[Red-Eye]
「『ランドスケープ=フェア』?」
「そ。知ってるだろ?」
「そりゃ、知ってはいるけどね………」
すぐ近くのテーブルで三人、出す料理の選定や盛り付け、順番の調整に議論を重ねる『ミレニアム』トリオに、視線を向ける。
「今回は何の為に催すんだい?」
「そもそもの発端は………」
『パーペチュアル=ミレニアム』が、手元のグラスに口を付けながら、
「『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』の歓迎の意味を込めて、私達がもてなしたのが始まりですから」
「ああ、成程」
見たことのある『彼』の姿が思い出される。
「………招待状は?」
「これから」
『ブラックドッグ=ミレニアム』が、何か含んだ言い方をする。
「これから、書くよ」
「……………………………………………………ほほう?」
脳裏を、髪の長い『彼女』の姿がよぎる。
「………『ブラックドッグ』、そう言えば『妹さん』は?」
「みな? みななら、何とか。………っても、はづき姉のところに引っ越して、しょっちゅうウチに来るようになったからなぁ。何のために一時期離れて自分を見つめ直そうとしたのかわからなくなっちゃってさ」
「それだけ、心配しているということだろう?」
「甘えんぼさんだからなぁ」
言いながらも、表情は柔らかい。
「寧ろオレらのことより、よ。『グリーン・アイ』さんの方を気にするべきじゃねぇ?」
そう言うのは『セヴンスヘヴン=ミレニアム』。
「いや、それはそれで問題があってね」
苦笑を浮かべる。
「『里』に帰れば『生き神様』に祭り上げられるのは、やはり、辛いですか?」
「ああ。そもそも、私が原因で彼らを『造り出してしまった』ようなものだからね」
『パーペチュアル=ミレニアム』の言葉に、苦笑混じりに返す。
―― そう。
―― 幾星霜の、時の彼方で。
私の『衝動』が、彼らの『祖』を造り出してしまったのだから。
「気になってたんだけど、よ?」
『セヴンスヘヴン=ミレニアム』が、世間話でもする気安さで聞いてきた。
「オレらは、名前そのものを訳す形で『カクテル・ネーム』が付いてるけど、よ」
「俺は違うけど?」
「………そーいや、そーだな」
『ブラックドッグ』の言葉に『パーペチュアル』が返す。
「『ジン』と呼ばれる『カクテル・ネーム』もあったでしょう?」
「………あー、そういやそーだな」
「そもそも、何で君たちは『ミレニアム』なんだい?」
この際だから、私の方から先手を打って聞いてみることにした。
「私達は三人とも、本名が『千歳』だからですよ」
「………そこから?」
「ええ。千歳(チトセ)から、千歳(せんさい)。千歳(せんさい)、即ち、千年の間。千年の間、即ち、千年期。千年期、即ち、『ミレニアム』と」
「……………………………………………………」
何とも強引な論法だ。
「ファースト・ネームの方は?」
「私の場合は『パーペチュアル』ですが、これの意味は御存じですね?」
「ああ。恒久的な、とか、悠久の、とか」
「私のファミリー・ネームが『悠久(はるか)』ですから」
「なるほど。悠久千歳(はるか ちとせ)で、『パーペチュアル=ミレニアム』か」
「ええ」
「じゃあ、『セヴンスヘヴン』は?」
「名字が『天七(あまな)』だから、よ。『天』『七』で『セヴンスヘヴン』」
「………とすると、君はどうなるんだい?」
『ブラックドッグ』に話を振る。
「俺は、そもそもそういう『能力』だから、かな。『ブラックドッグ・シンドローム』って言う『能力』だから」
「………『超越者(オーヴァード)』………と、言うことかい?」
「そういうこと。だから、『サイボーグ・ボディ』の適合があるワケ」」
「なるほどね」
「自慢出来たモンじゃないけどね。カラクリ仕掛けの借り物の『力』だから」
[Akiha]
「………『ランドスケープ=フェア』ですか?」
「そ。まぁ、俺たち『ミレニアム』の新作料理の試食会、ってことなんだけど」
私の前には『ブラックドッグ=ミレニアム』と名乗る少年が座っていた。
歳のころは、兄さんよりもひとつふたつ上だろうか。
何でも、[MOON TIME]の『会員(メンバー)』兼『従業員(スタッフ)』らしい。
やんちゃな男の子をそのまま大きくしたような感じだが、左頬の、虎縞にも似た横三本の傷痕が印象的だ。
顔に傷痕がある割りには、目が少年のように悪戯っぽい輝きを持っている所為か、威圧的な印象はなく、寧ろ『放っておけない男の子』と言う印象さえ受ける。
「基本的に、『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』を招待するものなんだけどね」
琥珀、翡翠は下がらせてある。彼が『人払い』を求めたので、下がらせたのだが。
「………それと、人払いをさせた理由がどう繋がるのですか?」
「………基本的にね、『ランドスケープ=フェア』は、『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』に招待状を送付して、『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』が選んだ一名を随伴者として招待するものなんだ」
「……………………………………………………」
ということは、基本的に兄さん宛の招待状になる。それにしても、選んだ一名の随伴者、と言うのは………
「ここで、遠野君にそのまま招待状を送ったとしても、誰を連れて行くかでもめて、結果的に来てもらえない、となったら、何の為に催そうとしたのかわからなくなってしまう。彼が『特別会員(スペシャルクラス・メンバー)』になったことのお祝いみたいなものだからね。………まぁ、些か遅くなってしまったけど」
「……………………………………………………つまり………?」
―― なるほど。
この人は………私を………
「そう。“店”の方から秋葉さん、貴女と志貴君を招待したことにして、来てもらおうと思うんだ。そのことをあの二人の前で言ったら………ねぇ?」
「………成程。いくら使用人でも兄さんに取り入って状況を覆そうとする可能性がある、と?」
そう、私を選んだことにして、他の恋敵(ライバル)に一歩差をつけさせようとしてくれているのか。
「そういうこと。で、受けてくれます?」
「そういうことでしたら、喜んで」
この上ない笑顔で答えられる。
最初に来たときは何かと思ったけれど、私の想いを応援してくれるのが[MOON
TIME]のスタッフなら、これは都合がいい。
「時間、都合つけて下さい。貴女は、多忙な人だから………」
「そういうことでしたら、なんとしてでも都合をつけてみせますわ」
「では、後日、招待状を、貴女と志貴君との連名で贈らせて頂きますから」
「ええ。お待ちしていますわ」
私は、招待状が来るのを、そして、きたる『ランドスケープ=フェア』の日取りに心をときめかせていた。
月姫カクテル夜話《Red-Eye》
[Shiki]
カランカラン………と、ドアベルが鳴る。
「お帰りなさいませ。カクテルバー『ムーンタイム』へようこそおこし下さいました」
落ち着いた雰囲気を見せる樹のドアをくぐると、入り口付近で待機して居たウェイトレスが声を掛けて来た。
「ようこそ、志貴様。………招待状をお持ちですか?」
「あ、ああ。………これ」
ポケットから招待状を出してウェイトレスへと手渡す。
「………確かに、承りました。秋葉様と御一緒ですね。では、こちらへ」
ウェイトレスが、先に立って案内してくれる。
秋葉は、と、見ると、
「……………………………………………………♪」
かなり浮かれた顔をしていた。
まぁ、無理もない。
ふたりだけで外出するなんて殆どなかったし、あってもすぐに妨害されてたしなぁ。
ここまでゆっくりとふたりっきり、という状況は、秋葉にしてはすごい楽しみだったんだろう。
と ――
「ようこそ、志貴君」
ショートカットの背の高い女性が、数人のメイドを引き連れて前に立ち塞がった。
しかも、オレより ―― ハイヒールを履いているとは言え ―― 視線ひとつ高い。
「はじめまして、ですね」
「あ、えと。はじめまして?」
見降ろすように言ってくる彼女に、ちょっと押される。
それにしても………初対面だ。
―― 誰だろう?
「………兄さん?」
先刻の浮かれ具合はどこへやら。
今ではすっかりと冷えた視線で睨んでくる秋葉。
だから、俺にもわからないんだってば。
「以前、カタログをお渡しさせて頂いたと思いますけれど?」
「………ああ!」
漸く思い当たる。
レンと一緒に来た時だ。
「『ミズ・ヴェイル』………でしたね?」
「ええ。こうしてお目にかかるのは初めてですね。………では」
何かを含む視線で秋葉を見ると、ぱちん、と、指を鳴らす。
と ――
「「「「「そ〜〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜!!」」」」」
秋葉を、がっし、と、捕まえると ――
「ちょ、ちょっとー!!??」
そのまま担ぎ上げて強制連行。
俺は、あまりの事にぼーぜんとしてしまう。
「少し、お借りしますね。御心配なく。『綺麗にして』お返しさせて頂きますから」
「……………………………………………………はあ」