拠点兵長のひとりごと


 
 

一陣の風が吹いた。

・・・そう、ここは戦場のはずれ。
そして俺は拠点を守る拠点兵長。

戦が始まったばっかのころには、俺のまわりもたくさんの兵がいて、命をかけて戦っていたっけ・・・
それももう50分のまえのことさ・・・。

「・・ねえ、拠点兵長」
「なんだ」
声を掛けてきたのは拠点に配置されている拠点兵だ。
つまり俺の部下ってわけだ。
「・・・・ずいぶん戦場も遠くなりましたね・・・もういいんじゃないですか?ここ放っておいても」
「・・・馬鹿。俺達はこの拠点を守る拠点兵なんだぞ!持ち場を離れてどうする?」
「だって・・・もうだ〜れもいませんよ」
「・・・・」
わかってる。
それは俺にも充分わかってはいるんだ。
だがな・・・・
「俺達は拠点兵だろ?持ち場を離れたらただの兵になっちまうんだぞ!?」
部下の一人がそう言った。
「・・・そのとおりだ」

忘れ去られた拠点ほど虚しいものはない。
ここから兵がでてくることはもうないのだ。
だって圧倒的に我が軍は優勢なのだから。

「でも!敵のいないとこでぼ〜っとしてるだけなんて俺、耐えられないんです!手柄だってたてられないし」
「仕方ないだろう!我慢しろ!」
「・・・じゃあ、この壷の肉まん食っていいッスか?」
「ダメだ!」
「わ〜ん・・・」
俺達の守ってる拠点の両脇には肉まんの入った壷がある。
瀕死の武将のために、俺達はいつでもこの肉まんを美味しく食べられるように一定時間ごとにちゃんと代えてるんだ。肉まん蒸かし器が拠点の奥のテント小屋にしまってあることはあまり知られていないがな。
戦場にいくつか散らばってる肉まんの壷はその受け持ち地区に配置されてる兵がちゃんと面倒見てるんだ。
知らなかっただろう?
そうしないと食った武将が腹をこわすことがあるからな。そうなったら悲惨だぞ。
ま、敵に食われることもあるがな・・・。
俺達は人知れずそうやって活躍しているんだ。
・・・って誰に向かって俺は説明してるんだ。馬鹿馬鹿しい。

それにしても、寂しい・・・・

さっきから風の音しか聞こえない。
こういうときはなにかで気を紛らわすしかない。
歌でも歌うかな・・・
俺は鼻歌まじりに歌い出した。
「あ、それ知ってますよ!三国志のテーマでしょ!」
「俺も見てましたよ!BS入れたんで」
「それじゃあ、みんなで歌うか!」
俺達はだれもいない拠点の前で三国志のテーマを5人全員で歌っていた・・・。

寂しさの余りテンションがあまり上がらない。
なのに歌声は大きくなるばかりだった。
・・・むなしい・・・

その時だった!

「敵襲!」
伝令が走ってきた。
「敵の増援が来ます!」
「何!」
「聞いたか皆!俺達、やっぱりここを守っていてよかっただろう!?」
「おお!」

さあ〜どっからでもかかって来い!

俺達はわくわくして待った。
おお、来た来た!
はっはあ〜!
ん?味方の誰かが突っ込んでいったぞ?
・・・・・
・・・・・
・・・・・
何ぃ!?
敵増援全滅!??

〜〜〜う・・そ・・

またまた伝令兵がやってきた。
「趙雲隊、敵増援部隊撃破!敵増援部隊消滅!」

また、一陣の風が吹いた。

「兵長〜やっぱり誰も来ませんね・・・」
「言うな・・・・」
「ああ〜さっさと終わってくれないかなあ・・・」
「兵長〜もう肉まん食っちゃってもいいッスかねえ?」
「ダメだ!」

・・そう、わかっているんだ。
俺達は拠点兵・・・・。
拠点を守ることが使命なのさ・・・。
もしかしたらどっかの物好きが拠点だけをつぶすために(俺の持ってる盾欲しさに)やって来るかもしれないしな・・

歌でも歌うか・・・・。
 
 

(終)