Moon Time『月姫カクテル夜話』 

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「………花見?」

「おう」

  有彦が、胸を張って応える。

「お前な、今がいつか解って言ってるんだろうな?」

「当然だろ?」

  今は、梅雨の真っ最中だ。

  花見なんて、とうに時期を過ぎてる。

「だから、花見なんだよ」

  有彦は、自慢気に言う。

「特に、この土日、小雨が降るって予報だったからな」

  嬉しそうに言う有彦。

  俺は、わからない、という顔をした。
 
 

















月姫夜話  短編集

『紫陽花』



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Written by “Lost-Way"

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「雨ですねぇ」

「うん。そうだね」

  琥珀さんとふたり、離れの縁側で、庭先を眺める。

  小雨がしょぼ降る夕方、何をするでなく、庭先を眺める。

  秋葉は遠野グループの仕事とかで、珍しく翡翠を連れて出掛けた。

  泊まりがけの仕事とかで、週明けまで帰ってこない。

  だから、俺は、琥珀さんとふたり、離れに居た。

  天気は、小雨。

  庭先に、紫陽花。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   ―― 成程。

  『花見』と聞いてすぐに桜が思いつくのは、日本人としての本能だろう。

  でも、こんな『花見』もあるんだな、と、有彦に、軽く感謝した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  縁側に敷いた座布団の上に腰を降ろし ――

  傍には、琥珀さん。

  和室に合わせて、俺も作務衣を身に着けていたりする。

  懐かしい、原風景。

  そんな、気になる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「はい、志貴さん」

「ああ、ありがとう」

  お銚子を傾けてくる琥珀さんに、お猪口を差し出す。

  軽く、ひとくち。

「うん」

  喉に、するすると滑り込んでくる。

  本当に美味しい『酒』は、『水』になる、って言うけど。

  本当に、そうなんだな。
 
 
 
 

  薄明かりに照らされた、紫陽花が、仄かな輝きを放つ。

  小雨に濡れた紫陽花が、静かに、そこにあった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「そういえば、志貴さん」

「ん?    なあに?」

「紫陽花の花言葉、御存じですか?」

「うん。それぐらいなら、ね?」

  確か、『移り気』だったかな?

  あるいは、『心変わり』だったかな?

「ええ、そうです」

  だから、恋愛においては、忌避される花だったと思う。

「そうですね。でも、だからこそ、私の想いは、紫陽花みたいでありたいんですよ」

  それは、どうして?

「変わらずにいられるものなんて、ありませんから」

  しっかりとした『芯』のようなものを感じさせる、笑顔だった。

「ですから、私の、志貴さんへの想いも、紫陽花のようでいたいんですよ」
 
 
 
 

  ………なんとなく、いい感じがしない。
 
 
 
 

  『移り気』

  『心変わり』

  浮気されてるような気になるのは、なぜだろう?
 
 
 
 

  そんな思いが、表情に表れたんだろう。

  琥珀さんは、困ったような笑みを見せた。

「一度しか、言いませんから」

  照れたように、それでも、はっきりと、口にした。
 
 
 
 

「もっと、志貴さんのことを好きになりたい」
 
 
 
 

「もっと、志貴さんのことを愛したい」
 
 
 
 

「もっと、志貴さんに、好きになってほしい」
 
 
 
 

「もっと、志貴さんに、愛されたい」
 
 
 
 

「これが、私の『移り気』」
 
 
 
 

「これが、私の『心変わり』」
 
 
 
 

「それじゃあ、だめですか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  ……………………………………………………ああ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  小雨が、世界を満たしていた。

  紫陽花が、雨に濡れていた。

  俺は、縁側に腰を降ろし、

  琥珀さんが、傍にいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  end………?
  or continue………?

  This Story has been sponsored by 『MOON TIME』 & 『KAZ23』
  THANKS A LOT!!



 

後書き………のような駄文。

  紫陽花の花見に、目の前で繰り広げられた一幕を、月姫に置き換えてみました。

  はっきり言って、倒れそうでした。

  でもまあ、二人にはお似合いの光景だと思いますね。

  二人、生活するなら、離れで暮らしそうな感じですし。

  では。
  LOST-WAYでした。
 
 
 
 
 


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