心のままに    
                                   恋してる?

       その日のお昼過ぎ 突然、電話の向こうから 彼女の張り切った声が届いた。

                     「貴女、どうせ しばらく暇してるでしょう?」

                 (私だって 暇でもなく 仕事もあるし
                          最近 いろいろあるのよ・・・)
                (それにね・・・・)   

           言いかけた言葉を遮る彼女の迫力に
              無駄な抵抗をするのは損だと感じた私は 
              受話器を遠くに 離しながら・・・・
                しばし 聞いていた。。

              「今夜ね しょうやんのライブがあるの〜♪」
          「その後 ワインでもご馳走するからさ。 じゃ  6時に例のとこで」

       私は別に 伊勢正三の大ファンでもなければ  彼女からも そういう話を聞いたこともない。
       確かに 彼の優しいフォークを聴きながら  癒された青春時代があった。

            ライブでの彼女は
          大声で 
            「しょうや〜ん  しょうや〜ん!  大好きよ〜〜!」
                 「私の恋人 しょうやーーーん!」

         彼女は 私が知っている限り  優等生で  皆の憧れでもあった。
         いつも綺麗な顔に皺をよせながら
       法律の勉強をしていた彼女の 変貌振りは
            どこから来るのだ?

                        (もしかして 欲求不満?)
             余程 そう聞いてみようかと思った。
         が・・・

           「しょうや〜ん  愛してるわよ〜!」

      体型もすっかり堂々と変わった彼女の 黄色い叫び声に
               私は ただただ妙な汗を拭っていた。

          隣りにいる私は 他人の振りをしながら
        昔 怖い寮長をしていた彼女の姿を 思い出していた。

           「貴女ね ぼーーーとしてないで きちんとお片づけしなさいよ」
         「試験は近いのよ。ちゃんと単位 取れるの?」
  
        確かに私は ぼーっとしていたけれど・・・

           あの頃は 同級生ではあったが
        甘えっ子の私の 何歳も上の怖いお姉ちゃんだった。
 
                              ♪♪〜 ♪〜 ♪♪〜  ♪〜

                      「恋を してるの、私」 

              (へ?恋・・・)
 
              「誰に 恋?」
                      「今は しょうやんに決まってるでしょ。」
        (恋か・・・)
               (今はって ころころ相手 変わる訳?)
  
       確かに私の103歳で亡くなった祖母も 最後まで恋をしていたな。
                  担当の孫のような医者にね。

              いつまでも恋する事って 素敵かもしれない。

            今度、彼女から電話があったら

                   「私も恋をしているの。」
                  そう言おうと思っている。
            何だか 楽しくなってきた。

        今度 彼女に会った時 彼女の恋人は
        しょうやんとは思えないし
          韓流スターかもしれないし

        あるいは ちょっぴりお洒落なカフェで出会った 
            シルバーグレーの小父様かもしれない。

           私も 憧れの人に恋をして
               威張ってやろう、と思っている。


           当分
              合言葉となりそうだ。

        素敵な言葉を思い出させてくれた
                彼女に 感謝している。

                                        恋してる?

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