「はい、志貴さん。お茶が入りましたよー?」
「ああ、有り難う、琥珀さん」
差し出された湯呑みを受け取る。
丁寧に渡された湯呑みを、丁寧に受け取る。
ふたりだけの、秘密。
そう、それはこの湯呑みの秘密。
それは、温泉旅行に溯る。
月姫夜話 短編
『夫婦茶碗』
皆で温泉に行った時、陶器を作るコーナーがあった。
一晩で焼いて、次の日の朝、もらえるものだ。
「………やってみようか?」
俺が言った。
「いいですねー」
琥珀さんが応えた。
今、せっかく温泉に入って汗を流したばかりだというのに?
まぁ、また入ればいいだろう。
温泉は、一晩中やっているんだから。
簡単なモノは、茶碗に、好きなシールを選んで貼るだけのモノもある。
武者小路実篤の言葉が書かれたシールがいろいろあるから、それだけでも結構バリエーションがある。
お皿に、好きな柄や絵を描けるモノもある。
細かい作業になる。
浴衣の袖をまくり上げて、する。
やってみると、小学校の工作の時間のようで、楽しい。
陶器は、『ハマる』と言うけど、確かにやって見ると、その気持ちがわかる。
俺は、『花ありて人生楽し』と言う言葉を選んだ。
琥珀さんは、『共に咲く喜び』と言う言葉を選んだ。
琥珀さんらしい言葉だな、と思った。
「ああ、琥珀さん。ちょっと待って?」
琥珀さんが湯呑みにシールを貼ろうとするのを、止めながら言った。
「ねぇ、お互いのに、交換して貼ろうよ」
俺の湯呑みには、外側に『花ありて人生楽し』を貼って、内側に琥珀さんの『共に咲く喜び』を貼る。
琥珀さんの湯呑みには、逆にする。
こうすると、二つがセットになる。
しかも、外側のシールは、内側のシールより小さめにするところがお洒落だ。
「夫婦茶碗ですねー」
実は、狙ってた。
見るからに『ペア』というのは、気恥ずかしいし、お洒落じゃない。
よく見ると、実は『ペア』だった、というのが、センスのあるプレゼントなのだろう。
それ以来、毎日使っている。
end………?
or continue………?
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THANKS A LOT!!
後書き………のような駄文。
琥珀さんです。
何と言うか、いつも和装なので、日本贔屓の志貴君の一番の理解者なのでは? と、考えてみた結果、こうなりました。
ちなみに、こういうことをさせてくれる窯元はあります。
実体験によるものだったりしますし(苦笑)
実際に目の前でやられると、結構気恥ずかしいものがあるんですけれどね。
では。
LOST-WAYでした。