心のままに

                    鈍行列車



               汽車 汽車 しゅっぽ しゅっぽ

             幼い女の子が きちんと靴を下に並べ(並べさせられ)
        後ろ向きに だんだんと変わっていく風景に目を輝かせながら
         歌っている

            飽きもせず 何という事もない景色
             それでも 少しずつ どことなく
    (そう  舐めるとだんだん色が変わっていく キャンディーのように)
              変わっていく田舎の風景 を眺めながら・・・
             のどかな町並みが 静かに流れていく

  今や日本の新幹線と言えば 世界でも最高水準の域のスピード
   一分一秒という時間が 現代人を追いかけてくる
  窓外の景色など 一瞬の一点でしかなく
  行く先での気忙しい時間ばかりを考える

               「お嬢ちゃん お歌が上手ね」
              隣の座席の老夫婦の女性が微笑む
          「うん」  と私。
             得意になって だんだんと声が大きくなる

               しゅぽ しゅっぽ しゅっぽぽー

           居眠りしていた母親が さすがに迷惑だと思ったのか
            女の子の小さな口に 大きめの飴玉を放り込む
             飴玉が小さくなるまでは 安心だと思ったのであろう
              そしてまた がたんごとんと揺れる列車に
                ゆっくりと のんびりと身を任せる

 現在の日本は たくさんの物に溢れ 便利な世の中である
 家族それぞれが 携帯電話を持ち
 小学生までが 友達とのメールのやり取りをしている
  その光景が 不思議でなくなっていく 不思議さ
 それぞれの人間関係が 小さな電話一つで作られていく
 物質の豊かさは ややもすれば 
  人の心に関係なく 益々 豊かさを求めざるを得ない

               飴玉が小さくなった頃
             女の子は すやすやと可愛い眠りの中にいた
              これから会う大好きな従姉妹のとこへ
               一足先にお邪魔かな

             相変わらず ゆっくりと各駅停車しながら
             進んでいく列車

                「どちらまで?」
                   「おにぎり おひとついかが」
                      「雪がちらついてきましたね」
       
               行く先 目的は違っても 
              何気ない ほんのりとした会話が 
             何の変哲もない箱の中で生まれる
             一期一会の しかし 心と心が
               確かに触れ合う ひととき

 忙しい毎日 のんびりと流暢な事など言っていられない
 分刻みにうめられたスケジュール表が
 人より先に 手招きして待っている
  歩きながら 連絡も出来る便利な世の中
  世間の流れに置いていかれないように
   更に早足となる
 物の豊かさは 更に豊かさを求め エスカレートし
  人の心を置いてきぼりにしていく
 とどまることない自由 豊かさがなくなる事なんて
 想像もできない

              「お嬢ちゃん またね」
               「お歌が お上手ね」
          そう言って老夫婦は ある小さな駅で降りていく
            窓から手を振りながら

           ぼくらを のせて しゅっぽ しゅぽ しゅっぽっぽ

                携帯も何も持たず
               鈍行列車に乗って 出かけてみようか
            今度は 隣の女の子に 声かけてみようかな
             あの時の 小さいけれど大きな忘れ物
                 まだ 見つかるでしょうか

                 汽車 汽車 しゅっぽ しゅっぽ。。。。。。。

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