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弥縫策としての麻生氏
(共同通信 2008年9月23日)

 前回の福田康夫氏対麻生太郎氏の自民党総裁選では、旧来の派閥政治が力を回復したように見えた。今回の総裁選では、あたかも経済政策を巡る新たな「派」が優劣を競うかのような印象が与えられた。

 だが、今の自民党には団結を誇る内部集団などない。小派閥の乱立と大派閥の内部統率の弱さから見て、派閥が弱体化していることは明らかだ。かといって、積極財政派、財政規律派、構造改革派といった新たな「派」は、今回の候補者の乱立から見ても、まだ結束力のある内部集団と呼べる水準にはない。

 新旧の「派」がともに弱い以上、流動化した議員たちは、自身の再選を最優先に行動する。総裁選のたびに、勝ち馬に乗る動きが出るのは、自民党の現状から見て当然と言ってよい。

 五人もの候補者の登場。大派閥の自主投票の決定。一年前には支持されなかった候補の当選。こうした現象は、自民党の流動化と断片化を如実に表している。

 圧勝であったとしても、麻生氏を軸に自民党が結束を強めたわけではない。むしろこの選択は、自民党の姿を取り繕うための「弥縫策(びほうさく)」と考えるべきだ。

 恐らく、総選挙を意識せざるを得ない現状では、麻生氏は手ごろな「折衷案」に見えたのだろう。彼ならば、地方の有権者や業界団体に財政出動を約束し、「よき時代」を思い出してもらうことができる。

 一方、都市部の有権者や若年の無党派層には、マンガオタクなどの「キャラ」が受けて、麻生ブームが起きるかもしれない。地方と都市、支援組織の引き締めと大衆の支持動員。麻生候補に投票した人たちは、彼が次期選挙で必要となる二面性を持ち合わせていると判断したに違いない。

 確かに、昨年の参院選では、地方を重視した民主党が勝利を収めた。だが、これは一票の格差が五倍という「格差選挙」においての話である。衆院選の一票の格差は約二倍と小さい。今度は、当然、都市部の有権者が重視されてよいはずだ。

 だが、自民党には参院選の敗北の痛みがまだ残っている。地方重視・支援団体重視の声に応えなければならない事情がある。自民党は、今回、党員投票の数を各都道府県三票に限定することで、都市部に有利な結果を生まない「出来レース」を見事に作り出した。

 これから政局が本格化する。政治家には政策が得意な人と政局が得意な人とがいるが、麻生氏はどちらだろうか。

 閣僚や党三役の経験は自負するごとく豊富だが、その発言に「政策の職人」的な明晰(めいせき)さはない。ならば政局を転換する突破力があるかと言えば、幹事長時代に首相を二人もダメにした以上、それにも疑問符が付く。麻生氏はこの点でも「折衷的」なのかもしれない。

 麻生新総裁の課題は、折衷の持つ曖昧(あいまい)さや物足りなさを明快な言動で克服することだ。彼の発言は歯切れよく見えるが、実はあまり心に響かない。むしろウケねらいの言葉遣いとぶっきらぼうな返答が目立っている。失言癖があるのも、政治的コミュニケーションのセンスに欠けるところがあるためだろう。

 一方、民主党の小沢一郎代表は、平気で口下手を「ウリ」にしている。麻生氏のうかつな発言と小沢氏の言葉不足が、次期総選挙を彩ることのないように心から願いたい。


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