お断り。
このSSはBBCさんのサイト『電脳オクラル』に寄贈させていただいた作品です。
このSSは御都合主義的展開で終始します。ついでにギャグメインです。
どのルートでもない全員いるルートです。
ご都合主義がお嫌いな方、原作原理主義者、設定遵守主義者、あるいは自分の好きなキャラがいじくり回される展開がお嫌いな方にまで、無理に読んで欲しいとは思っていませんと言うか寧ろ帰れ。
読む以上はあなたの責任です。
読後不愉快な気分になられたとしても、当方は一切関知し、あるいは責任を取りませんので悪しからずご了承下さい。
了承出来る方は、先へとお進み下さい。
技巧的指摘や表現方法に対する指摘は存分に参られい。
しかし読んだ後でキャラの扱いに対して文句を言って来ても聞く耳持ちません。
文句たれるくらいなら最初から読もうとするな。
それでもいいなら、どうぞ。
出鱈目フェイト劇場
『ばれんたいん悲喜交々』
Written by “Lost-Way"
『バレンタインデー』
由来はともかくとして、2月14日はお菓子産業の策略に騙された小娘共がチョコレートを手に決戦に赴く。
そもそも日本にこの風習が入って来た時は、男性から愛する人へと贈り物をするものだったらしいが、当時の男性には受け入れられず、廃れてしまったらしい。
そこでお菓子産業が、それなら、と女性から愛する男性へ、と方向を切り替えたことがうまくいった。
結果が現在のバレンタイン商戦という訳である。
もともとは恋人同士が贈り物をしあう日だったらしいのだが。
「………そんな蘊蓄聞かせてどうしようというんだ?」
「いやなに、衛宮に忌まわしき毒婦の魔の手が及んでおらぬか些か心配になってな」
ここは学校、生徒会室。
衛宮士郎は今日も今日とて弁当持参で生徒会室で昼食をとっていた。
いつものように柳洞一成と昼食をとっていると、世間話の延長上として降った話題だ。
まあ、日付も2月14日。
話題にならない方がおかしいというものだが。
「そういう一成はどうなんだよ」
「義理で幾らか頂いたが」
「そんなもんだろ」
士郎はそう言いながらお茶を口に含んだ。
「故にな」
ガチャリ、と生徒会室のカギをかける一成。
「?」
「衛宮、俺の気持ちを受け取ってくれ」
「な!?」
ばばっ、と制服を脱ぎ捨てる一成。
下から出て来たのは赤褌一丁の一成(メガネは標準装備なので考慮外)。
「さあ、この俺のチョコバナナをー!!!」
「いやだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」
「………ああああああああああああ!!!???」
がばちょ、と布団を跳ね飛ばしながら目を覚ます士郎。
「………夢落ち?」
無理もない話ではあるが、息が荒い。
「とりあえず、………夢落ちで良かった………」
男のチョコバナナなぞ願い下げこの上ないものなのだから。
魂を吐きかねない程に安堵すると、時計に目をやる。
「………って、朝ごはんの支度だ!?」
表示されていた時間にバタバタと着替え、慌てて台所に駆け込む。
と ――
「シロウ、ぎぶみーちょこれーと」
「……………………………………………………は?」
腹ペコ獅子丸ことセイバーが、すっ、と手を出してさも当然のように宣った。
「なんでさ?」
「む」
むむう、と眉根に皺を寄せて唸る王様。
「シロウ、今日が何の日だか解っていますか?」
「ああ。2月14日。バレンタインデーだろ?」
「そうです。ですからシロウ、ぎぶみーです」
「だからなんでさ」
「知らないのですか!?」
非難するように叫ぶセイバー。
「今を去ること50数年前。この国は太平洋戦争という戦に敗れ、人々は飢え、子供たちは苦しんでいた」
「セイバー?」
「その時、戦勝国の軍人でありながら、お腹を空かせた子供たちのためにチョコレートを配ったという素晴らしい指揮官がいた。その名をバレンタイン少佐」
「ちょっと」
「以来、2月14日は彼の少佐の偉業を讃えるためにお腹を空かせた子供たちのためにチョコレートを配る日になった」
「いや、セイバー?」
「そう、『ぎぶみーちょこれーと』と唱えればチョコレートが貰えるという素敵な日なのです!!」
さあよこせ、と手を差し出して来るセイバーに、士郎は唸った。
「いや、その知識間違ってる」
「なんと!?」
「一体誰が教えたんだ」
「ライダーが読んでいたマンガにそう描いてありました」
士郎が何か言おうとしたとき、ライダーが姿を見せた。
「おはようございます、シロウ」
「あ、ああ。ライダー、おはよう」
「はい、シロウ。日ごろお世話になっていますから、これを」
言いつつ出したのはチョコレート。
しかも見た目で解るハート形で、可愛らしくラッピングされている。
「……………………………………………………ライダー、それは一体?」
「チョコレートです」
「何故シロウに渡すのです?」
「それは、2月14日がバレンタインデーだからですよ」
何を当然のことを、と言わんばかりにライダーは微笑む。
「バレンタインデーは、女の子が愛する人に、その想いを込めてチョコレートをプレゼントする日なのですよ?」
「……………………………………………………な………!?」
ががん、とショックを受けるセイバー。
「ですからシロウ、受け取って頂けますか?」
「あ………うん。ありがとう、ライダー」
「はい」
「それはいいんですけれど、先輩」
ゾクリ、とする気配とともに桜が顔を見せる。
「う、桜。おはよう」
「おはようございます、先輩」
どこか黒い『影』を纏っているような気配さえ見せる桜に、士郎の物よりも更に一回り大きなハート形のチョコを手渡しながらライダーは微笑んだ。
「はい、サクラ。バレンタインデーです」
「……………………………………………………え?」
一気に毒気を抜かれたようにキョトンとする桜。
「我が最愛の主よ。これからも貴女のサーヴァントでいることを許してくれますか?」
「………ライダー………」
「…………………………桜」
「先輩」
「いいサーヴァントを持ったな」
「ええ」
「もちろんです」
桜が答え、ライダーが肯定する。
「バレンタインデーの意味を履き違えてマスターに迷惑をかける駄目サーヴァントになりたくはありませんから」
「!」
なにやら『ぷちむ』と細いものが切れる音がしました。
放送事故のため、暫く御待ち下さい。
「………やれやれだよ」
我が家も頑丈になったものだ、などと思いながら士郎は朝食の支度の済んだ食卓に腰を下ろした。
ちなみに凜は破壊音でたたき起こされた所為か酷く不機嫌な顔をしていたが。
「シロウ、チョコレートー」
「イリヤ、ありがとう」
「えへへー」
朝食後、可愛らしくラッピングされた包みを受け取って士郎が顔を綻ばせると、イリヤも頬を染めて可愛らしくはにかんだ。
「こりゃホワイトデーは頑張んなきゃな」
「先輩、私も」
「桜もありがとう」
「いえ」
桜は桜でハート形のラッピングが可愛らしい。
「因みに私は夕飯のときに渡すから皆その心算で」
「あ、うん。ありがとう」
えへんぷい、と胸を反らす藤ねぇに頷く士郎。
「覚悟しときなさい」
「なんでさ」
その時に拒否していなかったことが、よもやあんな悲劇を生むことになろうとは。
誰もが口を揃えてそう言うことになったそうな。
「やれやれ、朝から酷い目に遭った」
「そもそもあんたがしっかり見てないからでしょうが」
「不可抗力だろうあれは」
遠坂が不機嫌に睨み付けて来るのをいなしながら校門をくぐる。
そして下駄箱のところまで来た時、彼女はいた。
「あっ、あのっ」
仲良し三人娘。うち、三枝由紀香が前に立ち、その後ろで蒔寺楓が何やらわくわくした表情で、氷室鐘はいつも通りクールな視線を向けて佇んでいた。
由紀香は何やら決意を固めているのか緊張に強ばった顔でかすかに体を震わせている。
「………モテる男はつらいわね」
「なんでさ」
冷ややかに告げた凜に対して、士郎は呻くように突っ込んだ。
と ――
「遠坂さん! 愛してますっ!!」
どがん、と由紀香は周囲に響き渡る威声で以て宣言すると凜の胸元にチョコレートを突き出す。
反射的に受け取ってしまった凜を見て、ふえ、と涙を浮かべると
「うけとってくれたああああああああああああああ!!!」
とドップラー効果による絶叫を響き渡らせ、歓喜に泣き叫びながら走り去っていった。
それはもう、嵐のように。
「………遠坂」
「なによ」
「モテる女はつらいな」
「……………………………………………………士郎の癖に生意気言うな」
後で折檻が決まったのは言うまでもないことかもしれない。
この赤い悪魔め。
「………平和だな」
「ああ」
職員室に用があったので入って行ったとき、葛木が妻であるキャスターから手渡されたのであろうハート形のチョコクッキーをボリボリ食っていたのには些か気圧されたが、それ以外は平和なものだった。
世は並べて事もなし。
「日々是平穏」
「………それは願望か」
「多分」
一成の言葉に呻きながら、悪夢と同じ状態になっていないことに士郎は感謝した。
昼休みは平和に終始した。
「………み、美綴………?」
「どうした? 衛宮」
「どうした………って、何の真似だよ!?」
「………とりあえず、ハートを射貫いてみようかと」
「って、本気で弓構える奴があるかよ!?」
「いつだって私は本気だからね」
「本気の意味が違う!」
チョコを受け取るまで矢を射掛けられました。
「………大変な目にあった」
「美綴先輩、意外と先輩のこと狙ってたんですね」
「初めて知った」
「意外な伏兵です」
むむう、と唸る桜とともに帰路に就く。
「ふっふっふー」
「どうした、藤ねぇ」
「夕飯にチョコをだすのだー」
「なんでさ」
「シロウ、サクラ。申し訳ありません。私では太刀打ち出来ませんでした」
「シロウ、ごめん、ごめんね」
「シロウ、私は、無力でした」
泣きながら三人がすがりついて来る。
何があったのか、と、食卓を見ると。
「………藤ねぇ」
「美味しいよ?」
「美味しいよ? じゃねぇよ」
食卓には既に夕食が並んでいた。
それはいいとしよう、と士郎は呻いた。
「御飯は雑穀米、まあそれはいい。大量に積み上げたコロッケもまあ許そう。山のように積んだポテトサラダも大食いがいるから何とか許そう」
「何よー、何か問題でもあるって言うの?」
「………味噌汁にチョコを混ぜるなタイガー!!」
「タイガー言うなー!!」
「黙れこのばかトラ!! これじぁあ味噌汁じゃなくてチョコ汁だろうが!!」
「おいしいのよ!!」
「食えるかこのたわけ!! お前が独りで食ってろ!!」
さしものタイガーも6対1では勝てなかったようで。
「………うう、ひどいよ」
「どっちがだ」
タイガーの夕飯はチョコ汁のみになってしまったと言う。
「はいはい、口直しにまともなチョコを出すわね」
遠坂が苦笑しながらチョコケーキを取り出した。
「セイバー、士郎優先だからね?」
「……………………………………………………はい」
静かにではあるが、落胆した空気を漂わせている。
「うーん、ちょっと切りにくいか」
士郎、凜、桜、セイバー、ライダー、イリヤ。
6等分となるとまだ楽な方なのだろうが。
普段は8等分にしてから残るひとつをジャンケンというのが通例だからか。
因みに大河はチョコ汁だけで後は御飯すら与えられていない。
よってケーキはなしである。
「バレンタインに、士郎と皆に感謝を」
「ありがとう、遠坂」
「どういたしまして」
「………セイバー?」
「シロウ、遅くなりましたが」
不安に振るえる瞳。
手には、小さなチョコ。
その無気質なメーカー包装を剥いてチョコを取り出すと、口に咥えた。
「……………………………………………………セイバー」
「ん」
そして二人の距離はゼロになる。
「………果たして、勝利者は誰なのかしらね?」
「さて、それは」
「まあ、状況はイーブンでいいんじゃない?」
「そういうことにしておきましょう」
「しかし、女性から告白されるとは、リンらしいというべきでしょうか」
「誰から聞いた」
「ふふっ。幾ら姉さんでも、先輩は譲れません」
「あんたね」
そして乙女たちは再び騒がしく、かしましく。
それすらも一時のイベントとして時は過ぎ行く。
世界とは、そういうものなのだろう。
「………だからってこの扱いはどうよ!?」
それこそ虎らしい扱いだとはおもわんかね?