も し も ぼ く が 虹 を つ か ん だ ら そ の 虹 を 君 に











「アスランは、虹をつかんだらどうなさいます」
「にじ?」
「ええ。わたくしにプロポーズしてくださった方が、もしも虹をつかんだらすべてわたくしに下さると」
「プロポーズ!?」
「もちろんお断りしましたけれど」
「不思議なプロポーズですね」
「アスランでしたら、どうなさいます?」


エターナルの食堂で、アスランを正面においてラクスは話した。
アスランは口ごもって困った顔で深く考え込む、に違いないとラクスは予想していた。

「もしも」

アスランは口ごもらなかった。
困った顔を赤面もなく、深く考えた様子もない。
ラクスの予想は大きくはずれた。

「もしもぼくが虹を手に入れたら、その虹をラクスにもわけますよ」

あたりまえのようにアスランは言った。
ラクスは何度か大きく瞬きする。
その不思議な反応に、アスランこそ不思議そうな顔をしている。

「・・・わけて、くださいますの」
「すみません。おかしなことを云ったでしょうか」
「いいえ」
「そうですか?」

ラクスはふっと視線を宙にうかせた。
なにか思いをめぐらせてから
ゆっくりと目を閉じて微笑んだ。

「確かに、そのほうがお互い気をつかいませんものね」

気の利いたことをいえないアスランは、思ったままに云っただけだった。
けれどラクスはその言葉にいろいろ想いをめぐらせているようだから、アスランは慌てる。
深い意味はないと弁解しようにも、咄嗟にはうまく言葉がでない。

「わけていただけるほうが、嬉しいです」

ラクスは言葉のように、嬉しそうに両手の平をあわせて立ち上がった。

「わけていただけるほうが仲良しのようですもの」

仲良しときいて、アスランは少し気恥ずかしいそうにした。

「ふたりでおそろいで持てますし」

おそろい、とまで言われて、アスランは後ろめたいものがあった。
ほんとうに、そこまで考えたわけではなかったのだ。



「では、あの、その・・・ラクスは、どうするんですか」
「わたくしですか」
「ええ。もしも虹をつかんだら」
「わたくしは」

うーんと天井をしばらく見上げて考えてから、アスランに視線が戻ってきた。

「もしも虹をつかんだら、その虹をすべてあなたに差し上げようと思っておりました」

ああやはりそう応えるのが気の利いた答えだったのかと、アスランはいまさらに気づく。
しかし彼女はわけるほうが仲良しで嬉しいと言って、アスランを舞い上がらせたばかりだ。
ラクスの答えは、今度はアスランがいろいろと想いをめぐらせるものになった。

「わたくしはそう答えてしまうでしょうけれど、分けるというほうがやさしい響きです」
「はあ」
「わたくしはアスランの答えが好きですわ」
「おれはラクスの答えがいいと思いますが」
「まあ」

どこまでもズレている互いの考え方に、ラクスは笑った。

「それはどうしてですの」

素直に思ったままを言うのは、先ほど気を利いたことをいえなかった失敗例もあり気が引けた。
かといってすぐにウマいことをいえるほどアスランは器用ではない。
さらにいえば、漠然と浮かんだ答えを、人に伝える言葉につむぎあげるのはアスランにはとても
難しいことだった。


「ラクスさまー!」


ダコスタが慌てた様子で近付いてきた。アスランはわずかに身を引いてラクスとの距離をあけた。

「隊ちょ・・・ではなくて艦長がブリッジに戻っていただきたいと」
「わかりました。ではアスラン、ごきげんよう」
「ええ」

アスランは苦笑で返した。
ダコスタとラクスの背中を見送ってから、ふうとため息をおとす。





「で、アスランはなんでぜんぶあげるほうがいい考えだと思い直したの?」

「キ、キラッ!」

突然背後から現れたキラにアスランは飛びのいた。

「通りかかったら聞こえちゃって」
「おまえ、いるなら・・・ああ」
「偶然だよ?」
「・・・どこから聞いてた」
「最初から」

アスランは先ほどより大きなため息をついて赤面した。

「ねえ、なんで思い直したの?」
「どうでもいいだろ」
「えー!なんでなんでなんで」
「なんでも!」
「なんでなんでなんでなんでなんでー」

あまりしつこいので、アスランはかっとなる。
勢いで、叫んでしまった。




















もしもぼくが虹を掴んだら
その虹をすべてラクスにあげよう。
ぼくが虹をすべてあげて、ラクスが嬉しそうに笑ってくれたなら
ぼくは虹をすべてもらうよりも嬉しいから、だからそれがいいんだ。




































「ということらしいよ」

談話室のテーブルにクッキーをひろげて、少しずつかじりながらキラが言った。

「あらあら、わたくしテレてしまいますわ」

ラクスは滑稽に頬に手を当てて見せるが、実際頬が赤いように見えた。
キラはポリポリとクッキーをたべていく。
ラクスもクッキーをひとつとった。

「アスランも叫んだあとにテレてた」

「かわいいですわ」

ではなくて、とラクスは改める。

「かっこいいですわ」

「直接言ってあげれば喜ぶのに」

「あら、困ったり照れたりした顔のアスランも素敵でしょう?」

「ラクスも通だねー」