今日は戦勝祝いで宴会だ。
俺達護衛兵も無礼講だってんで宴会に参加した。
気が付くと、周りは他の隊の護衛兵ばっかりになっていた。
それで酒がまわるうちにいつの間にか自慢&愚痴大会になったんだ。
自慢じゃないが、うちの軍は他国に比べて若い将軍が多い。
だから必然的に俺達護衛兵の平均年齢も若いってわけさ。
っつっても中にはオッサンもいるけどな。
ほらほら、あれ。あそこで自慢げに話し始めたオッサン。
なんだか顎のヒゲがW字型になってるな。どういうデザインだよ。
ありゃ孫将軍の妹姫の尚香姫将軍の護衛兵だ。
「姫様はな〜そりゃあ気丈なお方でなあ・・・。小さい頃から儂がお守りしてだなあ」
ああ、気の毒に。
あの話、俺が護衛兵になってからもう百回くらい聞いたぞ・・・。
ほうほう、あの姫将軍の持ってる武器とやらで、何回か怪我もしているって?ヒゲがへんな生え方をしていると思ったら、それが原因か。
「ケッ、女の護衛なんかよくやってられるな!」
「なんだと!?」
喧嘩をふっかけたのは甘寧さんの護衛兵だ。彼らは幾度も奇襲やったり、けっこう危ない橋を渡ってきてる。まあ、ヤツらから見たら女の護衛なんか甘っちょろくみえるんだろうな。
「うちの親分みてえにカラッと気持ちいい仕事してるとよ、他の隊にゃ二度といけないよなあ」
甘寧さんは兵に「親分」と呼ばせてるらしい。
出撃のまえに毎回骨付き肉を食わせて貰ってるらしくて、みんな甘寧さんになついてんだよな〜。
そのせいか、な〜んか護衛兵もガラが悪くていかん。
しかし、うちの軍は女の将軍も多いから護衛兵たちも黙っちゃいない。
反論しはじめたのは大喬さんの護衛兵だ。
「女の護衛だからってなめるなよ!だいたい俺たちはあの孫策様の夫人をお守りしてんだぞ!わかってんのか、こらぁ!」
「儂らだってそうじゃ!姫様をお守りせんでどうする!」
「そらあ、わかってっけどよ。じゃあ、なんで戦に女なんか出すんだよ!うちの軍はそんなに兵が足りねえのか!?」
う〜ん、ごもっとも。
しかしだなあ、はたから見ててもあの女将軍三人はつええんだよなあ。
「なんとかいえよ、おい、そこの!」
甘寧将軍の護衛兵が指さしたのは小喬夫人の護衛兵だ。
「え?あ?俺?何?何の話だっけ・・・?俺関係ある?」
・・・・主人の性格は護衛兵にも伝染する、とこのとき俺は確信した。
小喬夫人って戦にはあんまり興味無いって感じだもんなあ。
「ごめん、今うちの小喬さんに宿題出されててさあ、そのことで頭がいっぱいで・・・」
「宿題?何の?」
皆異口同音に訊いた。
「周瑜様の明日のご飯のおかずを何にするか・・・」
他の連中は呆れてもう、話をそいつに振るのをあきらめた。
「ったく、そんなことは侍女か小姓にでもやらせろって。俺達は護衛兵なんだぞ。命賭けてるんだぞ!」
そう力強く言ったのは孫権将軍の護衛兵だ。
さすがに御主君の次男の兵だけはあるな。
「まあ、皆そう興奮するなって。仲良くやろうぜ」
「その通りだ。同じ呉の仲間ではないか。男だの女だの関係ないだろう」
やけに仲良く飲んでしゃべっているのは、孫策様と周瑜様の護衛兵たちだ。
御主人同士が仲がいいと護衛兵もそうなるんだな。
しかし、なんだかここだけヤケにいい男がそろってんな。
俺がそう言うと、彼らは笑って言った。
「そりゃあそうだ。俺達は呉のイメージ戦略を担ってんだもんな」
「イメージ戦略?」
「そう!呉はビジュアル系だってこと、天下に知らしめる役なんだ」
「・・それって何かに効果があるのか・・・?」
「女性ファンが増える!」
彼らは力強くガッツポーズをした。
・・・俺は頭を抱えた。戦と何の関係があるんだよ・・・。
「おい、さっきから何をやってるんだ?」
誰かが訊くと、そいつは一生懸命縫い合わせていた自分の鎧を見せた。
「おお〜すげえ、何重になってんだ?この鎧」甘寧隊のヤツが訊いた。
「ふふん、うちは防御力中心だからな、これは12重だ」
さすが呂蒙将軍の護衛兵。なるほど、あの堅さにはそんな秘密があったのか!
「十二単か〜!呂蒙将軍のもそうか?」
「もちろん。ありゃご主人のお手製だ。30重くらいはあるんだぜ!」
「へえ、あの派手な鎧、そうなのか!」感嘆の声を漏らしたのは太史慈将軍の護衛兵だった。
「・・・鎧じゃあんたのご主人にゃ負けるよ」
「そっか?」
「ああ・・・自覚ないのか?あんたんとこのご主人、結構人目ひくぜ?」
俺に言わせりゃ、呂蒙将軍も太史慈将軍も、性格の割にどっちも結構派手な鎧だと思うぞ。
それにしてもよくみりゃ縫い目が粗いな。こんなんじゃ弓矢に弱そうだ。
もっとも甘寧将軍にはどっちも関係ないけどな。
おお、また誰かの護衛兵の一団がやってきたな。
しかし、やけにごついな・・・
「ありゃ誰の護衛兵たちだ?」
俺が訊くと、ご主君である孫堅様の護衛兵が答えた。
「あれは陸遜殿の護衛兵だ。その隣は黄蓋殿の・・・」
「ふうん、黄蓋殿はともかく、陸遜将軍の護衛は随分とまた立派な体格してるなあ」
「陸遜殿は身体が小さいから彼らはああして身体を張ってお守りしているんだ。みろ、彼らの鎧・・・傷だらけだろ?」
「ふうん。人間の壁状態だなあ。ヤツらそれで平気なのかい?」
「なんか全員陸遜殿のファンだっていってたぞ。ファンクラブとかもあるらしいな」
「ええ?だって男だぜ・・・!周瑜様ならわかるけど」
「俺に訊くな!男がみても可愛いとかいってたぞ。守ってやりたいんだとさ」
「・・・・」
そんなに可愛いのか、陸遜将軍ってのは。
そういえば陸遜将軍は大抵本陣ちかくで指揮してることが多いからな。俺なんかあんまり戦場でお目にかかったことはないな。
そういう意味ではいいよなあ、大将の護衛兵ってのは。
そう思って俺はちょっと孫堅様の護衛兵に訊いてみた。
「なあなあ、大将の護衛兵ってのも退屈なんじゃないか?なあ」
そいつはちょっとムッとした表情になった。
「そんなことはない!殿の傍にいるってだけですごい緊張感があるんだぞ!・・・そりゃタマに暇なときなんかは殿としりとりしたりしてるが・・・」
「ぶっ・・・しりとりだって!?」
「笑うな!結構必死なんだぞ!負けると拠点兵長に格下げなんだ!」
「・・マジ?」
「マジ」
笑えねえ話だな、そりゃ・・・。
「そういうおまえは誰の護衛兵なんだ?」
「俺はだな・・・・!聞いて驚くなよ、俺は呉の守護神、周泰殿の護衛兵だ!」
「何!?周泰殿の!」
おお、みんな驚いてるな!ははは!
「・・・なんだ、その他大勢じゃねーか」
甘寧殿の護衛兵がそう言う。
「えらそうにすんな、馬鹿」
うう!大喬殿の護衛兵にまで!
「というか、護衛兵の護衛兵だな」
ぐさ!
的を得た言葉だ・・・さすが孫権殿の護衛兵・・・・そのとおりだ・・・だが。
・・・・あんまりだ。
周泰殿だって毎回傷だらけんなって戦ってんのに!魏の張遼の最強武器だって持ってんのに!
次は周泰殿が顔つきの武将になれますように。
・・・俺もちゃんと顔のあるご主人の護衛兵になれますように。
・・・でもしりとりで負けて拠点兵長になるのはイヤだな・・・。
(終)