お断り。
このSSはBBCさんのサイト『電脳オクラル』に寄贈させていただいた作品です。
「よし、出来た」
「ごくろーさん」
有彦の部屋で、志貴は大きく伸びをした。
ホワイトデーの前日の夜の事だった。
『来年の約束』
「兄さん、今日は何の日だかご存知ですよね?」
「………ホワイトデーだろ?」
「ええ、ご存知ですよね?」
「ああ。………はい、秋葉。琥珀さんはこっちで、こっちが翡翠」
「あはー、私たちも貰えるんですか?」
「志貴さま、ありがとうございます」
三人に、それぞれ大きな紙包みを手渡す志貴。
「………軽い?」
「開けて見てもいいですか?」
「うん、いいよ?」
志貴が頷くと、三人はそれぞれ大きな紙包みを開けた。
出てきた物に、三人ともが怪訝な顔になる。
「………毛糸?」
「それに、編み針?」
「編み物の入門書に………型紙?」
「「「………………………………………………」」」
困惑顔を付き合わせる三人。
「あの、志貴さん、これはどういうことなんでしょう?」
琥珀が問うと、志貴からはあっさりと答えが返ってきた。
「サンプルを下に入れてあるから、来年のバレンタインデーまでには作って欲しいな?」
「………サンプル?」
三人が紙包みの底をごそごそと漁ると ――
「………キャップ?」
「あ、秋葉様のはキャップだったんですか? 私のはセーターでした。翡翠ちゃんは?」
「マフラー、です」
編みやすさと手先の器用さと編み物に振り分けられる時間で考えたのか。
あるいは、それぞれがケンカしないように予め分けておいたのか。
「これ、手編み?」
「そ。みんなに作って欲しいんだ」
「じゃあ、このセーターを編んだの、志貴さんですか?」
「意外?」
「兄さん、編み物出来たんですね?」
「実はね」
苦笑を浮かべながら、ティーカップを口元に運ぶ。
「意外な特技ですね、志貴さん」
「結構楽しいものだよ? 編み物も。毎日こつこつと作ってくと、ちゃんと形になるからね」
まあ、男の趣味とは言い難いだろうけどね、と苦笑を浮かべた。
三人娘は、顔を見合わせた。
「………遠野、どういう風の吹き回しだ?」
「今話しかけないで。網目を数え間違っちゃうから」
「あはは、秋葉ちゃん、おにーさんにプレゼントするんだよね?」
「羽居!? ………っ、ああもう、最初から数え直しじゃない!」
「………ええと、こっちをこう………」
「………こっちがこうだから、………ええと………」
「まあ、あんまり根を詰め過ぎないようにね」
以来、三人娘が志貴にプレゼント出来る出来映えのものを編み上げるために頑張り始めたのは、まあ、自然なことなのだろうか。
形の残るものを贈るのもプレゼント。
形に残るものを作るきっかけを贈るのもまた、プレゼント。