川本喜八郎作品集
監督:川本喜八郎

 近所のミニシアターが『川本喜八郎短編集』と銘打って『花折り』『鬼』『道成寺』『火宅』の4作品をまとめて上映してくれました。近所のミニシアターの努力に心から感謝します。
 さて、川本喜八郎という人物、人形アニメの巨匠らしいんですが、私は今回の作品を見てはじめてその名前を知りました。
 押しつけがましい話かもしれませんが、川本喜八郎の作品、まだ見たことのない方は一度見てみた方がいいと思います。これ、すごいですよ…。
 人形アニメっていうと、サンダーバード風の人形劇とかが頭に浮かぶんですけど(同じ人形劇でも、川本喜八郎ってNHKの『三国志』を作った人なんですね、知りませんでした)、川本喜八郎によるこれらの作品群は我々のイメージにある人形劇をはるかに凌駕しています。
 取り分け、驚くのは、劇中の登場人物である人形達が、走ったりした後に人間と同じように息を弾ませている点ですね。
 走り終わった後、人形の肩や胸が呼吸に合わせてすごくリアルに上下するんです。人間が呼吸すると、肺の中に空気が入って身体全体が少し膨らむじゃないですか、あの感じが、ものすごくリアルに表現されているんです。
 しかし、そんなふうにすごくリアルな側面もあるんですけど、人形は決してリアルな人形ではなく、教育テレビの人形劇とかで使われている人形と見た目はそれほど変わらないんです。
 そのリアルさと、人形劇との狭間で映画全体にものすごく独特の雰囲気が生まれています。
 これら四つの短編の中で、一番印象に残っているのは『鬼』と『道成寺』ですね。
 どちらもに題材を取ったものらしいんですが、二つともすごいですよ。
 ある夜、病気で寝たきりの母を持つ二人の兄弟が猟に出かけます。暗い森の中で後ろから近づいてくる妖しげな雰囲気を察した弟は兄にそのことを告げますが、兄は取り合いません。すると突然、暗闇から手が伸びてきて弟を木の上に引っ張りあげてしまいます。弟を助けるために弓を射ろうにも真っ暗で狙いを定めることができません。「叫べ、声の上を射る!!」兄の言葉を聞いた弟は必死の叫び声をあげ、その声の上を兄は正確に射ぬきます。射抜かれて千切れた「怪しのもの」の腕と一緒に、もんどりうって地面に倒れる弟。起き上がって、その腕を見てみると、弟をつかんでいた腕、それは他でもない鬼の腕でした。恐怖のあまり逃げるように家へ逃げ帰った兄弟が明かりの下でじっくりとその腕を見てみると、その腕にはどこかで見覚えが……
「母上……!!」
母親の寝ている部屋を空けてみると、そこでは腕を失った母親が鬼となって苦しんでいました。
「人間もあまりに年を取ると鬼になってしまうということです。」
 そんな一言で、この『鬼』という短編は唐突に終わりを迎えるのですが、この終わり方がなんだかものすごく怖いんです。
 この鬼になってしまった母親、別に悪いことをしたとかそういうことは一切なんです。冒頭で辛い人生を送ってきたということはいわれるんですが、「鬼になる」ということの原因になるようなことは取りたててないんです。
「年を取りすぎる」
この突き放したような理由で、母親は鬼になってしまうんです。
 『鬼』という短編を見終わった後に感じたあの突き放されたような恐怖感は他の作品では決して味わえないと思います。
 もう一本の『道成寺』の方については取りたてて書くことはしませんが、こちらには愛を裏切られた女の恐ろしさが強烈に描かれています。
 川本喜八郎の作品が、現在どれほど見ることができるのか定かではありませんが、見る機会があればなんとしてでも見て欲しい作品です。

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