ミリキタニの猫
監督:リンダ・ハッテンドーフ
出演:ジミー・ツトム・ミリキタニ、ジャニス・ミリキタニ、ロジャー・シモムラ
時間:1h14

 近所のミニシアターでみてきました。
 ここ最近、どうも、ミニシアターで見る映画に「これは!!」というやつがなくて、「今年は不作なのかなぁ…」などと勝手ながら思っていたのですが、この一本でそんな考え方は吹っ飛びました。
 『ミリキタニの猫』、これはすごいですよ。
 第二次大戦時に日本が真珠湾攻撃をした際、多くの日系アメリカ人が、アメリカ国民でありアメリカの市民権を持っているにもかかわらず、強制収容所に送られました。この映画の主人公は、その当時、強制収容所に送られた経験を持つ「ジミー・ツトム・ミリキタニ」という日系アメリカ人です。カリフォルニアで生まれ、広島で育ち、再び祖国であるアメリカに戻って来たときに、ミリキタニは強制収容所を経験するのですが、この人、それ以来、アメリカという国家に徹底的に反発して、60年間ものあいだ市民権を得ずに、絵を書きながら生活をしてきたんです。
 正確に言うと、一応、戦後何年かした後に、強制収容所に入れられた人達は、当時の政府が行った処置は不適切であったとして、収容される際にいったん剥奪された市民権を再び返してもらったんですが、このミリキタニはその変換された市民権をあえて受け取らずに、一人の芸術家として坦々と生きてきたんです。
 若いころは、知人の家に住み込みで働いたりもしていたようですが、その人生のほとんどは路上です。
 実際、この映画が製作されたのは2001年ですが、その当時も、ミリキタニは80歳の高齢であるにもかかわらず、雪が降る中、大きなダウンコートを重ね着して路上で絵を書く生活を送っていました。
 強制収容所での屈辱的な経験、路上での生活、9.11、同じ米国民によるアラブ系米国民への不当な差別、新たな戦争の始まり。自分が経験したことと全く同じ悲劇が判で押したように繰り返される中で、ミリキタニは、すでに死んでいると思っていた姉との再開をはたし、第二の祖国である日本に対する思いをいだきながら、今日も、いつもと同じように絵を書いています。
 普通の人生では絶対に経験できないような数奇な運命を生きてきたミリキタニですが、この人のすごさは、映画冒頭のワンシーンで一発で見て取ることができます。
 映画が始まってすぐに、ミリキタニがカメラに向って自分の名前を告げるシーンがあるのですが、このときの彼の目が普通の人間とは明らかに違うんです。
 絵を書きながら顔は下に向け、眼球だけをカメラの方に動かして、真っ直ぐにカメラを見据える目。
 あの目の鋭さ。
 それをみただけで、この人が只者ではないことがすぐにわかります。
 この映画を見ていない人にはわからない話でしょうが、ぜひ見てください。
 本当にすごいです。
 内面的にとてつもないカオスを抱えている人間でなければあんな目はできません。
 略歴をどんなに説明されるより、あの目を一度みる方が、「ミリキタニ」という人物を知るにはよほど有益でしょう。
 以前、同じミニシアターで「ヨコハマメリー」という作品を見たことがあります。
 あの映画に登場する「メリーさん」もすごい人でしたが、この映画に登場するミリキタニも決してそれに引けを取らない恐ろしい人物です。
 歴史の表には出てこなくても、世の中にはとてつもない人がいる。
 そんなことをつくづく思い知らされた作品でした。

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