心のままに

   いのち満点 その2

                  103本の薔薇が 開いた
                 それぞれの薔薇に込められた 103年の命

               久しぶりに見舞いに行ったのは 爽やかな秋晴れの日
                病院の中庭に 気分の良い患者達の姿があり
                  その中に ちょこんと小さな祖母がいる
                  手には 入院患者には不似合いな 蛇皮のハンドバッグ

               誕生日を前に 何のプレゼントがいいかと聞いた時
                   「お洒落なハンドバッグがいいのお」

                    (もしかして ハンドバッグ。。。。って 言ったの?)
                103歳になって 足が弱っていて
                今更 どこへ出かけるというのだろう
                 そう思いはしたが まだお洒落心が残っている祖母が
                 可愛いらしくも思え 嬉しくもあり 
                 蛇皮のバッグを贈ったのだ

               実際は どこに出かけられる訳でもない
                そのバッグをぶら下げて 病院内をよたよたと歩く姿に
                 クスクスと笑う人もいれば 呆けているのだと
                  思う人も多いのだろう
               しかし 祖母にとっては そんなことは関係なく
                バッグの中に 何やら小物をごちゃごちゃと 入れたり出したり
                おまけに ピンクの口紅までが入っている
                 その姿は 遠足に行く前の日の子供にも見えるし
                 少女の姿にも見える

                   「最近 ハンドバッグのまきさんって 呼ばれるんじゃあ」
                     「有名人じゃろがあ」
                そう言ってまた けらけらと笑っている
                本人としては 得意なのだろうが・・・
               考えてみれば 入院中の患者が それもしわくちゃの老人が
                蛇皮のバッグをぶら下げて歩いている姿が  
                 目立たない訳がない
                 滑稽であって 当然だ
                       (そりゃあ  有名人にもなるわ)

                そして彼女が大嫌いなのは 他人から
                 「おばあちゃん」と呼ばれる事である
                 先生方にまで 「まきさん」と呼ばせているから
                  あっぱれである
               前に 担当の先生が変わり 回診に来られた時
                「おばあちゃん いかがですか?」
                    ・・・・不安は的中した
                知らん顔して ぷいと横を向いたままの祖母
                聴こえないと思ったのか 何度も
                「おばあちゃん」を繰り返す先生
                   (ああ  どうしよう。。)
                最悪の状態というのは この事だ
                     「わたしゃ ちゃんと○○まきって名前が ありますけん」
                      「先生のおばあちゃんじゃないですもんね」
               苦笑いをしている先生に 私は心で謝った
                前の先生から「20歳のお尻だね」と
                誉められたことまで 新しい先生に報告している
                     (それって 今度の先生に強要してるのと同じよ)
                案の定 
                  「新しい先生も まきさんのお尻は 20歳ですねえ と
                   毎回誉めてくれる」 と自慢している
                     (やっぱり あっぱれだわ)

                私が帰る時 どうしてもエレベーターまで送ると言う
                 そして また何やらをバッグに入れ 手にぶら下げた
                     「枯れ木に花を咲かせましょ♪」
                           (え?なあに?)
                      「枯れ木に花を 咲かせましょ♪  咲かせましょ〜♪」
                 そうか。。。
                人間として 女として たくさんの歳を素敵に重ねてきたんだね
                 そして 老いた自分を知っているのは 祖母自身なんだ

                   「今度 牛肉の煮付け持ってきておくれ」
                    「この病院 ケチで 魚ばかり出てくるんよ」
                         (そんなに大声で 言わないでよ・・・)
                        (それに お年寄りに毎日お肉出てくるわけないでしょ)
                 そう言って バッグの中から これまた不似合いな
                 薔薇の綺麗なハンカチを2枚 出して
                 その1枚を
                     「有名なハンドバッグのまきさんとお揃いじゃあ」
                  私に手渡すと くるりと反対を向いて
                  病室へ  よたよたと向かう

                バッグをぶら下げた後姿に
                 私は心の中で 声かけた
                      綺麗な木に花が 咲いてます♪咲いてます♪
                私も いつまでも素敵に歳を積み重ねて行くわ
                  貴女のように
                 堂々と 今の自分と向き合うわ
                  毅然と生きていくよ
                 見舞いに来て いつも心のお土産をもらう私
                    お揃いのハンカチ
                      ありがとう
                       バッグのまきさん

                          いのち満点

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