体育祭後半戦


 
楽しい昼休みが終わって、体育祭の後半戦。
 

「お、権!がんばれよ!」
孫策は応援席から孫権の姿をみとめて声をかけた。

「あれ・・・?兄上、いらしていたんですか?」
「ああ、時間ができたもんでな。これから何の競技だ?」
「二人三脚に急遽でることになって・・・」
「おお、そうか!がんばれよ!」
「がんばってね!仲謀くん」
周瑜の隣で孫策はそういってにこにこしていた。
「なんだかご機嫌ですね・・・」
周瑜がそとつぶやいた。
「ん?そうか〜?」
孫策はいまだに周瑜との擬似夫婦ごっこの妄想中なのであった。
 

孫権と朱然の二人三脚がスタートした。
が、途中で孫権がコケてしまい、朱然は孫権の身体を支えながらそれでも2位でゴールした。
「ごめん・・・義封」
少し落ちこんで、孫権はそう言った。
「何、いいってことよ!たまにはそんなしおらしいおまえを見ることが出来て、俺はちょっと感動しているんだ」
孫権の肩をぽんぽん、と叩いて、朱然はどこまでも明るい。
「は?」
「だってさ〜いっつもおまえって優等生だろ?死角が無いって感じでさ」
「そ・・・そうかな・・?」
「ああ。だからたまには俺にもイイカッコさせてくれよな」
このときから改めて孫権は朱然にモーレツな友情を深め始めたのだった。
 

その後、凌統は800Mでも優勝した。

「公績くん、すごいね!全部優勝じゃない!」
「周瑜さんが応援に来てくれたからだよ・・・」
凌統はそう言って少し頬を赤らめた。
それを横で無言でみていた孫策は
(こいつ、中学生のセリフじゃねーぞ・・・ふんっ、マセガキめ・・俺の高等部時代の伝説に比べたら大したことないぞ)
とひとりごちていた。
「それよか、周瑜さん、競技終了後に保護者参加の競技があるんだけど、一緒にでてもらえないかな?」
「どんな競技?」
「フォークダンス!」
 
 

さて、次は孫権の出る借り物競走である。
これはトラックを50M走ったところに紙きれが吊されており、それを取って紙に書かれているものを持ってきてゴールするという競技である。
スタートして、紙を見ながら、孫権が孫策たちのいる方向に走ってくる。
「兄上、一緒に来てください!
「な、なんだ!?」
「兄上しか心当たりがないんです!早く!」
「おう!なんだか知らないが行ってくるぞ」
「行ってらっしゃい!」
周瑜の脇を通り抜けて孫策は孫権に手をつながれて走っていった。
どうやら一位でゴールできそうだ。
ふと、周瑜が隣をみると、まだ数人、紙をもったままうろうろしていた。

「あの〜どなたか、トンコツ味のキムチラーメン、持っているかたはいませんか・・・?」

だれなんだ、そんな問題つくったのは・・・・とそこにいた誰もが思った。

また、別の生徒は

「すみませ〜ん、誰か本当は50代だけど20才にみえる、と言う方いらっしゃいますか〜?」

と呼びかけていた。
そりゃ自分で名乗り出るヤツはいないだろう・・・と周瑜は気の毒そうに生徒を見た。

「あの、すみません!」
横合いからいきなり声をかけられた周瑜は驚いた。
「は、はい?何か??」
声をかけてきたのはやはり高校生で、しかもガタイもでかい。
「あの、一緒に走ってくれませんか?」
「は・・?あ、でも私ヒールだし・・・」
「大丈夫です!自分が抱き上げていきますから!」
「えっ・・?あっ!」
そう言っている間にその生徒は周瑜をお姫様抱っこしていきなり駆けだした。
「ああっ」
あれ、でもどこかで見たことがあるなあ・・・?と周瑜は思った。
「あ!わかった、君、叔嗣くん!」
「わ〜憶えててくださったんですね〜光栄です」
走りながらにこやかにそう答える。
張休叔嗣、言わずと知れた東呉商事の張昭の息子である。
ゴールしたところに、孫権と孫策が立っていた。
なんだか孫策は不機嫌そうだ。

「おいこら、いつまでそうやって抱いてるつもりだ。さっさと公瑾をおろせ!」
孫策が少し怒りながらそう言う。
張休は少し困惑しながらも周瑜を下ろした。
「ありがとう。叔嗣くん」
「いいえ〜、し、周瑜さんて、軽いんですね・・・」
照れながら言ったこのセリフに孫策はまたしても怒りを爆発させた。
「このガキ〜!公瑾を抱くなんて100年はやいわ!」
そして、張休の紙を「みせろ!」と言って奪った。
「な〜んだとぉ〜(怒)」
そこには
<未来の花嫁さんをお姫様抱っこ♪>
と書かれていた。
周瑜は雷の落ちそうな孫策を避けて、孫権の傍に近づいた。
「一位おめでとう。ところで紙にはなんて書いてあったの?」
孫権は苦笑いしながら、紙を見せた。
<運動神経だけが取り柄の男>
とあった。
周瑜も苦笑した。
 
 

さて、体育祭も終盤。
孫権は玉入れ、凌統は勝敗を決めるリレーに出場した。
孫権の紅組と凌統の青組が同点だった。

リレーは中高混合で行われる。
凌統は青組のアンカーだった。
そして赤組は丁奉。
「さっきは負けたけど、今度は負けないぜ!」
丁奉は挑戦的だ。
赤組の二番手には朱然がいた。

スタートして、青組のトップは朱桓だった。
二位以下を大きく引き離していく。
トップから遅れること30M、朱然がバトンを受け取った。
父の声援を受けながら朱然ががんばる。

なんとか朱然は差を縮め、次の走者にバトンを渡した。
そのとき、前を走っていた青組のバトンが落ちた。
「しめた!」
これで一位と二位が入れ替わった。
青組の第三走者はあわててバトンをひろって走り出したが、その差は50Mほどに開いていた。
そのままアンカーに渡る。
赤のアンカーは丁奉だ。
勝ち目はないかもしれない、とは少し頭をよぎったが、凌統はバトンを受け取ってとにかく全速で走った。
遠くで周瑜の声が聞こえる。
アンカーだけは一周余計に走るのだ。
凌統は丁奉との距離をどんどん縮めていった。

「おお、あいつやるな」
周瑜の隣で孫策が拳を握って見ていた。
「うん、なかなか根性があるな。将来有望だ」

ゴールは殆ど同時だった。

審判の先生も判断がつかず、同着ということになった。
その結果、青と赤も同点優勝となった。
体育祭での優勝チームにはなんとチーム員全員の焼き肉食べ放題の招待券が配布されることになっている。
双方とも大喜びであった。

「よかったね!公績くん。大活躍だったじゃない」
「えへへ・・・」
凌統はそう言って照れ笑いをした。
 

そして体育祭も無事終わり、キャンプファイヤーの炎が校庭の真ん中にあかあかと灯った。

「なつかしい・・」

周瑜はフォークダンスの環の中にいた。
最初に凌統と踊ったが、フォークダンスは相手がくるくる変わるので誰と踊ろうとあまり関係はない。
周瑜は学生時代のことを思い出して苦笑した。
孫策がフォークダンスの環の中にいて、周瑜と踊るために前へ前へと無理矢理移動して周りのひんしゅくをかいまくっていたっけ・・

自分より背の低い男子中学生に合わせて踊るのはなかなか難しい。
途中で曲が変わって、チークダンスの時間になった。
さすがにこれは・・・と思い、ダンスの環から離脱した。
後ろをみると、孫権が楽しそうに女の子とダンスしている。
どうみても周りに女の子の順番待ちらしき一集団がいる。
朱然もどうやら今日の活躍でモテているようだった。
応援席に戻ってきたところに孫策がいた。
「車できているのか?」
「はい。あとで公績くんを乗せて帰りますから・・」
「そうか。では俺は一足先に帰るか・・・。お袋に見つかるとまた夕飯を食べて行けとウルサイからな」

孫家の今夜の夕食はまたある意味ひときわ豪華なのであろうことは容易に想像できた。
しかし孫策としては周瑜の手料理が良かったのだが。
「ま、弁当もうまかったし、今日は良しとするか」
「すみません、今日1日は公績くんと一緒にいてあげるって約束したんです」
「いいってことよ。・・・そういう律儀なとこもおまえの美点だ」

そうして東呉学園の体育祭は終わっていくのだった。
 
 

(終)