心のままに

  クリスマスの天使

          この時期になると ふと目がいく
           古ぼけた小さな車の おもちゃ

           あれは 子供が幼い頃 クリスマスを目前にしたある日
           運悪く 肺炎と診断され 入院した事がある
            肺炎とはいえ 命に別状はなさそうで
             念のためと言うことだ

                  ほっとしたら 思い出した

                    万歳〜 !
               今年は ローストチキン焼く手間も省けるぞ・・・

           とある大学病院の 小児科病棟の一室
          小児科らしい明るい部屋に たくさんの小さな戦士達
              点滴の図太い針がずれて 泣いてる子
               お腹の手術の跡が 痛々しい子
                 甘いものが食べたいと ごねてる女の子
                何故か 注射をたくさんして欲しいなんて 
                変わった男の子もいるな

           そんな中 隅っこで帽子を被って 早めのプレゼントなのか
            合体ロボットで黙々と 遊んでいる子が目についた

                   名前は だいちゃんだって
                     同じ年の5歳だって
                 よろしくね・・・

            食事は どこかのホテルのお子様ランチに負けない
              私の料理に飽きた我が子は 
              微熱もあるのにぺろりと平らげている
                   。。。。。
 
           だいちゃんは昨夜からの高熱で 流石に食欲ないようだ
             クリスマスイブには ご馳走出るから
               熱下がるといいね
 
            病棟には プレイルームというのがあって
             絵本や テレビ オモチャもある
               今夜は ここでクリスマス会だ
                 点滴しながら参加の子もいる 
                 車椅子で 目だけ笑っているだいちゃん
            いつもは 怖い先生も注射は持っていないな
            そんな目のあどけない顔 かお 顔

           似合わないけれど サンタの姿で 子供達を笑わせている先生
               白衣がサンタ服の真っ赤に 変身
                一番戸惑っているのは 先生かな
              今夜は 注射の代わりに タンバリン持っている看護婦さん
                  病魔と戦う小さな子供達への
                   せめてもの優しいプレゼント

             部屋に戻ると チキンやサンドイッチのおご馳走が
              それぞれのベッドに運ばれていた
           思わず歓声があがる
                男の子には 車のプレゼントもついてるよ
                そんな小さなプレゼントだって最高の ベッドの生活

               ふと だいちゃんの叫ぶ声
                        「僕のチキンだよー!
                  僕のだってばー!」
                     え?
 
             だいちゃんはおご馳走にも 手をつけられないくらい
               ぐったりしていたから
             母親が食事を引こうとしていたのだ

               そうだね・・・
              だいちゃんのチキンだもんね
               今夜は クリスマスイブだよね
                 もう少し 皆と一緒にクリスマスやりたいんだね
 
             薬が効いてきて だいちゃんが眠った頃
              彼女が そっとご馳走を片付けていたっけ
              彼女は 眠ってしまっただいちゃんに 声かけた
           「皆とクリスマスできて 良かったね
                 おご馳走様も言わないで 寝ちゃって
            洗濯場に行った彼女の背中が 痛かった
               彼女の気持ちが 痛かった
                 だいちゃんの寝息だけが
                 まだまだ はしゃいでいる子供達の中で
                   規則正しく 流れていく

           クリスマスも終わり 年が明け
             我が子の退院がやってきた
             車椅子で玄関まで 見送ってくれただいちゃん
              もう 食べ物を口にする事もなくなっていた
               首には高カロリーの液の管 

          「退院祝いに僕の車 あげる・・・」
           そう言って あのクリスマスのご馳走についてきた
           黄色の車を手渡してくれた
            大切な友達とと そっとさよならするように
                 さんざん遊んで もう壊れかけているよ
                 それに 車輪も3個しか残ってないぞ

             「今年のクリスマスは 僕 元気になるから」
                「一緒にクリスマス会しよう」
                「僕のママのチキンも美味しいよ」
              お世辞にも我が子が 言った
 
                   何よー 
                  病院のチキンの方が美味しいって 
                  言ったじゃない・・
  
            あれから 何年経つのだろう
            我が子の机の上には 今でもあの小さなおもちゃの車
             埃をかぶっているけれど
             何故か 不思議と捨てられることなく

           クリスマスが近づくと思い出す
            だいちゃんの笑顔
             ぼろぼろのこの黄色の車                

              そうだ !              
                今年のクリスマスにでも そろそろ
                 ローストチキン食べに来ない?
                     案外 美味しいんだから。。。
                 君のママには 負けないよ

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