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「政局力」を見極めよう
総選挙での候補者選び−状況打開できる資質があるか
(中日新聞 2009年8月21日)

 選挙における「無党派層」の重要性が増している。彼らは今や、もっと肯定的に「自立派層」とでも呼ばれるべき存在になっている。団体や組合が推薦する候補者に唯々諾々と票を投じるのではない。彼らはきちんと自分で投票すべき政党を選択しようとする。政権の在り方に影響力を持つのは、今やこうした自立した有権者たちなのだ。

 幸い、最近では各政党も有権者の自立化を意識するようになったようだ。「イメージ選挙」ではなく「マニフェスト選挙」が重要視されるようになったのも、そのためだろう。自立した有権者に対し、党の政策をきちんと説明する政策論集がマニフェストである。マニフェストを政党選択の基準にするのは、「自立派層」が増えた現代では当然のことと考えてよい。

 とはいえ、一方でマニフェストが有権者の支持を得るための宣伝文書であることも忘れてはならないだろう。マニフェストは一面では魅力的な口約束のオンパレードである。政治家が「マニフェストを読んでくれ」と言うのは、この政策集が年齢や職業によって区分けされる国民各層を個別の利益誘導でそれぞれ狙い撃ちしようとしているからかもしれないではないか。

 加えて今では、政党だけでなく、候補者の多くも「政策力」をアピールしようと躍起になっている。だが、政策の素案なら学者や官僚にも書けるにちがいない。私はむしろ、政治家については、政治家特有の能力である「政局力」をもっと評価基準に組み込むべきだと思っている。

 これからの政治家は、既得権益を廃し、官僚主導政治を変え、ゆくゆくはみんなが嫌がる負担増を実行しなければならない。いずれも大きな抵抗が待ち構えていることだろう。

 こうした局面打開には状況判断の適切さが求められる。それこそが「政局力」である。いくら政策に詳しくても、抵抗勢力に阻まれて状況打開ができないようでは、政治家としては失格である。だから、「政局力」をもった政治家をできるだけ多く国会に、さらには内閣に送るようにしなければならないのだ。

 ちなみに、「政局力」はたんなる「実行力」とは違う。「実行力」をアピールする政治家は多いが、利益のバラマキを「実行力」と呼ぶ人たちに、状況を打開する力である「政局力」があるかは不明ではないか。

 ただ、「政局力」で選べと言っても、政党中心主義に立った現在の総選挙の制度では、個々の候補者の「政局力」よりも政党の「政策力」を選択基準に据えざるをえない。一般に小選挙区の欠点は、人を選んでいるようで、実際には政党への支持で当選者が決まる点にある。小選挙区だけで議員を選ぶイギリスには、「わが党の候補者ならこの選挙区ではブタでも当選する」といったジョークがあるという。マニフェストや国会での党首討論まではまねしてもよいだろうが、選挙制度の欠点までイギリス流を模倣する必要はないだろう。

 とにもかくにも、総選挙では政治家の資質をしっかり見極めよう。政策の方向性は政党が決めてしまっているとはいえ、いつ政界再編があるかわからない。実際、政党を飛び出す政治家だっていないわけではない。

 ならば、有権者は、小選挙区の候補者についても、政局力や長期的ヴィジョンなど、政治家らしい資質の有無をしっかり問うておくべきだ。

 アメリカ大統領や幾人かの知事の例を見るまでもなく、政治における状況打開では個人の資質が大きく物をいうことがある。私は、政策という名の政治家の甘言に左右されず、将来を見据えて有能な資質をもった政治家を選び出すよう心がけようと思っている。


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