そして、何処か遠くを見るような ―― ここに居ない『誰か』を見るような ―― 目をすると、小さく何事か呟いた。

  雰囲気から察するに、謝罪の言葉か。
 
 
 
 

  ふと ――
 
 
 
 

  『ソノラ』の歌が変わった。

「………これは………『The Bridge』………」

  彼女は、そんなことを口にした。
 
 
 
 
 

Take my life away

お前に嘘を吐くくらいなら
If I don't tell you true
死んだ方がマシだよ
This is my time to make it right
必ず目的を遂げてみせるよ
We're walkin' down this road
俺達の進むこの道
And we don't know where it goes
行き着く先はどこなのか
OOH I know we'll find the way
けれど    きっと何とかなるさ
I can see the past just fade again
今また過去は色あせていく
You gotta know you gotta know
ほら    わかるだろう
Something there are these thing
力を尽くして
We've gotta do make a way
道を切り拓かねばならぬ時がある
Walk across the miles to the other side
長い道程を越え    向こう側の世界へ行こう
We're gonna lift our eyes and open wide
瞳を開けて    しっかりごらん
The bridge to the sky
空へと続くあの橋を
Out of the darkness into the light
闇を抜け出し    光の中へ
Know I will take you there
お前を空の上へ
To the sky
連れて行くんだ
Out of the darkness into my life
闇を抜け出し    俺の元へ
We've gotta be strong we've gotta be true
勇気を奮い起こし
All of the way
どこまでも誠実であり続けよう
You know I will shelter you
嵐がやってこようと
Here in the storm
俺が護るよ
Life is a long and lonly road
人生は長く孤独な旅
I can see the past just fade again
今また過去は色あせていく
You gotta know you gotta know
ほら    わかるだろう
Something there are these thing
力を尽くして
We've gotta do make a way
道を切り拓かねばならぬ時がある
Walk across the miles to the other side
長い道程を越え    向こう側の世界へ行こう
We're gonna lift our eyes and open wide
瞳を開けて    しっかりごらん
The bridge to the sky
空へと続くあの橋を
Out of the darkness into the light
闇を抜け出し    光の中へ
Know I will take you there
お前を空の上へ
To the sky
連れて行くんだ
Out of the darkness into my life
闇を抜け出し    俺の元へ
We've gotta be strong we've gotta be true
勇気を奮い起こし
All of the way
どこまでも誠実であり続けよう
You know I will shelter you
嵐がやってこようと
Here in the storm
俺が護るよ
Life is a long and lonly road
人生は長く孤独な旅
Walk across the miles to the other side
長い道程を越え    向こう側の世界へ行こう
We're gonna lift our eyes and open wide
瞳を開けて    しっかりごらん
The bridge to the sky
空へ続く橋を渡ろう

 
 
 

「空へ続く橋を渡ろう………か」

「どこまでも誠実であり続けよう、ですね」

  『ヴィオ』と弓塚さんも、歌に聞き惚れている。

「ごめん………」

  今度は、はっきりと聞こえた。

  小声で呟いたのだろうけれど。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  と ――
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ああ、やっぱりここにいたー」

  何と言うか………ひどくお呑気な声がした。

「あんな切り方したから、心配したよー?」
 
 
 
 

  喋り方や雰囲気は三澤さんに似ているか。

  ショートに刈った髪に、眠たそうなまでに垂れ気味の目。

  カウンターの彼女と同じような歳で、しかし、若干、彼女の方が豊満な ――

   ―― 何と言うか………そんなところばっかり見てるなぁ、俺。
 
 
 
 

  カウンターの彼女は、じわり、と、目に涙を滲ませる。

「………ごめんね」

「ううん。それより大丈夫?    随分疲れてるみたいだけど」

「………うん」

「たっぷり飲んで、たっぷり泣いて、たっぷり笑ってから、たっぷり寝て」

「うん」

「ヤな事みんっな忘れちゃって、元気になろ?    ね?」

「うん」

  涙をボロボロ零しながら、やって来た女性に謝る彼女。

「………友情、か………」

「お前との友情は考えたことないけどな」

  即座に突っ込む。

「それはこっちのセリフだ。次から次へと女を集めやがって」

「人聞きの悪いことを言うな」

  お互いに毒舌を応酬しあうが、それもいつものことだ。

「そうやってぶつかり合えること自体が既に熱い友情で結ばれていると思いますけど?」

「「ヤなこった」」

  『ヴィオ』の言葉に、思いっきりハモって答えを返す。

「ほら」

  くす、と、笑いながら『ヴィオ』が言うと、

「息ぴったり」

  彼女たち二人も、つられてクスクス笑う。
 
 
 
 

「いい友達だねー」

  あはは、と、やって来た女性が笑う。

「まるで、あたし達の若いころみたいだよー」

「そうねぇ」

  しみじみと、溜め息を吐く彼女。

  彼女たちも、親友なのだろう。

  何も、『友情』が男同士の専売特許なわけでなし。
 
 
 
 

  と ――
 
 
 
 

「そう言えば、名乗りもしてなかったわね」

  と、彼女が苦笑を浮かべながら言ってきた。

「私は『バンシー』。彼女が………」

「『フォーリン・エンジェル』だよー。よろしくー」

「オレは乾有彦。んで、こっちが遠野志貴っていいます、うつくしいおねーさんたち」

「……………………………………………………よろしく」

   ―― 有彦。

  その『マメ』さだけは感心するぞ。

  それにしても、『バンシー』っていうのは………

  すごい名前だ。

「うんうん。お友達だねー」

  にこにこしながら話しかけてくる。

「あたしが来るまで、『バンシー』が迷惑かけたみたいだから、おねーさんが奢ってあげよー」

「まじっスか?    ラッキー」

  指をパチンと鳴らして喜ぶ有彦。

  ………単純な奴め。

「『フォーリン・エンジェル』、『あれ』でいいですか?」

「そ。『あれ』でー。『バンシー』もいいよねー?」

「『あれ』って言うと………『あれ』?」

「そーだよー」

「「?」」

  俺と有彦は、どんなカクテルか、と、興味津々だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

★ゴールデン・フレンド『Golden Friend』★

  ラム(ダーク)………20ml

  アマレット………20ml

  レモン・ジュース………20ml

  コーラ………適量

  レモン・スライス………1枚

    シェークして、氷を入れたコリンズ・グラスに注ぎ、コーラで満たす。

    レモン・スライスを飾る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ゴールデン・フレンド?」

「そーだよー」

「別名を『Dear My Best Friend』とも」

  『ヴィオ』が、シェーカーを洗いながら続ける。

「特別な友に、生涯の友に、最高の友に、この一杯を贈る。そんな思いが込められている、よね」

「そーだよー。『バンシー』は、物事を悲観的に考え過ぎだよー?」

「………そうかも」

  目元を拭いながら、苦笑を浮かべる『バンシー』さん。
 
 
 
 

  ふと ――
 
 
 
 

  『ソノラ』さんの歌が響いてきた。

  今日は、やけに彼女の歌声が響く。

  それだけ、彼女も伝えたいことがあるのだろうか。
 
 
 

ふたり  選んだ道は違っているけれど

(You're My Best Friend)

夢を真っすぐ見詰める瞳  同じだから

何も言わなくても  わかる

泣きたいほど辛い  夜も

わざと笑い合い  ただ側にいるだけさ
 
 

Dear My Best Friend

嵐のように過ぎる  時の中で  変わらぬものがある

Dear My Best Friend

オレはいつも  その夢の味方でいる
 
 

熱い  このときめきを伝える  そのために

(You're My Best Friend)

きっと  オレとおまえの心は  出会ったのさ

荒野渡る風のように  悲しみさえ越えてゆこう

オレはここにいる  そうさ  独りじゃないさ
 
 

Dear My Best Friend

負けそうになったなら  思い出せよ  おまえを信じてる

Dear My Best Friend

どんな時も  大切な友達だから
 
 

Dear My Best Friend

嵐のように過ぎる  時の中で  変わらぬものがある

Dear My Best Friend

オレはいつも  その夢の味方でいる
 
 

Dear My Best Friend

負けそうになったなら  思い出せよ  おまえを信じてる

Dear My Best Friend

どんな時も  大切な友達だから
 
 
 
 

「いい歌だよー」

「そうだな」

「いや、ホントに」

「……………………………………………………」

  四人、カクテルを傾けながら、歌に聞き惚れる。

  今日は、友情を歌った歌がよく響いた。

  『ソノラ』さんも、『バンシー』さんの事を気に掛けているのか。

  ………弓塚さんが万事控えめなのは、俺たちの話を邪魔しないためなのか。

  またこんど、独りで来た時には、話し相手になってもらおう。
 
 
 
 

「………いずれ………」

「んー?」

  『バンシー』さんの呟きに、『フォーリン・エンジェル』さんが小首を傾げる。

「いずれ、『ゴールデン・フレンド』を『オールド・パル』に変えて呑みたいわね」

「出来るよー。そっちの二人もねー」

  屈託なく笑う。

「そうかな?」

「腐れ縁だからな。どっちかがクタバルまで切れやしねーよ」

  有彦が、ニヤリと笑いながら言ってくる。

「だな」

  ニヤリ、と、俺も返す。
 
 
 
 

「………『ヴィオ』、部屋、お願い」

  カードを渡しながら言う『バンシー』さん。
 
 
 
 

  ……………………………………………………部屋?
 
 
 
 

「「……………………………………………………」」

  俺と有彦、ふたり、顔を見合わせる。

「『バンシー』?」

「『フォーリン・エンジェル』、先に休ませてもらうわ」

「じゃあー、暫くこのコたちと呑んでるよー?」

「うん。………今日はごめんね?」

「いいってコトー。………困ってる時に救けになれなくて、何の友達なのよー?」

「………ごめん。ありがと」

  涙混じりの苦笑を浮かべる『バンシー』。
 
 
 
 

  スツールを降りるとき、ヒールを脱いでストッキングのまま、ぺたぺたと ―― 流石にかなりふらつきながら ―― 奥の方へ歩いて行く『バンシー』さん。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみー」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  安堵の表情を浮かべる『フォーリン・エンジェル』さん。

「これで、あの娘もあしたには元気だー」

  んーっ、と、伸びをして、肩首をぐりぐり回す。

「………お疲れ様です」

「そっちこそ、ごめんね?    かなり絡まれたんじゃない?」

「聞いていたよりは、大分大人しめでしたよ?」

「………そっかー。その程度に『抑制』は効いたかー。ヒスって暴れるかと思ったんだけど?」

「………信用してないんですか?」

「信用してるから、そういう言い方になるの」

  『ヴィオ』と『フォーリン・エンジェル』さん。

  穏やかに、『バンシー』さんの事を言い合っている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   ―― 『バンシー』さん。

  何が、彼女を、あそこまでヤケ酒に走らせたのか。

  最初は、男にフられたからヤケ酒に走っていると思った。
 
 
 
 

   ―― ヤケ酒。
 
 
 
 

  嫌なことを忘れたくて、呑むものだろう。

  でも、彼女は、ずっと、詫びるような気配を見せていた。

  誰かに八つ当たりするよりも、自己嫌悪で自分を押し潰そうとしているかのように。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「………あの、『フォーリン・エンジェル』さん?」

「なあにー?」

  こんなことを聞くのは、多分、とても失礼に当たるのだろう。

  でも、俺は、聞かずにはおれなかった。

「彼女………『バンシー』さん、とても辛そうにしてましたけど、なにか、あったんですか?」

「………おい、遠野。また手ェ出しにいくのかよ?」

「また………って、そんなんじゃないって!?」

「あははー?」

  困ったような笑顔を浮かべる『フォーリン・エンジェル』さん。

「………遠野君 ………『また』って?」

「ああ、それはね………」

  くすくす笑いながら、ボトルを用意している『ヴィオ』に、目配せする。

「………『メイ』がスタッフである以上、他のお客様からお話を聴かれるのも、時間の問題では?」

「遠野が女の子に手ェ出しまくってるって話か?」

「………人聞きの悪いことを言うなよ………」

「あながちウソじゃねぇだろが」

「……………………………………………………遠野君?」

  物凄い不安そうな目で見る弓塚さん。

「いや………だからさ、男として、女の子が泣いてると、放っとけないだろ!?」

「それを否定する心算はない」

  うんうん、と、有彦が頷く。

「否定しない」

「………だからだよ。『バンシー』さん、すごく辛そうにしてたから………どうしたのかな?  って、思ったからさ………」

「あ?    ………そうなの?」

「うん。………で。教えて、頂けますか?」
 
 
 
 

「あたしにね、八つ当たりしたのよ」

  あっけらかん、と、『フォーリン・エンジェル』さんが答える。
 
 
 
 

「………『フォーリン・エンジェル』さんに?」

  じゃあ、なぜ、この人は………

「あの娘さ、仕事でちょっと酷いことになってて、すごく不安定だったの。ちょっとしたことで、崩れるくらいにね。そんな時に、あたしが携帯で電話しちゃって、それがタイミング悪く『壊れる』寸前でねー」

「「「……………………………………………………」」」

  俺たち三人、固まる。

  やっぱり、聞かなきゃよかったか………

「で、うっかり仕事の話振っちゃってさー」

  あははー、と、お呑気な笑顔を見せるが、そのときの状況は、そんなものじゃ済まなかったんじゃないか?

「2時間ぐらいかなー?    ずーっと、喚き散らしっ放しで。最後に思いっきり叫んで、で、『ガチャン』」

「「「……………………………………………………」」」

「だから、自己嫌悪でヘバってたのよ。ごめんねー?」

「……………………………………………………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  『ごめんね』と、謝るべきは己の迂闊さだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「………すみません。立ち入ったことを聞いちゃって………」

  彼女は、軽く小首を傾げ、穏やかに笑っているだけだった。

「……………………………………………………」

  気まずい沈黙の中、ただ、彼女は笑顔でグラスを傾けていた。
 
 
 
 

「『フォーリン・エンジェル』さん、でも、なぜ、貴女は………」

「『そんな平気な顔をしているの?』………かな?」

  なんでもないことのように言う。
 
 
 
 

「20年来の付き合いのある親友だもん。こんなこと、いつものことよ。キミたちが毒舌をぶつけ合うのと同じ。『遠慮』する間柄じゃ無いから、ぶつかりあえる。『礼儀』を弁えているから、踏み込んじゃいけない一線を知っている。お互いを認めているから、『尊敬』しあえる」

  誇らしげに言う『フォーリン・エンジェル』さん。

「「……………………………………………………」」

「助けが欲しいとき、背中を押してあげられる。辛いとき、肩を叩いてあげられる。それは、もう、20年ずっとやってきた『お互い様』」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   ―― ああ。
 
 
 
 

   ―― 大人だ。
 
 
 
 

   ―― しかも、優しさを忘れていない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「だから、あたしは『バンシー』の親友であることを誇りに思ってるし、『バンシー』にも、あたしの親友であることを誇りにしてもらえるようになりたいから」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   ―― 格好いい。
 
 
 
 

   ―― すごく………格好いい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「でも、キミたちなら心配しなくても良さそうねー?」

  穏やかな笑みを浮かべて、微笑みかけてくれる。

「若いウチは、ぶつかっときなさい。そうすれば、時間とともにその『意味』が『味』になるから」

  そう言って、呑み終えたグラスを軽く揺する。

  『ヴィオ』は頷くと、棚からウィスキーのボトルを取り出した。
 
 
 
 

「………『バーバリー』?」

「………トレンチコートで有名な?」

  有彦と二人、ボトルのラベルを見て、目を見開く。
 
 
 
 

「………しかも、遠野。これ、20年モノだぞ?」

「?」

  わからない。

  20年モノだと、何かあるのか?

「ウイスキーの熟成期間の長さは、基本的にそれだけで『味わい』になるんだよ。正確に言うとちょっと違うらしいけどな。『何年モノ』って言う年数の多さ、イコール、味の深み、滑らかな舌触り、柔らかな喉越し………とにかく、すごいんだよ」
 
 
 
 

  ……………………………………………………をい。

  何でそんなことを知っているんだ?    有彦。

  弓塚さんも呆気に取られてるし。
 
 
 
 

「でも………なんで、これを?」

「確かめるため、かな?」
 
 
 
 

  グラス ―― ダブルのショット・グラス ―― に、シングルで注がれたウイスキーを軽く光に透かしながら、
 
 
 
 

「この春、ちょうど20年経ったのよ。『バンシー』と出会ってから。その時に、ボトルをプレゼントされてね」

  『バンシー』さんも見せた、懐かしむような、遠くを見る目付き。

「だから、時々確かめに来るのよ。『私は、彼女の親友でいられるように、誠実なのだろうか?』って。それは、多分、彼女も同じことだろうけど」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  ……………………………………………………重い。
 
 
 
 

  話題が、重い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「友情は、ウイスキーの熟成と同じ。じっくり、ゆっくり、育てていくの」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  そうやって微笑む彼女は ――
 
 
 
 

  『優しさ』と『強さ』を兼ね備えた ――
 
 
 
 

   ―― そう、
 
 
 
 

  『女』の笑顔。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「何かしてあげる優しさ、何もしない優しさ。それは、相反することだけど」

  くい、と、グラスに口を付ける。

  ぞくり、と、引き込まれる艶っぽさ。

「その境界線を弁えていること。それが、本当の友情だと、あたしは、そう、思うから」

  しかし、そう言って小首を傾げる仕草は信じられないほど無垢な童女のようで。

「でも、心配ないかな?    キミたちは」

「「?」」

  有彦と二人、顔を見合わせる。

「心配ないわね?」

「ですね」

  『ヴィオ』と『フォーリン・エンジェル』さんは、顔を見合わせて、笑みを浮かべる。
 
 
 
 

  困惑顔を見せているのは、弓塚さん。
 
 
 
 

  ………俺にも、よく分からない。
 
 
 
 

「『ヴィオ』、奥から出してもらえる?」

「畏まりました。………後でいいですね?」

「うん」

  ふたり、どんどん話を進めている。

  なんだろう。

  よく、わからない。

「さて、と。有彦くんに志貴くん。そろそろ、いい頃合いじゃないの?」

  に、と、ちょっと意地の悪い笑みを向けてくる。
 
 
 
 

「あー………」

  どこか、気まずげな有彦。

  ………そこまで喧嘩したのか………
 
 
 
 

「ほら、これ」

  そう言って、『ヴィオ』が出してきたボトルを有彦に渡す。
 
 
 
 

  ウマとウサギがニンジンを咥えてる、面白いデザインのボトル。
 
 
 
 

  しかし、このラベルは………

「………これは?」

「[MOON TIME]のオリジナル・リキュールのひとつ。キャロット・リキュール『月と草原の物語』」

「………ニンジンの、酒………?」

「そう。あと、大荷物は店を出るときにね」

「大荷物?」

「大荷物」

「……………………………………………………?」

  有彦は、わからない、と、言いたそうな顔をした。
 
 
 
 

「志貴くんには、これかな?」

  出されたボトルは、なんというか、赤い“蝋”で封をされていた。

「『メーカーズ・マーク・レッドトップ』」

「……………………………………………………」
 
 
 
 

  ………まぁ、何と言いましょうか。

  おうちで待っている誰かさんを彷彿とさせられるんですが。
 
 
 
 

「ただで帰るよりも、敷居が高くならないでしょ?」
 
 
 
 

  ……………………………………………………。

  気配りの人だ。
 
 
 
 

  やっぱり ――

   ―― 大人だなぁ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「じゃあね。お休みー」

「すみません。有り難う御座いました」

「またねー」

「今度は、もっとゆっくり呑みましょう、『フォーリン・エンジェル』さん」

「あはは」

  彼女の奢りでお土産まで貰って、俺たちは店をあとにした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  有彦はリキュールの入った紙袋を手に、キャスターをゴロゴロ引っ張っている。

「………こうやって御機嫌取りなんてしたら、あの駄馬ますますつけあがるってぇのに」

  とかなんとか言いながら、だが。

  キャスターにくくり付けられている段ボール箱の中は、当然と言えば当然のこととしてニンジンで。

「………今度会ったら、きっちりとお礼をしなきゃな」

「そーだな」

  ふたり、夜道を帰る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  『ゴールデン・フレンド』に『オールド・パル』。

  “金色の友”に“古き盟友”。

  どちらも、友情を意味する名前だ。

  彼女たちが“それ”を口にするのは、自分自身への『誓い』なんじゃないだろうか。

  そんな、気がする。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「んじゃ、またな?」

「ああ。またな」

  道を分かれ、家路につく。

  お互いにやるべきことを心得ているから、その程度でいい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  店を出るときに、『ヴィオ』と『フォーリン・エンジェル』さんから贈られた言葉。
 
 
 
 

   ―― 友情は人生の酒である by ヤング「夜の瞑想」

   ―― 青春の生活の中で、もっぱら幸福を与えてくれる本質的なものは、友情の贈り物である by オスラー(講演)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「……………………………………………………蘊蓄だなぁ」

  手元の紙袋の重みを確かめる。

  最後に、このボトルとともに渡されたメッセージ・カードには
 
 
 
 

  『Be thou familiar, but by no means vulgar』
 
 
 
 

  と、あった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

   ―― 後日。

  この文章の意味を知った俺は、彼女なりの忠告なんじゃないか、と、考えてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  『誰とも親しくするがよい。だが、誰彼の別無く、無闇に慣れ親しむはよからず』

   ―― シェイクスピア
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  end………?
  or continue………?


 
 

  This Story has been sponsored by 『MOON TIME』 & 『KAZ23』
  THANKS A LOT!!
 
 
 



 
 
 
 

後書き………のような駄文。
 

  また、長くなってしまいました。

  今回は、ほのぼのと言うよりもむしろ重い話題になってしまったかも。

  彼らの関係を書いてみたくてやったのですが。

  如何なものでしょうか。
 

  次は、どちらかと言えば『お笑え』系。

  志貴君と翡翠ちゃんでお送りします。
 
 
 
 
 
 

  では。
  LOST-WAYでした。
 
 
 
 
 
 
 


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