秋葉が、遠野グループの会議とかで、泊まりがけの仕事に出掛けた。
俺は、その間、鬼の居ぬ間に、とかで、のんびりしていた。
門扉の方から、バイクのエンジン音がした。
「お届け物でーす!」
宅配の、元気のいい声がした。
月姫カクテル夜話 短編集
『バイク便』
Written by “Lost-Way"
バイク便は、秋葉からだった。
中から、ポロトレーナーが出てきた。
「道を歩いていたら、兄さんに似合いそうなポロトレーナーを見付けたので、贈ります」
そう、秋葉からのメッセージが添えられていた。
バイク便でプレゼントをもらったのは、初めてだった。
宅配便ではなく、同じ日に届くバイク便で贈る、というところが、秋葉らしい。
そう、思った。
かといって、直接届けられたら、なんとなく、気を使ってしまう。
何よりも嬉しかったのは、わざわざ買いに行ったのではない、ということだ。
もちろん、わざわざ買いに行ってくれるのも、嬉しい。
わざわざ買いに行く時は、プレゼントの事を考えているんだ。
道を歩いていたら見付けた、と、言うのは、その時、秋葉の頭にあったのは、プレゼントの事じゃない。
俺のことを考えていてくれた、と言うことだ。
それが、嬉しい。
プレゼントを考えるのは、大変だ。
だから、つい、「何が欲しい?」と聞いてしまう。
たいてい、「何でもいいですよ?」という答えが返って来てしまう。
これも、ウソではない。
秋葉からもらうプレゼントだったら、何でもいい。
どんなに素敵なモノでも、嫌いな人がくれるというモノは、もらいたくない。
プレゼントは、誰からもらうか、が、大事なんだ。
だから、何だっていいし、何だってダメなんだ。
プレゼントを何にするか、を考えるのは、大変だけど、楽しい。
秋葉のために考えるのだったら、楽しい。
秋葉からプレゼントをもらった時、いろいろ考えてくれたんだろうな、と考えると嬉しい。
例えば、秋葉が、「あんなのが欲しい」と、ショーウィンドを指さしてくれたら、一番楽だ。
後は、懐具合の問題になるからだ。
譬えば、「ハンカチが欲しい」といわれたら、もう、難しくなる。
どんなハンカチがいいか、選ばなければならなくなるからだ。
趣味が悪いと言われやしないか、心配しながら、たくさんのハンカチの中から選ぶ。
結局、プレゼントを贈るというのは、プレゼントを探すという作業なんだ。
四つ葉のクローバーを捜し出す作業なんだ。
プレゼントをもらう、その一瞬だけが、嬉しいんじゃ、ない。
プレゼントを何にしようか、あれこれ考えて、探してきてくれた、その時間が嬉しいんだ。
そして、そのプレゼントを見るたびに、秋葉の事を思い浮かべる時間が、嬉しいんだ。
プレゼントは、『モノ』を贈ることじゃ、ない。
プレゼントは、『時間』を贈ることなんだ。
どれだけ、プレゼントを考えることに時間を、エネルギーを注ぐことが出来るかで、相手のことをどれだけ想っているかが、自分で、わかる。
プレゼントの事を考えているわけじゃ、ないんだ。
キミのことを、想っているだけなんだ。
走りだしたバイクを見送り、ひとつ、笑みを浮かべる。
秋葉。
バイク便が、今、向かったよ?
end………?
or continue………?
This Story has been sponsored by 『MOON TIME』
& 『KAZ23』
THANKS A LOT!!
後書き………のような駄文。
ここまでスマートにプレゼントを贈れる人って言うのは、まあ、いません。
でも、だからこそ、このふたりにはお似合いなんじゃないでしょうか?
では。
LOST-WAYでした。