の時間は 何十秒かのはずだったのに 何時間にも感じられた

            先日の 福岡西方沖大地震である
              「地震空白地帯」 それがこちらの人には定着していた
           それが見事に覆された

          阪神大震災 そして中越地震 お気の毒だと思っていただけだったかもしれない
           自分を感じた
          誰もが自分に降りかかってくるとは 思っていない
             だから皆が 生きていられるのかもしれない

        それは 地震というものだけではない
      大きな恐怖は 生きている人間をいろんな意味で包んでいるのだと
         改めて感じた
         それは自然とのやり取りだけでなく 人としての憂いも含んでいるから
         突然の病魔かもしれない 事故かもしれない
       あるいは 愛する人との別れかもしれない・・・
      しかし それを意識しながら生きている訳にも いかないから
          生きていられるのかもしれない

         しばらく呆然と座り込んでいた時間が どのくらいだったのかは
          全く解からない
               両親は?
                       親戚の者は?
                                 お友達は?

          すぐに私の安否確認の電話をしてくれた友人は いつも亀のように鈍い人だった
         そして私がこれでも 案外 繊細だと知っている友人はすぐに 
               「生きてるか〜?」
          そう笑いながら訪ねて来てくれた
         彼女の足が震えていたのを 今 思い出して感謝している

        それから 携帯電話もライフラインも不可能になり 不安ばかりがつのった
         やっと連絡が取れて ほっとしている瞬間にも襲ってくる余震
                 硝子の雨が降った天神のビル
                                 亡くなった方・・・
         そして 多くの人が家を全壊 半壊されて非難せざるをえなかった被災者達

       自然の驚異になす術もない 小さな人間がおろおろしている
 
        震えながら 大事なゲームと漫画本を入れたリュックを背負って何日も
         ベッドにうずくまっていた息子
         (テキストの1冊くらい入れてよね)

       4日後 震えてばかりいる私に 
           リュックを背負ったままの 震えてる子供が言った
            「これ わりと面白いDVDだよ 貸してやろっか?」
          あれ以来 まともな食事も作る事なく ただ 震えている私に?

        観てみると 全く知らない それも何が面白いのかと思う映画だった
         何だか ひたすらに笑いを強調してるだけの映画

         その映画を観ながら 余震での涙か何の涙か解からない涙を
          ぬぐう事もしなかった自分を今 遠くから見ている
         ただ ひたすらに笑いを誘う映像を 見つめていただけの自分がいた
         内容が無かったのが 救いだったのかもしれない

         今も 余震が続く中で 自分のくしゃみに飛び上がっている私
         そして 相変わらず ゲームで重いリュックを背負って眠る子供

        災害を怯える事なく 皆が体制を整える時期なのかもしれない
       そして たくさんの犠牲者の悲しみを ある意味で大きな災害対策として
        見直す事に期待したい

        ある人が言った
         「天変地異の始まり」だと・・・

            そうかもしれない
           しかし 生きている自分がいる限り 仲間がいる限り
                    感じていたい 
                           いろんな色を
                私は思う

         自然が咲かせる桜を楽しみに している自分が大好きだと・・・
           自然は 怖くもあり 
                  そして 優しい

                あの 面白くもない変な映画は
                       最高の映画であるだろう
                         私にとっては名画だったと・・・

               そして 忘れられない変な映画を
                      一生忘れない事だろう

                              あの名画を

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