護衛兵たちの宴会〜蜀軍兵〜  完結編


今日は戦勝祝いで宴会だ。
俺達護衛兵も無礼講だってんで宴会に参加した。
気が付くと、周りは他の隊の護衛兵ばっかりになっていた。

ここは五丈原。
火を焚いて、ちょっとしたキャンプファイヤーになっている。
俺達護衛兵は火を囲んでちびちびと酒盛りをしていた。
おお、威勢がいいのが多いと思ったら、趙雲将軍の護衛兵か。
いいな〜趙雲将軍はずいぶん部下の面倒見もいいっていうし、なにより白い歯がきらーん、てサワヤカさんだよな!
見てるこっちまで元気になりそうだ!これこそ宴会ってかんじだな!
勢いよく酒を呷ろうとして、ふとみると、隣りでめそめそ泣いている兵がいた。
「どうしたんだ?」
俺が聞くと、そいつは涙をぬぐって答えた。
「こ・・黄忠殿がついに・・・うう・・」
「ええっ!?黄忠殿がついに?亡くなったのかっ!?」
黄忠殿といえば蜀では弓の名手でしかも一番のジーサン武将だ。
とうとう老齢で亡くなられたか・・・と思っていたら。
「ちがう・・・あれ・・・」
護衛兵が指さす方向を見ると、なんと黄忠殿が殿の天幕で踊っているではないか!しかもアロハシャツ着てるぞ!
「戦が終わったんで、引退してリゾートで暮らすんだって・・・俺達をおいて」
まだオイオイ泣いてる。そんなにジイサンと別れるのが哀しいのか・・俺にはわからん。
よくみると黄忠ジイサンの前で踊ってんのは孫尚香って呉の女武将じゃんか。
「なんであの子がいるんだ?」
俺がいうと、前に座っていた劉備様の護衛兵が振り向いて言った。
「うちの殿がこのまえの夷陵で気に入ったから連れてきちゃったんだ。大変だったんだぜ〜おっかない敵将に追い掛けられてさあ。黄権さんとか厳顔さんとか尊い犠牲がでたんだぞ〜」
ふうん。意外に殿も節操ないのな。ま、いいか。蜀にゃちとばっかし色気がたりねえしな。
殿の護衛兵たちは、まわりでひやかしてるヤツラを一生懸命怒ってる。大変だなあ。
わあ!な、なんか飛んできたぞ・・・!?あ、あの女の武器じゃねーか!おっかねー・・うちの殿、大丈夫なのかね??
大騒ぎしている連中をよそに、なにやら一生懸命本を読んでるやつらがいた。
「おい、何やってんだ、おまえら」
見ると、そいつの持ってる本は辞書だった。
「これがないとご主人と会話できなくてさあ」
「・・・えっ?ご主人って・・・」
そいつの指さす方向を見るとちょうど魏延将軍が天秤棒を肩に乗せてなにかを運んでいた。
相変わらずあのへんてこな仮面を付けている。
・・・そうか、魏延将軍の護衛兵たちか。あの人なんか言葉ヘンだもんな。
俺はちょっと興味があって聞いてみた。
「・・なあ、あんたたち、魏延将軍の素顔ってみたことある?」
するとやつらはさっと青くなり、首をふるふると横に振った。
「・・め、めっそうもない・・・」
な、なんだかいけないことをきいたのかな・・?魏延将軍の素顔って一体・・?
「死にたくなかったら、その話題はするな、いいか!」
護衛兵はそう言って俺を厳しく指導した。死・・ってなんなんだ!?
まあいい、これ以上追求するとこわいことになりそうだからな。
「そうか・・それよりその辞書、何語辞典なんだ?」
そう、そもそもあの人何人なのかもよくわかんないんだよな。
「さあ?何語?」魏延将軍の護衛兵たちはお互いに顔をみあって分からない、と言い合った。
マジかよ・・・。そんな得体のしれない人の護衛、あんたらよくやってんなあ・・・。こわっ。

魏延将軍は担いできた天秤棒を下に置いて、天秤棒の先に下げてたでっかい樽を張飛将軍の前に置いた。
なにやら張飛将軍が上機嫌でその樽をあけて持ってた丼ですくって飲んでいる。
ありゃ酒か!
ってーか、魏延将軍、パシリかよ!
おーお、護衛兵たちもあんなでかい丼で飲まされちまって・・・
張飛将軍の護衛兵は酒に強くないと勤まらないってのは本当だったな。
良かったー飲まなかったら百たたきとかされそうだもんな。
もしそんなことされたら俺だったら張飛将軍の寝首かいちまうかもなあ〜。
騒いでいたら隣りの護衛兵にこづかれた。
「なんだよ」
「静かにしろ」
「え?」
「ホウ統殿が占術をやってるとこなんだ」
「え?占い・・?」
ホウ統さんってなんだか薄気味悪いんだよなあ。いっつも頭巾かぶってて。
年もとってんだか若いんだかよくわかんないし。
「でもなんだって急にこんなとこで占いなんかやってんだ?」
「なんでも馬超将軍が大切にしてた馬がいなくなったんだって。それでその所在を占いで探そうってわけ」
「ふーん・・そんなんで分かるのか〜便利だな」
馬超将軍っていえば派手な鎧と具足で錦馬超だなんて呼ばれてたっけな。その割に護衛兵は地味だよな〜なんでだろう。
そう思って俺は馬超将軍の護衛兵に聞いてみた。
「俺達が地味じゃないと目立たないんだってさ」
・・・・よく見るといい男なのになんであんなに派手好きなんだろう・・・?
「それよか馬がいなくなって大変なんだよ。落ち込んじゃってさ〜。あの人、毎日馬に話しかけてたから・・・ありゃ恋してるな、うん」
げーーー馬に恋ってどーゆーこった!
う〜ん、まあ、戦場での愛馬は恋人みたいなもんか。仕方がないなあ。はやく見つかるといいな。
おっ、ホウ統さんの占いの結果がでたぞ。
なになに・・・羽扇・・・?
え・・・?
文官の格好をした背の高い男で・・・?
鼻の下におちゃめなヒゲが?
・・・・
・・・・・・
それってうちの軍師さんじゃないのか!?あるいは丞相ともいうが。
あ・・・みんな静まりかえってる・・・
この結果がこわくて誰も馬超将軍に言えないんだなあ。
でもなんだって諸葛亮さんが馬超将軍の馬なんかに乗ってっちゃったんだろう?
・・ていうか、あの人が馬に乗ってる姿ってちょっと間抜けだったりするんだよな(ぷっ)
そうこう言ってると軍師さんが戻ってきた。
ホウ統さんの言うとおり、馬に乗って帰ってきた。
俺は駆け寄って一緒についてきた護衛兵に話を聞いた。
「あの馬で木牛を回収してきたんだよ」
「え?木牛ってあの・・物資入ってたやつ?」
「ああ」
そうかーあれ、どうやってあそこに運んだんだろう?っていつも不思議だったんだよなあ。そうか、馬で引っ張って運んでたのか。
「・・で?なんで馬超将軍の馬なわけ?」
「一番人なつこそうだったからだってさ」
「・・・は?」
「なんかうちのご主人、あの馬と会話してたよ。あの馬が言うには馬超将軍に愛されてるからあなたとはいけないわ〜とか言ってたらしいんだけどな・・・木牛引張って帰ってきたら馬超将軍に誉められるよとかなんとかくどいてたみたいなんだよな」
す、すげーー!!!馬をナンパしてんのかっ!?・・・やっぱりあのお人は人間ばなれしてるよなあ〜・・
まあ、なにはともあれ、馬が見つかって良かった良かった。
丞相閣下をお迎えしたのは馬謖さんと姜維さんだった。
馬謖さんは地味だけど、姜維さんは若いなあ。
声もなんだか高いし。
でもなぜか護衛兵はオヤジばっかなんだよな。なんでだろ?もしかしてファザコンなのか?いっつも丞相閣下の後ろにくっついて歩いているし。
やってきた姜維さんの護衛兵に俺はそう聞いてみた。
「あの人は丞相閣下至上主義なんだよ」
そりゃ見てれば分かるって。
「でもなーなんだかかわいいんだよ、ヒヨコみたいでさあ」
ひ、ヒヨコ??
もう一人の護衛兵が口を出した。
「そうそう、なんか雛鳥って感じなんだよな」
俺の頭の中には大口開けて親鳥からエサをもらう貪欲な雛鳥の絵が浮かんだ。
「だから多少弱くても助けてやりたいんだ」
・・・オヤジのハートを見事に掴んでいるな・・・。

あ、いけないいけない、うちのご主人が戻ってきた。
えっへん、聞いて驚け、俺のご主人は我が蜀軍の誇る美髯公・関羽雲長殿だ!う〜ん、いつみてもほれぼれするなあ。男と生まれたからには一回で良いからあんなふうになってみたいよなあ。
おお〜お、他の護衛兵たちもなんだか顔赤くしてぞろぞろと後についちゃってたりして・・・
ん?なんか人数が多いぞ。いち、にい、さん・・・・あれ!?ちょ、ちょっとまってくれ、なんでこんなにたくさんいるんだ!?
30人以上いるぞ!ななななんでだ?護衛兵は8人までって決まりがあるのに!
前にいた顔の赤い護衛兵が俺を振り向いて言った。
「あれ?おまえ、周倉さんとこの護衛兵だろ?」
え?
「・・おい、関平さんや関興さんとこのも交じってるぞ」
うそ・・・
「おいおい、こんなにいちゃどこまでが関羽殿の護衛兵かわかんねえよな〜」
おいおい!俺は関羽殿の護衛兵・・・のはず・・?
ん?
・・・そういえばいつもなんだか大人数でいたような・・・
なんかいつも傍にいるから気が付かなかった!
・・・がーん・・・
・・・・・がーん・・
・・・・・・がーん・・・
俺って周倉殿の護衛兵だったのか!?
い、今まで気付かなかった!!
どーりでたまに関羽殿から離れている時があると思った! ありゃ単に周倉殿が関羽殿の傍にいたからだったのか!
・・い
いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
関羽殿がいいーーー!!
俺は泣いた。そう、号泣だ。
「殿!人事異動を希望しますっ!!」
俺は我慢できなくなって劉備様に手を挙げて直訴した。
殿は孫尚香の踊りに夢中でなかなかこっちに気付いてくれない。
「殿ーーー!!」
他の不満のある護衛兵らも声を合わせた。
「ん?」やっと気付いてくれた!
「殿、護衛兵の人事異動を!!」
「ああ?護衛兵?」
「そそ、そーでっす!!」
しばらく考えて、殿はこういわれた。
「ああ・・・戦も終わったから、護衛兵全員解雇ね」
 

・・・・・

・・・・・・

・・・・・・・

うわぁっ!!

「反乱だ!反乱がおきた!
暴動だ!
護衛兵による暴動だ!!
全員出撃せよ!」

・・・・・

・・・・・

殿の命じる言葉なんかもう聞かない。
そうさ、俺たちゃもう護衛兵なんかじゃないのさ!
しったこっちゃねーー!
こうなったら盗賊にでも海賊にでもなんにでもなってやるっ!!
自由に生きてやるんだーーー!!
ばかやろーーーっ!
 
 
 

(終)