お断り
このSSは、youさんのサイト『うさぎの穴』に寄贈させていただいた作品です。
「無理だね、その値段じゃ」
「うぅ………」
都古は、露天商のけんもほろろな言葉に項垂れた。
公園いっぱいに広がっているフリーマーケット。
その中の一軒の古着屋の前で、都古は悔しそうな顔をしていた。
一目見て気に入ったマフラー。
すぐ側にペア物らしい色違いの物が展示してある。
値札が付いていない事で、店を広げている露天商の女性に値段を聞いて、予想外の値段の高さに悲鳴を上げ、慌てて財布を確かめて何とか妥協出来る値段に値切ろうとした。
その結果がこれである。
『包まないことが、最高のラッピングなんだ』
Written by “Lost-Way"
「 ―― じゃだめ?」
「無理。 ―― はないと」
「………お小遣い足りないよ………」
「なら、諦めな」
「………うえぇ………」
色、模様、デザイン、手触りに巻き心地。
どれをとっても気に入った。
唯一問題があるとすれば、価格の高さぐらいなものだ。
ペア物らしい、色違いのものがあるから、志貴と一緒に巻いて歩けたら、と思ってしまう。
しかし、両方買うことはおろか、自分用の物を買う事すら出来ない。
悔しさに、涙がにじんだ。
露天商の顔を見ると、にやり、と笑みを浮かべた。
まるで、「別にあんたに買ってもらわなくても困らないんだけどね?」と言っているかのように。
仕方なく、都はその店を離れた。
「………あれ?」
店の前で値切りのやり取りをしているのを、少し離れているところから、志貴は見つけた。
「都古ちゃんだ」
何をしているんだろう、と見ていると、値切りあっているのか、露天商の女性と言い合っていた。
「………………………………………………?」
交渉が纏まらなかったのか、都は肩を落として店の前からとぼとぼと立ち去っていった。
「あの、すみません」
「ん?」
「さっきの女の子、何見てたんですか?」
「そこのマフラーだよ」
「えーと、おいくらですか?」
「………彼女に買ってやるのかい?」
「値段が折り合えば」
「じゃ、こっちのペアのやつと一緒で……… ―― ってトコでどうだい?」
「………そんなに、安いの?」
「さっきの女の子には ―― って言ったけどね?」
「それ、値段高過ぎるんじゃないですか?」
「子供が自分用に買うものじゃないからね」
「でも」
「で?」
「え?」
「買うの?」
「あ、買います」
「ラッピングはしないよ。このままでね」
「えと、なんにもなしで?」
「こっちはそのままあんたが巻いて走りな。で、こっちの方を、さっきの子を追いかけて、後ろからかけてやりな」
「それって………」
「ホワイトデー特別サーヴィス、ってところだね」
「………ありがとう」
「急ぎなよ?」
露天商の女性はニヤリと笑みを浮かべた。
「都古ちゃん」
「おにいちゃん?」
はい、と首に回されたマフラーに、都古は目を丸くした。
志貴の首元には、ペアのマフラーが。
「………………………………………………ありがとう」
「どういたしまして」
志貴は、いつもの柔らかな笑みを浮かべて、都古の頭を撫でた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだい?」
「………冬になったら、また、このマフラーして、どこか、遊びにいこう」
「冬になるのを待たなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「まだまだ寒いからさ、もう暫くマフラーしてても大丈夫だよ」
「………えへへ………」
都古は、志貴の腕にしがみついた。
プレゼントを渡すのに、別に凝ったラッピングする必要はない。
それが着る物であったなら、剥き出しのまま渡してその場で着せてあげるのも、お洒落なんだ。