孫権が酔った勢いで傍に寄ってきた五虎将たちに酌をしてまわったときだった。
孫権「おっ・・・と酒をこぼしてしまった・・ええと布巾布巾・・と」
ごしごし。
胡班「ぅわーーーーーーっ!!」
関平「ち、ちちうえーーーっ!」
関羽「・・・・・」
孫権「あーこりゃすまん。ヒゲだったか。つい近くにあったものでな」
孫権が関羽のヒゲを布巾がわりに使ったのだった。ついでに手なんかもふいてみたりした。
関羽の額に怒りのマークが現れ始めた。
劉備「おのれ!孫権!よくも雲長のツヤツヤのおヒゲをおてふきがわりに使ったな!」
周倉「お〜の〜れ〜!」
廖化「戦じゃ!」
周泰「ううっ!こ、これはいかんっ!殿っ!お逃げ下さい!」
関羽「・・・・うう・・・・おりゃーーーーーーっ!!!」
関羽の目が赤く光る。
しかもちょっと涙目になっていた。
青龍堰月刀をどこからか持ち出してきて、ぶんぶん、振り回し始めた。
黄忠「おお〜ダイナミックな剣舞じゃのう〜」
呂蒙「なんのっ!」
かしーん!
呂蒙もどこからか方天戟を持ち出して、その刃を受け止めた。
周泰「お見事っ!」
蒋欽「感心してる場合かよっ!殿はっ!?」
呂範「・・・・うわ〜・・・」
孫権はその頃趙雲と、新たに馬超を羽交い締めにしていた。
孫権「おお〜両手に美男だ〜!はははは」
凌統「・・・・」
姜維「・・・・」
魯粛「・・・・だめだ、こりゃ・・わが計やぶれたり、だな」
陸遜「・・・それにしても、劉玄徳殿、お酒が強いですね・・・」
呂範「ん?い、いや、アレを見ろ〜そうでもないぞ!あっはっは!」
呂範が言うとおり、劉備は怒って孫権につかみかかろうとして立ち上がったとき、ふらふら〜と左右に揺れながらまっすぐ歩けていなかった。
劉備「こら〜孫権め〜」
なんだか声も情けない。
そのときどこからともなく甘寧が現れた。
甘寧「甘興覇キーッック!」
どごっ!
劉備「・・・・ううっ・・・雲長・・翼徳・・桃園の誓い・・・果たせず・・・すまん・・・」
がくっ
その場に倒れ臥した。
関羽「兄者〜〜〜〜っ!!」
劉備に取りすがって泣く関羽であった。
どうやら泣き上戸だったらしい。
しかし、よく見ると劉備はおおいびきで寝ているだけだった。
呂範「興覇ぁ〜〜!このバカ!何やらかすんだ!!戦になったらおまえのせいだぞ!」
甘寧「おうよ!望むところだぜ!はっはっは!」
諸葛亮「それはまずいですね・・・伯約、雲長殿をお止めして」
姜維「ええっ!?じ、自分が、ですか!?」
諸葛亮「他にだれがいる?」
姜維「あ、じゃあ、黄漢升殿に・・・」
黄忠「ごほーっ、げほっっ!あーうー儂も年じゃからのう〜」
姜維「都合のいいときだけ、老人ぶらないでくださいよっ!」
魯粛「ああ〜だれか、なんとかしてくれ・・・」
関羽がまた暴れだそうとしたとき、外から乱入してきた者がいた。
魏延「うおーーーーっ!」
馬謖「だから、おまえなんか嫌いだっていってんだ!」
馬良「やめなさいってばーーー!!」
魏延「ちょっと孔明殿に気に入られてるからって威張るな!」
馬謖「ふん!うらやましいか!」
広間は大口げんか大会になった。
甘寧「・・・なんかさあ」
陸遜「あんまり仲よくないんですかね、ここの人たちって」
呂範「主人がいないんで暴走しちゃってる、って感じだな」
凌統「それよりもうちの殿ですよ・・」
孫権はあいかわらず趙雲と馬超を離さない。
二人とも、国の争いのタネにならぬよう、じっと我慢しているようであった。
周泰「・・気の毒に」
突然、稲妻の音が聞えた。
ずしー・・・ん
関平「えっ・・いまのは雷の音・・・ちょっと外みてきますね」
そのとき遠くから笛の音が聞こえた。
呂蒙「な、なんだ!?」
関羽「むっ・・・!?」
陸遜「ああ!?」
諸葛亮「・・・・かっこつけ激しい登場ですね・・・」
入ってきたのは横笛を吹いて優雅に歩く周瑜だった。
周瑜「周公瑾、ただいま参上つかまつった・・・」
凌統「あっれーー?来ないんじゃなかったんですか!?」
周瑜「こんなことになっているのではないかと思ってね」
魯粛「うそをつけ、うそを!さっき私が早馬で呼んだんじゃないか!」
周瑜「こほん・・・ま、それはおいといて、だ。そもそも殿が酒で人に勝てるわけがなかろう?だから反対したのに」
甘寧「都督〜〜〜〜!!お待ちしてましたっ!」
周瑜「ああ、わかったから・・・そこをどいて、ね?」
甘寧「ごろにゃ〜ん♪ととくぅ〜」
呂蒙「おえっ・・・」
孫権「おおっ!公瑾!!」
孫権は周瑜を見るなり、しゃきっ!と立ち上がった。
趙雲「・・・・なんなんだ・・・」
馬超「うそ・・・」
周瑜「殿、お迎えに参りました。さ、帰りましょう」
孫権「おお!それじゃあ、皆、世話になったな!ではな!」
甘寧「おお〜俺も帰りますっ!まってください〜」
呂蒙「俺も!」
陸遜「わわ、私もっ!」
凌統「あ、ずるい!俺も行きます!」
周瑜がまた笛を吹き出した。
そのあとを呉将らがずらずらとついて帰る。
甘寧「ではなー!翼徳、孟起!また飲み比べしようぜ〜」
魯粛「これこれ気安いぞ」
諸葛亮「ハメルーンの笛吹みたいですね・・・」
姜維「は?何ですか?」
諸葛亮「いえ、なんでも」
姜維「それにしても・・・・これ、どうするんですかね?」
姜維は床に転がっている酔っぱらいたちを見た。
そのとき、関平があわてて入ってきた。
関平「た、大変です〜!大雨で洪水がおこってこのまわり水浸しで・・・」
周倉「おちつけ、どうしたんだ」
関平「つ、つまり、この城は孤立していますっ!」
諸葛亮「なんですって!?」
姜維「で、でもさっき周瑜さんが来て・・・」
諸葛亮「あの人は水軍都督ですよ。船で来たに決まってるでしょう」
関平「わー!水がはいってきたあ〜」
諸葛亮「とりあえず逃げましょう!みなさーん!逃げますよー!」
姜維「あ、でも殿は!?」
趙雲「某と孟起殿で担いで行きます」
馬超「しかし、ここで寝ている呉の連中は・・・?」
諸葛亮「捨てておきましょう。明日になったら勝手に帰るでしょう」
姜維「そんな無茶な」
馬良「明日になったらどざえもん、ですね」
関羽はまだ堰月刀を振り回していて誰も近寄れない。
諸葛亮「関雲長殿〜!水が来ています!逃げますよ!」
諸葛亮のいうこともまったく聞えていないようだった。
関平「仕方が無いなあ。自分がいって、連れてきますから、先にいっててください!」
諸葛亮「・・この緊張感のなさが・・我が陣営の良い所なのかもしれませんね・・」
姜維「そんなのんびりしてる場合ですかっ!早く逃げないと〜」
馬良「魏文長殿、幼常!あなたたちは泳いで帰ってきなさーい!ケンカした罰です!」
馬謖「ええっ!?そそんな!俺は泳げないんだ!まってくれ〜〜!」
魏延「うおおおーーー!水は嫌いだあーーー!水きらいだから劉表んとこを離れたのに!!」
馬謖「てめーは泳いで来い!」
そうして荊州での宴会は終わった。
その後、樊城には関羽と関平だけが取り残された。
(終劇)
呂蒙「あれ?そういえば朱桓や董襲は?」
甘寧「・・げ!忘れてきた・・・・」
陸遜「かれらも子供ではありませんから、ちゃんと帰ってくるでしょう」
呂範「それはどうかな・・・みろ、樊城が水に浸かっているぞ」
甘寧「・・・・(青ざめる)」
周泰「朱然殿・・・うう〜」
魯粛「成仏なされよ・・・」
河にむかって魯粛が合掌していると、とおくから波の音がばしゃばしゃと聞えた。
朱桓「ちょっとーー!」
董襲「こらー!勝手に殺すなー!」
蒋欽「おお!おぬしたち!無事だったか!」
朱然「はあはあ・・・はあはあ・・・無事じゃないです〜」
潘璋「目が醒める前に関羽の青龍堰月刀でぶったたかれたんですよ〜」
朱桓「そうそう。あの城にはもうヤツくらいしか残っていませんでしたよ」
潘璋らの顔には青痣ができていた。
呂蒙「なにっ!それは好機到来ではないか!」
呂範「まさか樊城を攻めたり?」
呂蒙「おお!」
凌統「祟られてもしりませんよ〜」
というわけで急に樊城攻めの決行とあいなったのであった。
(真・終劇)
樊城から関羽たちが孤立し、麦城へと退却した裏にはこんな事情があったのでした・・・・。
そんなワケねーだろっ!