「エプロン、ですか?」
「ああ。………どれが似合うかよく解らなかったが」
 時に3月14日。
 俗に『ホワイトデー』と呼ばれる、バレンタインデーに対を成す、日本特有のイベントの日であった。
 
 







『女の戦装束』





Written by “Lost-Way”










 仕事から帰った葛木を出迎えたキャスターは、手渡されたプレゼントの包みを解いて、中を見てみると、エプロンが出てきた。
 今身につけているチェック模様のエプロンとは違い、パステルグリーンでシックに纏められた、可愛らしいデザインのエプロンだ。
「………うれしい………ありがとうございます、宗一郎様」
 顔を埋めるように、エプロンをかきいだいて笑顔を見せるキャスターに、
「うむ」
 と、言葉少なく頷くが、頬が微妙に染まっているところを見ると、葛木の方は、どうやら照れているらしい。
 
 
 
 

「すぐにお夕飯の仕度を致しますね?」
「ああ、たのむ」
 エプロンをその場で着替え、パタパタと足取りも軽く、キッチンに駆け込むキャスター。
 彼女は彼女で、葛木にプレゼントを貰ったことが嬉しくてたまらないらしい。
 
 
 
 

「それにしても、どうしてエプロンを選んで下さったんですか?」
「………なんと言うか………」
 言いよどむ、と言うよりも、言葉を捜しているというべきか。
「エプロンは、『女の戦装束』と言う感じがするのだ」
 これ以外にも他に適切な言葉があるだろうか?  と、それでも何か考えながら、言葉を紡ぐ。
「戦うたくましさを見る、と言うのだろうか。お前がエプロンをつけるたび、華麗な鎧を身に付けているような、そんな感じがする」
 キャスターは、茹で上がったように真っ赤になった。
 
 
 
 

 男が、女性のエプロン姿が好きだと言うのは、そこに母親像を見ているからではない。
 戦うたくましさを感じているんだ。
 男は、女性がエプロンをつける瞬間が好きだ。
 そして、エプロンをとって、きれいにたたむと、次の瞬間、彼女はますます女らしくなる。
 そんな瞬間も、好きなのだ。