2011年8月
真理の一言は 悪業を転じて 善業と成す 「顕浄土真実教行証分類」


 今月の法語は四月と同じく「楽邦分類」からの引文で、宗暁禅師の言葉の

孫引きとなっています。その部分は「還行の一粒は鉄を変じて金と成す」
(註釈版聖典・199頁)の文に続いて、今月の法語の文となります。
「還行」とは、いわゆる錬金術に使う薬のことで、これを使えば、鉄が
金になるとされています。宗祖がこの文を「行文類」に引用されたのは
大行としての名号のはたらきに通ずるからだと思われます。
 信心獲得の念仏者の利益には,「信文類」に現利益が示され、その中に
「転悪成善の益」があげられていますが、この利益を恵まれるのは、名号に
「悪業を転じて善業と成す」あたらきがあるからです。
 同じように名号の徳を表したものとして、曇鸞大師の「往生論註」に、
有名な三つの譬えがあります。
先ず一つ目の譬えに、「浄摩尼珠」という魔法の珠を水中に投げ入れると
その水が清らかになると述べ、これを弥陀の名号に譬え、煩悩具足の凡夫が、
名号の具徳によって業障が消滅し、往生できるとされています。
 次に、この「浄摩尼珠」を。黄色の布に包んで水中に入れると、池の上から
眺めている者にとっては、包んだ布の黄色として見ていますが、水をきれいにする
はたらきは、その中の「浄摩尼珠」であると述べています。これは浄土に往生
はたらきは名号の徳ですが、私たち衆生が、浄土に往生したいと願う願生心は
いろんな思いがあってもかまわないということを示しているように思います。
 すなわち、お釈迦さまがお経に説かれたように、浄土は素晴らしい世界であると
思って浄土に行きたいと願う思いも、あるいは先立った愛しい人が待っていると思って
浄土を願う思いも、それぞれの思いはまちまちであっても、届けられた名号のはらきで
往生できるのです。
 三番目が、「氷上燃火」の譬え、氷の張った池の上で焚き火をすると、火の熱で
氷が解け、氷が解けると火は水中に落ち、たいまち火は消えてしまいます。
たとえば、愛しい人が待っているという願生心は、突き詰めていえば、愛しい人への
執着であり、一種の煩悩です。しかし、そらが執着であっても、池の中に落ちれば、
すなわち浄土に往生すれば、たちまちのうちに、その執着は消えるのです。
 宗祖がお弟子に宛てた手紙に、
  浄土にてかならずかならずまちまいらせ候べし「註釈版聖典」785頁
とお述べになっておられます。どんなにか、このお弟子は、今のお言葉に
支えられたことでしょう。