「ただのデカいカエルだろ、ヨユー」
そう言って自信満々に出て行った四人はまだ帰らない。
ノクティスやプロンプトだけでなく、すぐに帰ってこられると、イグニスやグラディオも確信していたからこそ珍しくアンをひとりレガリアに置いていく判断をしたのだ。
外は雨が降り出し、でこぼこの砂利道にはもう大きな水たまりがいくつもできていた。
その水たまりの向こうにようやくノクトたちの姿が見えて、アンは窓ガラスに手をあてた。
「しんど…、なんだアレ。トード使えるなんて聞いてねえぞ、マジしんど…」
「つかれたー!」
「持ってた状態異常回復のアイテム使い切っちまうなんてな。何個だ?」
「18個。そのうち俺8コ使った。」
「おまえのせいか。まあ、まだカエルになったままのやつがいるときにMP切れの王子様以外にもう一人アイテム精製ができるお方がいてラッキーだったな」
「イグニスゥ!ごめーん!」
わあわあ言いながらびしょ濡れで帰って来たのは三人だけだった。
後部座席のドアが開くとノクトが手を差し出した。
その手の中にはきれいな緑色のカエルがのっている。
弟と同じで虫はダメだがカエルはいける姫君である。
じっと見た。
「わたくしに?」
「これイグニス」
「まあ」
イグニスだったカエルを両手で受け取りまじまじと見つめる。
カエルはアンの手の平の上ですまなそうにうつむいている。
「姉上、悪いんだけどイグニスに乙女のキッス作ってやって。俺もういまMPなくて、素材ならそっちに」
「はやくよくなってくださいね」
カエルに軽やかなキスがおとされた。
途端、車内に魔法の光をまとった煙幕がもうもうとひろがり、煙の中からイグニスが現れた。
正座したまま石化しているイグニスが。
「う、うわあ!イグニスぅ!?ナニコレ!?」
「ブハッ!ウケる!すげえ、姉上その魔法なに?」
「姫のっつうか自主的石化だろうなあこりゃあ」
***
その夜、金の針で石化を解いてからもイグニスはずっと落ち込んでいた。
「よっ、こんなとこにいたのか」
宿の部屋に戻らないからグラディオが様子を見に来てみれば、イグニスは駐車場でレガリアにもたれかかって夜空を見上げていた。
「ほれ」
「すまない」
ビールを放って渡し、自らもレガリアに背中を預けて缶をあけた。
「…」
「元気出せって。姫様もほんの冗談でやってみたのに、おまえにそんな落ち込まれたら気にするだろ」
「された時の感覚を全く覚えていないんだ」
「そっちかよ!」
「…姫様に情けない姿を見せてしまった」
「ハハッ、全身石化だもんな」
「ああ、恥ずかしい」
ようやく本音が出た。
実際は相当へこんでいても、励ましに来た奴の励まし方が下手でも、相手が励ましにきたのだとわかれば軽口などたたいて場を和ませてみせたりする。改めて、こいつはいい奴だとグラディオは思った。
「お前には悪いけど、雨の中を歩くのが夢とか本気でいうあの人があんな、いたずらみたいな遊びをして、俺ァちょっと見ててうれしかったけどな」
これを聞くとイグニスははたとまばたきをして、神妙にうなずいた。
「…たしかに。そう思うと、お前のいうとおりだ」
「だろ。いいことしたんだよ。じゃあ、さっさとあいつらんとこ帰るぞ」
「ああ、そうしよう」
「おっしゃ。それにまあ、変なとこカタくして元に戻るよりゃよかったろ!」
「…もう少しここにいる」
俺はほんとに人を励ます才能がねえなと、グラディオは思った。
おしまい