接吻
監督:万田邦敏
出演:小池栄子、豊川悦司、仲村トオル、篠田三郎、他
時間:1h48
近所のミニシアターで観てきました。
予告編動画
ストーリー
友人も無く、家族とも疎遠、仕事場では同僚のOLにいいようにあしらわれている京子(小池栄子)は、ある日、たまたまテレビで観かけた殺人犯、坂口(豊川悦司)に共鳴し、恋に落ちる。新聞やテレビで坂口の情報を集め、その生い立ちと現在の境遇から、自分と坂口との間に強いシンパシーを感じた京子は、拘置所の坂口に面会を申し出る。坂口の国選弁護人である長谷川(仲村トオル)は、最初こそ京子の行動に不審を抱くものの、坂口に対する京子の一途な振る舞いに心を惹かれると同時に、閉ざされた坂口の心を開く突破口としての役割を京子に期待して、二人を拘置所で面会させる。何の面識も無いのに突然現れた京子に対して言葉一つかけることもなかった坂口だが、いつしか、坂口もまた京子と自分との間に近いものを感じて、京子に心を許すようになる。互いに似たような境遇を生きてきた京子と坂口は、人間としても男と女としても互いに強く惹かれあうが、ある日、ついに坂口の死刑が確定する。そして、坂口の刑が確定したことを知った京子は坂口と獄中結婚しようとするのだが…
最近に限ったことではなく、メディアではさまざまな凶悪事件が連日報道されていますが、本作が描いているように、それらの事件の犯人に対して、普通に生活している我々が一定の共感を示すということは十分にありえることだと思うんです。
もちろん、この映画の主人公である京子のように、人間的にものすごい深い部分で共感して、面会→獄中結婚までいくっていうのはまずありえない話だと思いますが、それでも、一般に凶悪犯とか異常殺人者と呼ばれている人達と自分自身との間に、全く何のつながりも感じることなく精神的に完全に断絶していると考える人がいるとすれば、それはそれで人間というものに対してあまりにも楽天的であり、かつ、自己内省が極端に欠けている深みの無い人物だと思いますね。
最近では(この映画の感想を書いているのは20080901)秋葉原で起こった連続殺傷事件が記憶に新しいですが、この事件に限らず、さまざまな凶悪事件や猟奇殺人などの報道に接したとき、我々はそれらの事件を起こした犯人に対してある種の嫌悪感や薄気味悪さを感じると同時に、どこか言い知れない強い興味関心を抱きます。
我々がこれらの犯人に興味を抱く傾向にあるという事実は、こういった事件が起きるとメディアがこぞってその犯人の生い立ちや家庭環境について掘り下げにかかるという事実によっても実証されていると思いますが、この手の興味関心は自分とは別の人間として存在している犯人に対する興味関心であると同時に、自分自身の内面に対する興味関心なのでしょう。
本作に描かれている京子の場合は、それまで生きてきた人生の過程でたまたま自分自身を振り返る機会が他の人よりも多く、自分自身の内側に対する理解度が他の人びとの自己理解よりも深かったため、坂口の内面的な深みにも瞬時に到達できたということだと思いますが、この手の犯罪者に対する同調性を「愛」という形で描いた映画は案外珍しいのではないでしょうか。
なんとなく『羊たちの沈黙』に登場するレクター博士とクラリスの関係を思い起こさないでもないですが、犯罪者と普通の人との内面的な共感を描いた作品としては、『羊たちの沈黙』よりも、本作の方がはるかに人間的でリアリティのあるものだと思います。
主演の小池栄子も女優としての新境地を開拓するすばらしい演技でしたし、登場人物の心理描写もすごく決め細やかでグッと引き込まれる作品でした。
ラストシーンに関しては賛否両論あるかとは思いますが、まぁ、あれはあれで一つのまとめ方としては成立していると思います。
2008年もここ数年勢いを盛り返している邦画の良作がゾクゾクと公開されていますが、本作は、そんな良作ぞろいの2008年邦画ラインナップのなかでも上位に食い込める力のある作品だと思います。