残り八体となった死徒二十七祖のうち一体が消えた。

 この時、アルクェイド・ブリュンスタッドが名実ともに世界の頂点に立ったのだった。
 
 

「ふむ、これで終わりか。あっけない気もするが」

 元帥ゼルレッチが独白し、皇婿・志貴=ブリュンスタッドが苦笑した。

 第二,五,二十四,二十七位は活動していない。

 死徒二十七祖第九位、プリンス・コンソートこと志貴=ブリュンスタッド、

 同四位、魔導元帥ゼルレッチ、

 二十位、メレム=ソロモンらは真祖の姫君に従っている。

 最早埋葬機関にも、協会にも、彼らを止めることは不可能となった。
 
 

「しーーーきーーー!」

 見て!といわんばかりに獲物を咥えてくる猫を彷彿とさせる得意そうな笑顔で、

 お姫様が駆け寄ってくる。

 バフッ、と思い切り抱きつくと本当に嬉しそうに志貴を見つめる。

「これでこの世でずっと自由に暮らせるね?

 世界も全部志貴にあげる。みんな志貴のものだよ?」

 世界の頂点はあっさり委譲されてしまった。

 歴史上もっとも平和的な権力の移動だったが、それで何かが変わる訳でもなく。

 軽く、喜びと苦笑の溜息をついて。

「じゃあ、一旦戻って…お披露目といくか?」

「うん!じいや、メレム、あとはよろしくねー」

 うやうやしくメレムソロモンは一礼し、ゼルレッチは無愛想に頷いた。
 
 

 そして、消えた。
 
 


皇婿(プリンス・コンソート)志貴』



 
 
 
 

Written by “EIJI・S"

 
 
 

「シエルか」

「局長?」

「これが最後の通信かもしれんな。……教会は全面降伏だ。

 結局のところ黙認してきた貴様の活動も目を瞑ってやった物資の横領も無に帰した。
 
 教皇聖下は大層お嘆きだ、……貴様が皇婿を倒す事が唯一の救いだったのだからな」

「貴女に見る目がなかったのですよ」

「そうかもしれん……近く皇婿殿下に謁見することになりそうだよ。

 私も初めての相手が絶倫超人とは報われんな」

 共に、会話に全くと言っていいほどにやる気がない。

 あるいは、ナルバレックは産まれて初めて愚痴をいっているのかも知れなかった。

 それを聞くのが自分というのはなんとも不思議な感じがしたが、シエルは同情する気にはならない。

「……いい気味ですねー」

「……父と子と、聖霊の御名において」

 お定まりの言葉と共に、回線は閉じた。

 カシャン、と妙に澄み切った音を立てて

 決意と共に、回線端末が飛び散った。
 
 
 
 

「ふふっ」

 苦笑がもれる。…これが笑わずにいられようか。

 人類を初めてまとめ切ったのは、人でなくなった自分の教え子だという。

「……!」

 他の魔法使いが声を荒げるが気にもならない。

「じゃあ、この状況において人類をまもる抜本的な解決案でもあるって訳?

 魔道元帥の提案は同盟?不可侵条約?

 違うでしょう!?

 これは降伏勧告!

 笑わずにいられる!?

 現存する魔法使いと魔術師が雁首そろえて、

 敵わない相手にどう対処するかを延々と話しあうなどという愚行!」

 椅子を蹴って立ち上がる。

 もうこんなところにいるのは御免だった。

 外に出た。漆黒の夜空を見上げてふと思う。

 どれ、世界を征服したという教え子の顔でも見に行ってみるか?
 
 
 
 

 死徒のバトラーが報告に来た。

 荒事を嫌う彼はゴタゴタした争いに終止符が打たれた事を寿ぎ、

「間も無く当機は離陸致します。

 羽田到着時には満月も両殿下の御前に傅くことでしょう」
 
 アルクがうなずき、手で軽く宙を薙ぐと一礼して下がっていく。

「はぁっ……月光浴より日光浴がしたいな。

 縁側に座って、日本庭園を眺めながら渋い緑茶をすすりたい……」

「むー、志貴ってば枯れ過ぎよ」

 そうだろうか。

 世界の死徒を倒しまくって七年。故郷を懐かしんでも罰は……

 あぁ、存在自体あてられても文句いえないんだっけ。

 否。もう俺に罰を当てる神の、地上代理人はその組織ごと膝下にある。

 恐れるものは何もない。その為に、彼女との永遠の為に。

 死徒となり、主を殺すという賭をし、さらに他の死徒を狩ったのではないか。

「私は志貴と一緒ならなんでもいいけど、とりあえず普通のデートコースに行ってみたいなー」

「前に映画を見たろ?」

「七年も前のこといわれてもねー。

 しかも今時デートで映画って使い古されたパターンらしいじゃない」

 そうなのだろうか。

 まぁ確かに俺もデートに詳しいなどとは言えないから仕方ないかもしれないが。

 だがこいつのこういう知識の出所は気に入らない。

「……くだらない雑誌を読むな、と言ったろ?」

「え、なんでわかったの!?」

 わからいでか。

 こいつに情報源は俺かメレムしかいない。あとは自分で本を読むか、テレビくらいだ。

 ついさっきまでいた地方はテレビもローカル局しかなく、つまらなーい、

 とホテルで苦言していたぐらいだからみていない。となれば答えは一つだ。

 別に本を読むこと自体は構わない。

 ちょっとした専門書の類もアルクェイドが嬉々として語ってくれるならそれはわかりやすいし、

 俺にとってすでに楽しみの一つだ。

 だが、くだらない週刊誌や女性誌などを読みなれて、もしも。

 もしもアルクェイドが変わってしまったら。

「今度そんなものを読んでみろ、その手の本を出す出版社をあらかたつぶしてやるぞ」

「むー、志貴ったらおーぼー」

「……俺は、そのままのお前がいいんだよ」

 世界を征服しても変わらないお姫様。彼女と一緒なら、

 太陽が浴びられない永遠。それも悪くはない。
 
 
 
 

 世界を統べる姫君の皇婿は、眩しそうに彼だけの太陽を見て目を閉じた。
 
 
 



 

注釈 

皇婿(プリンス・コンソート)
ヴィクトリア女王に入り婿したアルバートが婚後17年目にしてようやく認められた優位の名称。
教会は当然、志貴に対する嫌味でつけた。
志貴は一度アルトルージュの死徒となり、アルクの協力を得てアルトを滅ぼす。
すなわち、死徒と真祖の両姫君の入り婿、という訳だ。
遠野家のコン・ゲームでさつきが四季に逆らえないという描写があるがエンハウンスは主を殺しての
成り上がりに成功している。これ如何に。志貴は後者例とする。

志貴死徒化
アルクの死徒だとアルクの人形。
人間のままだと短命。
それなら、と志貴っち一世一代の大博打。
血は輸血用医療パックからごくごくと兄妹仲良く。
他上記。

教会と協会
教会はメレムソロモンの、
協会はゼルレッチの折衝によりアルク一党の世界的優位を認めることとなる。

日本のある場所
ローカルうんぬんとあるが沖縄。
無人島(アルク所有)に死徒を誘き寄せて集団リンチ。
RPG的お約束。