心のままに

    いのち満点(棘)

             テラス庭の薔薇の手入れをしていて
               ふと刺さってしまった棘

            しばらく取る事もせずに ぼんやりとその人差し指を
              眺めている私

            (あれ どうして まきさんがいるの?)
           103年間 笑顔を振りまいてきたまきさんが 急に引越しを決め
            へび皮のバッグ片手に行ってしまったのは 昨年だった

              幼い頃 やはり 祖母のお庭の見事な薔薇に
              顔を近づけ 花びらの数を
                「一ま〜い 二まい・・・ 五ま〜い!・・・」
            薔薇の花びらを数えるなんて やはり私は どこか変わっていたのかしら

               そんな私に祖母は
                  「おまえは本当に賢いの」
                        「優しい心を持っとるけんの・・・」
              そう言って頭を撫でてくれた

            得意気に また数えているうちに
             チクリと足に痛みが走った

             根に近い棘は大きく 小さな足には充分過ぎる痛みだ

           「棘はな これからもたくさん 刺さるんじゃから」
                「抜いてもな いつかひょっこり痛む棘もあるけんの」

              (へぇ そんなにたくさん刺さったら痛いだろうな)
                 (薔薇には気を付けようっと)

             思えば 祖母はいつも私を誉めてくれた
             人が笑うかもしれない変な絵でも
                逆上がりが半分だけ出来た時も・・・

              全てを一蹴するのではなく 何かを認めてくれた彼女の大きさに
                 今 つくづく感謝している

               それは叱られる時の基盤になった
              誉められ 認められる事を知っていたからこそ・・・

              誉められた事のない子が いつもいきなり大人の威圧感で
              叱られたら その叱れらた意味よりも
               その小さな心に 何が残るだろう・・・

           私は刺さった棘を すぐに抜いてしまうのが
             もったいないような変な感覚で 遠くの事を思い出した

               

              小学一年生のクラス写真に 私の隣にいる女の子
               隣りなのに 妙に離れているのだ

                  貧しい家の子だった
               いつも同じボロボロの服を着ていた

              不自由なく 両親に甘えていた私には 不思議だった
               私は 買ってもらったばかりのワンピースでご満悦の顔
               隣りにいる女の子は すまなそうに写っている
               右にいる私とも 左にいる友達とも距離を 置いて・・・

             私は 逆の友達にぴったりと寄り添っている
               そのアルバムをめくると
                 大きな棘の痛みを感じる

              (どうして あんな意地悪をしたんだろう)
                 遠い棘の痛みが 今頃 疼いている

             その幼い女の子の 棘の痛みを考えただけで
              私は あの時には感じなかった痛みを感じる

                (痛かったでしょうね)

             まきさんなら 何て答えるだろう

                  私を責めるだろうか
                        責められて然り・・・

             いや まきさんなら こう答えるだろう

              「今になっても 痛んでくれて 良かったのぉ」

                     まきさん 
              私はこれからもふとした瞬間に 思い出す棘の痛みを
              大切にします

                 私は 人差し指の棘を  
                     やっと
                        そして ゆっくりと抜いた・・・


                  薔薇の花びらでも 数えてみよう
                     痛くてよかった
                        棘の痛みを忘れてなくてよかった

                               いのち満点

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