心のままに

   迷子のランドセル

       我が子が 一年生になってまもなくの事である                         

              ピカピカのランドセルの後姿に
              どこの親も願うであろう 
           幸多かれと  
            無事であれと・・
              祈る

       その日は 帰りが遅く心配していたが
       元気な声の「ただいま〜」
       ほっとして 玄関に迎え出ると
         何となく どこだか解らないが雰囲気が違う
         しばらく 観察していて気がついた
            ニコニコとしている子供の背中にあるはずのランドセルが 
             ないのだ
          代わりに 不思議な毛むくじゃらの足のようなものが見える
                 ・・・・・・・・・

           子供の後姿を見て ぎょっとした

        何と 大きな足の子犬が 小さな背中にあったのだ
        子犬は セントバーナードの子のようだ

            「 ラ  ランドセルは〜?」
                  「ん? 知らない〜  僕」
                  「ああ  重かったなあ」

           「知らないって 朝はランドセルで どうして帰りは犬なのよ〜?」
        ついつい 大声になる

       キョトンとした その大きいけれど まだあどけない子犬は
        安心したように 小さな一年生に平気でおぶられている
        大きさは 子供と同じくらいなのに 我が子を母親とでも
        思っているのだろうか
         一年生は ハアハアと息をきらしているというのに・・・

           訳の解らない空間に チリリンと電話がなる
           担任の先生から
             「ランドセルの忘れ物ですよ」
                はぁ・・・  

       いらいらする気持ちを押さえて 子供の話を聞く事 
        30分・・・
      どうやら 公園で見つけたらしいその迷子の子犬と
       遊んでいるうちに 放っておけなくなったらしい
      ランドセルと どでかいその子犬の両方を家に運ぶ事は 
       さすがに 無理だと思ったのであろう
      わざわざ教室まで 大切なランドセルを置きに戻ったというから
      変な子である
  
       それから 派出所に届け 飼い主はすぐに見つかった
       でっかい子犬は 尻尾を振り振り飼い主の腕の中に飛び込みたそうだ
           いい気なものね
        しかし 子供は手放そうとしない

            それより  ランドセルだ
            高かったランドセルが問題だわ・・・  
    
          「早く取りに行きなさ〜い!」
        まったく ランドセルの代わりに子犬を背負って帰ってくるなんて
         聞いた事もないわ      

        イライラしている私に 涙の子供が言った
           「僕のランドセル 迷子になってるね」

           ・・・・・
           はっとした
         優しい視線で一年生に答えられなかった自分に
          やっと気付いた
    
             うんうん  わんちゃんもちゃんとお家に帰れてよかったね
              ランドセルも教室で 待ってるよ

         今日は ランドセルもわんちゃんも 迷子になったね
          これからの 君の人生
          何度 迷子になる事でしょう
             迷子になっても 
                 ちゃんと 帰っておいで
           待ってるよ

              「先生が 待ってるよ」
         やっと笑顔が戻り 一目散に学校へ走って行く
         帰ってきた背中には 朝と同じピカピカのランドセルがあった
          その満足そうな顔は 大切な私の宝物。。。

         やっぱり ランドセルが似合うよ
          わんちゃんよりはね・・・
          君の背中は 小さいけれど
           大きく見えた時間
              君の背中に負けた日。。。


          今も その背中 大切にしてますか?
              迷子になっても 戻っておいで・・・
                わんちゃんは 背負って来ないでね

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