ニューヨーク・ドール
監督:グレッグ・ホワイトリー
出演:アーサー・“キラー”・ケイン、スティーヴン・モリッシー、デヴィッド・ヨハンセン、シルヴェイン・シルヴェイン、バーバラ・ケイ
時間:1h19

 フジテレビ系の深夜にオンエアーされている『働くおっさん劇場』という番組を御存知でしょうか?ダウンタウン松本人志が指示を出して、素人の「おっさん」に色々なことをやらせるという番組なんですが、本作『ニューヨーク・ドール』の主人公アーサー・ケインも、ぱっと見はこの『働くおっさん劇場』にレギュラーで登場していそうなしょぼくれた「おっさん」です。
 このアーサー・ケインという人物、若い頃は伝説のロックバンド「ニューヨーク・ドール」の天才ベーシストとして活躍していたにもかかわらず、メンバーとの確執や酒、ドラッグといったよくありがちな理由でバンドを解散。その後、貧乏な生活を送り、妻とも離婚した後、あるとき突然モルモン教の教えに目覚めて、現在は教会が運営する「家族の歴史図書館」に周三回バスで通い、そこでコピーなどの雑用をしながら、細々と生計を立てるというまさに転落した芸能人そのものといった生活を送っているのですが、この映画はそんな華やかな舞台から転落したアーサー・ミラーの人生を追いかけたドキュメンタリー映画です。
 若かりし頃の華やかさとは打って変わった地味で控えめな人生を送っているアーサーですが、そんな彼の元に「ロンドンの音楽フェスティバルでバンドを再結成して演奏しないか」という誘いが突然まいこみます。
 貧乏のため長年質屋に預けていたベースを買い戻し(買い戻す時の金は図書館で働く同僚からのカンパ)、かつてのメンバーと再開し、再び舞台に立つアーサー。
 再結成の公演は大成功に終わり、彼はそのまま再びもとの平穏な生活に戻っていく……
 というところで終わっていれば、この映画はごくありふれた対して面白くもない(ちょこちょこ笑えるポイントはあるんですけどね)ドキュメンタリーなのですが、この映画の真価はこれら一連の事柄が全て終わった後、映画のラスト10分間ぐらいの部分です。
 敢えて、ネタをバラしますが、このアーサー・ケイン、ロンドン公演が終わって20日後、普通の生活に戻ってまだいくらも経っていないときに、突如として白血病が発覚し、しかも、その発覚した2時間後に白血病が原因で急死してしまうんです。
 この映画を見ている観客までも置き去りにして、本当に、糸が切れたようにプッツリと、アーサーはいなくなってしまいます。
 アーサーという人物のキャラクターがそうさせるのか、映画を見ながら不思議とこの人物に強い親しみを感じていたのですが、この突然の「さよなら」に、私は「えっ!!」という気持ちのまま呆然とただスクリーンを見ていました。
 この映画の一番最後に、再結成したニューヨーク・ドールズのメンバーが死んだアーサーのために賛美歌を歌います。ハーモニカとギターだけをバックに静かに歌われる賛美歌なのですが、この賛美歌は泣けます。
 55歳の落ちぶれたおっさんが人生の最後にちょっとした花を咲かせて死んでいく。
 文章にしてしまえばたった一行だけのことなのですが、中年のおっさん一人にこれほど感動させられるとは思いませんでした。

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