一粒の苺に ありがとう。

心のままに

「苺が 食べたい!」

 そう、病室で甘えた叔父の顔が 少年のようだった。

 え?
      季節外れの苺かい?

私は それでも デパートや 高級果物店を回って、何とか 苺を叔父に
食べさせたかった。

 
「苺の季節は とっくに過ぎましたからね〜」
  解ってるわい・・・

 「11月にならないと 店頭には並びませんよ」
    当然ですね・・・

 どこにも苺は なかった。

 笑いものにされてもいい。

私は あるデパートのフルーツ専門のお店に思い切って電話で しつこく聞いてみた。
だって ケーキ屋さんには 季節を問わず ショートケーキの苺が可愛く飾られている。

しかし 答えは同じ、
 「この季節に 店頭に苺は並びませんよ」

 そうだよね・・・と 思いながら 一瞬 かなり、がっかりした私の声を 不思議と思ったのか 
その担当者が聞いた。

 「苺が どうしても必要なのですか?」

余命 いくばくもない叔父に 私は苺をたべさせたかっただけであり、

 「いいえ。
  必要でもなく ただ季節外れの苺を見たい人がいるだけで。
 ご迷惑を おかけしました」

私は 詳しい事を言うこともなく 電話を切ろうとした時

 「デパートの店頭には 並びませんが 仲買さんに連絡して 折り返し
 お返事します」
 
 「夏苺か 輸入物ですがね・・・」

       わ〜お!

そして 次の日

叔父は 苺を嬉しそうに眺めながら
 「あんまり可愛くて 全部 食べるのはもったいないね」

 利益もないのに わざわざ デパートに届けてくださった仲買さん。
たった一パックの苺を 丁寧に渡してくださった心優しいデパートの担当者の方・・・

 叔父はつい先日 天国へと旅立った。


一粒の苺に込められた たくさんの人達の優しい心に
       ありがとう。

一粒の苺しか 食べれなかったけれど・・・
  嬉しい笑顔を  ありがとう。

  でもさ・・・


 どうして

  苺だったんだろう。


いつか 叔父のいる世界に行ったら
 聞いてみたいと思っている。。。

苺に どんな思い出が あったの?
 聞くのを 忘れてたわ。

2010年7月

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