俺はラクスと友だちからはじめようと思う。
友だちから築いていって握手、ハイタッチ、恋人つなぎ、という順番で手が移る。
ゆくゆく手は頬へ、唇へ、耳へ、首へ、鎖骨へ、
彼女の鎖骨が意外と好きなのでちょっとそこで留まり
ついにブ、ブ、ブラ、ブラジャーへ。
究極的には胸へ、腹へ、腰へ、いざ下腹部へ!
・・・ことのあとには髪を撫ぜる。

ベッドに仰向けになりながらそんなことをぼんやり考えていた。
考えていただけで今のところ握手もしていない。
童貞は・・・じゃない、道程は長い。

まずは友だちになることからはじめなくてはならない。

何をして過ごすのが友だちなのか、俺の脳内データベースにはそれらの経験データが
著しく少ない。
ベッドから身体を起こす。

「聞いてみよう」

つぶやき、部屋を出る。
友だちになるって、友だちって、なにをすることなのか。










というわけで、俺はまずキラのところへやって来た。
質問を投げる。

キラ

「友だちと何をするか?」
「ああ、なにをしたら友だちかっていう定義が知りたいんだ」
「なにをしたら友だちかって・・・うーん?」
「キラはこれまでどんなことしてきたんだ、友だちと」
「ああ」

キラは思いついたらしく、顔を上げて苦笑した。

「友だちの彼女を寝取ったり、友だちと殺し合ったりしたよ」

不採用。






カガリ

「友だちと?温泉行ったり、スポーツしたりして遊ぶぞ」

温泉を採用したいところだけれど、スポーツのほうを採用した。
さっそくラクスに聞いてみよう。






ラクス

「スポーツで好きなものですか?」
「ええ、ラクスは見るのでも自分でするのでも好きなスポーツはおありですか」
「ありますわ」
「なんです?」
「わたくし、一人でゆっくりジョギングするのが好きですわ」
「ああ、お一人で・・・」
「ええ」
「いいですね」






イザーク

「友だちと何をするかだと?」

イザークは不機嫌そうに腕を組んではいたが、暫く考えこんでくれた。
基本的にはいい奴だと思う。
ふと横にいるディアッカを見た。

「殴る」






ディアッカ

「殴られる」












同世代にあてを見失ったので、下の世代に尋ねることにした。

シン

「え?俺?友だちと?」
「シン達はどんなことをするんだ」

シンは上を見て指折り数える。

「ゲーセン行ってー、サッカーしてー、バスケして、ゲームしてー」
「ゲームか。何のゲームだ」
「ウィニングサッカーイレブンC.E.73!」

女の人に勧めにくい。






レイ

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・射撃訓練」






ルナマリア

「エステ!ほんといいですよアレ!オススメなのは一昨日行ってきた
美脚コースで、ほらこの前雑誌で足がキレイならそれで細く見えるっ
て特集やってたじゃないですかぁ。それで友だちとメイリンと行ってみた
らそのエステがすっごいまずエントランスがヤバイくらい綺麗でそれ
だけでなんかセレブ気分でほんと良くて!即行トイレチェックしちゃい
ますよね、綺麗なレストランとかいくと思わずトイレチェックみたいな
ノリあるじゃないですか。全員で行ってもチョー広いトイレで何ここ
あたしの宿舎の部屋より広いんですけどみたいなマジ爆笑みたいな!
アロマがすっごいいい匂いでー」
「あ、ああ、そうなんだ・・・」
「そうなんですよー。ていうか美脚コースのオイルがこれもすんごい
薔薇のいい香りが」

以下略。
でも確かにエステはいいかもしれない。ルナマリア情報を要約すると
どうやら女の子は皆エステ好きで、最近は男性のエステもあるらしい。
とりあえず聞いてみよう。






ラクス

「エステはお好きですか」
「大好きですわ」
「え!じゃあこ、今度」
「週に二日ほど家でやってもらっていますの」
「ああ、おうちで・・・」
「ええ」
「いいですね」






もういい加減人脈のツテがなくなってきた。
そんなときに偶然出くわしたのはマーチン・ダコスタ。
彼は友だちだちが多そうだし、真っ当に友だちと接していそうだなあと思い、
尋ねた。彼ならいいアイディアをくれそうな気がする。

「普段は友だちとどんなことをして過ごすことが多いですか」

ダコスタは唐突な質問にも動揺することなく笑って、
はっきりと、元気に応えてくれた。

「ラクス様のコンサートです!」












ラクス

「まあ、アスラン。どうなさいましたのそんなに落ち込んで」
「いえ・・・その、ちょっと」

浜辺のテラスで、ラクスに温かい紅茶を淹れてもらいながら
俺は俯いていた。

「話してすっきりするつかえでしたらどうか話して下さいな」

ラクスは心配そうに眉を寄せて、俺の横に腰掛けた。横の席に
きてくれたのは嬉しかった。正面に座られると、じっと見られている
感じがして俺はいっそう言葉がでなくなるから。
横に座るといっても恋人たちのように密着していない。恋人ではない
間隔がちゃんと空いている。
その隙間は寂しいものでもあり、安心する距離でもある。
肌が接していなくても、握手などしなくても、心地よい距離はあるものなのだと
アスランは初めて気づいた。
両手で包む紅茶のカップが温かい。

「ラクスは友だちとどんなことをして過ごしますか」

言葉はするりと出た。最初からこうすればよかった気がする。

「ともだち・・・?」

ラクスは数回目をぱちくりやった。
紅茶の湖面に視線が落ちる。考え込むように。
なぜだろう、ラクスの唇から発せられる言葉にいつもの軽やかさが見られない。

「実は、わたくし今まであまり友だちと呼べる方が今までおりませんでしたもので
すから、カガリさんやキラや皆さんと出会えてまあなんて素敵なものなのかしらと
思うのです」

苦笑した。

「ですけれど、どう接していいのかわからなくてずっとアスランに相談しようと思って
おりましたの」

笑わないでくださいませね、とラクスははにかみ笑いをしている。

「笑わないよ」

俺もはにかんで笑った。