残菊物語
監督:溝口健二
出演:花柳章太郎、森赫子 他
時間:2h23
近所のミニシアターが催した3週ぶち抜き企画『溝口健二特集』で上映された一本です。
私は本作を夕方の上映回で見たのですが、私以外のお客さんは全員50代以上でした。
しかも、客の入りもあまりよくなくて、暗くなる前に数えてみたら、私を含めてちょうど10人でした。
こういう映画は上映されるだけでもものすごく貴重ですから、もっとみんな見に来ればいいと思うんですけど、地方都市における映画産業の盛り上がりなんて所詮こんなもんなんですかねぇ…
最近、「邦画の元気がいい」なんていわれますけど、本作のように邦画が本当に輝いていた時代の作品を上映しても人が入らないということは、所詮は昨今の方がブームも一過性のものなのかなぁという気がします。
さて、本作の内容ですが、『嫌われ松子の一生』などと同じ、いわゆる「転落もの」です。
ていうか、私、溝口健二の作品を見るのは本作で本作で4本目(1本目『雨月物語』、2本目『西鶴一代女』、3本目『浪華悲歌』)なのですが、今のところ、4本全てが転落ものです。
バカな男に降りまわされて、最終的に女がどん底に落ちていくみたいなストーリーばかりです。
本作のストーリーも本線は他のストーリーとだいたい同じです。
実力もないのに立場だけでちやほやされている歌舞伎界の大御所のバカ息子が、唯一自分の芝居について正直なことをいってくれる弟の乳母に恋をするのですが、この時代の映画にありがちな「身分が違うんだからそんな女、見限ってしまえ!!!!!!」的な妨害にあってしまいます。
で、その妨害に反抗すべく、このバカ息子は自分が恋した女と一緒に歌舞伎界のスターという立場を捨てて、地方の巡業役者に落ちぶれていくが…
大まかにいえば、そんな感じのストーリーです。
「バカ息子」なんていう表現をしましたけど、現代の映画やドラマだったら、この手のキャラクターはものすごくカッコイイキャラクターとして扱われますよね。
自分の地位も名誉もお金も捨てて、愛する人のために一直線みたいな、メチャメチャカッコイイ役回りですよね。
でも、本作に登場する女に一途な主人公は、決してカッコイイ主人公などではなく、むしろ、どこかバカっぽさを伴なって描かれているんです。
また、主人公カップルの周りにいる人達も、この二人の恋を変に応援したりしないで、誰もかれもがみんな反対するんです。「どうせだめなんだから、やめなよ…」みたいなことです。
ここらへんに本作と現代劇とを分かつ決定的なリアリティの差がありますよね。
現実問題、現代でもちょっとおかしな恋愛をしている人がいたら、みんなものすごい勢いでやめるように説得するじゃないですか。
でも、ドラマや映画などのフィクションの世界では、「無茶な捜査ばかりするタカとユージを影ながら応援する木の実ナナ」的な人がたくさん出てきて、おかしな恋愛も成就させる方向で動いていくじゃないですか。
でも、本作の場合は、フィクションでありながら、主人公カップルの恋愛は誰からも支持されないんです。
現実と全く同じ、寒風吹きっさらしの状態が、映画の中でも展開されます。
この、映画の中だからといって、主人公を甘やかさない感じに独特のリアリティを感じました。
本作のラストは、主人公に献身的に尽くしてきた女が死んで、その代わりに、主人公は一流の歌舞伎役者として大成するという終わり方です。
ものすごく型にはまった悲恋ですけど、こういう、直球型の外連味のない作品もたまに見るといいですね。
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