Final Update Oct. 30, 1999

いい音を出すには

私の尺八を聞いて、「いい音ですねえ。どうやったらそんな いい音が出るんですか」 と聞かれることがある。 この質問には答えにくい。たぶん聞いている人は 「唇の形はあまり閉めすぎず、かといってとがらせずに自然に 吹くのがいいのです。角度は。。。」 といったたぐいの答えを期待し、 その通りにすれば自分の音も良くなるのではないかと 考えているのでしょう。 尺八の音色というのは、そんなに簡単なものではありません。 同じ尺八でも、吹く人によって音色はまったく違います。 あたかも声が一人一人で違うように。

尺八を初めてしばらくした頃、山口師のお宅へ稽古に 伺い、一人で音を出していると、奧から先生のお母様が 顔を出され、「水野さん、お茶でもいかが」と声をかけて くださいました。 お母様は奥の部屋におられて、稽古場からかすかに聞こえて くる音で、誰が来ているかを確実に知っておられました。 そう言う意味でも人の声に似たところがあります。

それでは、良い音を出すにはどうすればいいか。 そもそも、良い音か悪い音かは主観によるもので 絶対的な尺度は無いでしょう。息の音が入っていない 澄んだ音が良い音だと思う人もいれば、 逆に息の音が入っているかすれたような音が 良い音だと思う人もいるでしょう。 したがって、自分が出したいと思う音の目標を作ることが 第一歩です。 そして、自分が練習しているときにたまたま「良い音」が でたら、その吹き方をできるだけ覚えておく、「いやな音」 がでたら、その吹き方はやめる。というような フィードバックを長年続けていくことで、自分の吹き方が 確立してくるものだと考えています。 尺八で良い音を出すには、自分の吹き方を常に自分の耳で 評価しながら、少しずつでも自分の望む音に近づくように 努力することが大切です。もちろんその際、さまざまな 吹き方を故意にトライしてみるのは良いことでしょう。 そのような中から、自分の望む音色が出たときのフィーリングを できるだけ保持して、それをさらに発展させていくことです。

以上が、良い音を出すための方法です。 最初に書いた質問:「いい音ですねえ。どうやったらそんな いい音が出るんですか」に対する答えとして「自分でどういう風に 吹いているのかわからないんですよ」と答えているが、 それは上記のような考え方に基づくものである。たぶん この答えを聞いた人は、「いい音がでる吹き方は秘密にしていて 教えてくれないんだな。」と想像することでしょうが、 実はそうではないことがわかっていただけるでしょう。

水野 香盟

水野香盟尺八エッセイへ戻る
水野香盟の尺八ホームページへ戻る