心のままに

  我らが大将

            私のちびっ子時代。

昭和40年代、日本は豊かな国の仲間入りを果たし、
更にあらゆる意味で大きく飛躍しようとしていた時代。
全ての人が輝く未来を見つめようとしていた 時代。

     キラキラした目の子供達が いたっけ・・・
     いつの時代にも 悪そう坊主がいる。

私のちびっ子時代の思い出は あるガキ大将の顔で始まる。

私達の仲間の中心 正太は当時、いわゆるガキ大将であった。
誰かを中心とした、縦割りの社会が当時の子供達の中には 存在したのだ。

乱暴者で 気が強く、自己中心的に見えた彼に不思議に皆がついて行った。
男女、年齢関係なく 不思議に彼に引っ張られるように・・・

時には、おやつの蒸かし芋やドーナツを略奪されて 
半べそかいていた子もいたし
ザリガニのえさのイリコはというと とっくに彼の口の中で泳いでいたなあ。

    隣町の子供達の群れが 公園に遊びに来ると 
   隅っこの砂場だけ開放する代わりに
   グローブとボールでさっさと キャッチボールを始める。
時には 殴り合いが始まり、私達女の子は 
こわごわと木の陰で見つめていた瞬間があった。

                 強い!!

           とにかく彼は強かった。
そんな彼に向かっていく者は 鼻血覚悟の勇気ある子達だけだった。

当時 豊かな方向に落ち着いてきたとはいえ やはり貧しい家庭もあった。
正太の家も 決して裕福とは言えず、彼より年下の、
しかし彼より体だけは大きい子のお古を貰って
堂々と しかも当たり前のように着ていた。

私達は そんな大将を中心に 毎日 日が暮れるまで、
どぶ川や空き地や公園でどろどろになって遊んでいた。

        「女の子なのに いいかげんにしなさい。」
        そう 叱られていた私。
  日が暮れるのも忘れて 母が迎えに来ると、叱られる事覚悟で帰って行った
       暖かい母のおでんの匂いがしたっけ。

そんな中で、一番 懐かしく郷愁を誘う思い出がある。
多くの昔のちびっ子が 経験あるであろう、自分たちの基地作りである。

竹やぶの空き地に せっせと正太の命令で ダンボールや枯れ木や石ころを集めてきて
自分たちの基地(城)を作ったのだ。

枯れ枝は ダンボールの家の柱となり、どこで拾ってきたのか 
ミカン箱は机となり、空き缶は煙突になっていく。
女の子達が家から持ってきた ボロ布はカーテンと化し、
割れたどんぶりはメダカの水槽に変身だ。

                出来た。。!!

       皆の歓声の中 大将が叫んだ。

       「あっくんを 誰か呼んで来い!!」
そうだ、そう言えば あっくんがいない。
いつも私達の仲間にいるけど いない、あっくんだ。

彼は生まれつき、足に障害があり 皆と同じ行動ができなかったのだ。
正太を中心にした 遊びは行動的なものが多かったから、
あっくんはいつも皆の傍にいたけど、見ているだけだった。
いつも 同じスケッチブックとクレヨンで 何かを描いていたっけ。

そんな彼に 大将は冷たかった。
    「お前は足が悪いから 野球チームには入れてやんないぞ。」
         「魚釣りは 川を渡れないから 駄目だ。」
雨の日も、わんぱく達には関係なかった・・・

誰かがあっくんを呼んできた。
相変わらず、ボロボロのスケッチブックと、
何故か、赤と黒だけ極端に短くなったクレヨンを抱えて
    ゆっくりと(いや、彼なりに急いでいたに違いない)やってきた。

正太は目配せで あっくんに中に入るように命令したのだ。
あっくんが そろりそろりと 怯えるような様子で入ったとき、大将が言った。

        「雨の日は お前はここで留守番だ!」
           「皆が帰るまで ここでこの城守れ!!」
                       「絵でも 描いてろ。」

メダカがいて まがりなりにもテーブルがあって 漫画本もあるお城だよ。
皆が 持ってきた飴玉が入った 汚いキャンディーの瓶もあるね。

              とたんに 雨。。。
      泣きたいのは 僕だよと言っているような目のあっくん。
        今までの涙ではない な。み。だ。

正太は あっくんをちゃんと仲間にしてたんだ。
幼心にも 理解できた私達。

陰湿な虐めが続く現代社会の 子供達の世界は 悲しいものがある。
陰湿な彼らに、社会に 今、大将は何と言うだろう・・・

糞真面目に お説教するとも思えないし、虫唾が走る言葉も吐かないでしょう。
言うとすれば

           「鼻血覚悟で 俺にかかって来い!!」
               我らが 大将!!

                「おいらの勝ちさ」

エッセイトップへ