『電車男』に便乗した邦題には同情するけど、むしろこれこそ立派なヲタク映画じゃなかろうか。
確かに日本で言う「ヲタク」なら、アニメヲタとか、ゲームヲタとか、プヲタとかサカヲタとか、何かの対象に没頭する主人公でなければいけないだろう。
でもそもそも、最近はヲタの敷居がゆる〜くなりすぎてないか。安易に市民権を与えた結果、本来の毒やトゲが無くなり、つまり本質から離れつつないか。もはや本来の意味でのヲタは外国にしか存在しないのだろうか。
この映画の登場人物は、はっきりとしたアウトサイダーだ。アメリカで言えば「ギーク」族か。ヲタはその中の一種に過ぎない。
アウトサイダーをしっかり描いてこそ、ヲタの真髄が伝わる。そんな芯を感じる、ちょっとイイ映画だった。
ナポレオン・ダイナマイト(本名)。いつも口元が半開きのアート・ガーファンクルみたいな、ド田舎の高校生が主人公。
何か喋った瞬間に、軽くムカツク奴。Tシャツは勿論、パンツの中。ノートに想像上の動物を描いて、ちょっと才能ありげなつもりでいる。
自己顕示欲と自意識は強くて、基本的に他人は見下す。何かあると他人のせいにして言い訳や文句が多い。類は友を呼ぶけど、自分だけは違うつもり。
バカにされるとすぐキレる。自己鍛錬は好きだが自己満足レヴェル。どっかの広告のブロンドねえちゃんの写真を「オレの元カノ」などと見栄を張っても、そこに後ろめたさなど微塵もない図々しさ。
おお、これぞダメ人間のオリジナル・スタンダード!と拍手を送りたくなる。
他のキャラも秀逸だ。ダメ人間のアメリカ博覧会だ。特にメヒコ人の友達ペドロ(一応)がかなり素敵。同じく半開きの口、浮いた視線、でもやはり自己顕示欲だけは一人前。
よくぞここまでツボを抑えてなり切った役者も、皆オスカー級だ(アウトサイダー役はオスカーを穫り易いとはいえ、ギークじゃダメなのかな)。解ってるなあ。きれい事でごまかしてはいかんよ。それでは逆にヲタに失礼ですらある。
ところで、クライマックス(?)の生徒会長選挙。クラスメイトたちの前で何故かダンスを披露するナポレオン・ダイナマイト。・・・微妙にウマイ。いや、もしかしてウマくね?
日頃バカにするクラスメイトたちの拍手を浴びる彼。・・・でも、それがどうした?それで彼の自尊心が満たされるとでも?
主人公に『電車男』(観てないけど)的展開はない。脇キャラではチャット・ヲタがチャット相手のゴージャス美女(?)とあっさりラブラブになっちゃったり、ペドロが生徒会長になっちゃったりはするが、ナポレオン・ダイナマイトが変わることはないし、世間が変わることもない。
ダラダラと流れるだけの相変わらずの日常。 彼らの立ち位置は変わらない。でも、いつしか隣に誰かいる。
大事なのは市民権を与える事じゃない(そもそもそんなモノ彼らは欲しがってない)。ソウルメイトを得ることなんだ。それがこの映画の素晴らしい答えだった。
アメリカではヒットしてフィギュアや映画に出てくるグッズも大人気らしい。多分、競争社会の外側で我が道を行くキャラクターに、ヲタならずとも憧れるんでしょうな。
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