議場から出たところでラクスが撃たれてから、一週間が過ぎた。







 パ ー テ ィ の 続 き







今日もアスランはラクスを見舞う。

今日もラクスはアスランに外へ行きたいと請う。


病院の中庭、芝生は暖かい。

ラクスの白い装いが映える。


今日もラクスが走り出さないようにと理由をつけて、ラクスの手を捕まえておく。

ラクスは捕まえられたままでいてくれる。




「わたくしが撃たれた時、イザークさまが守ってくださいましたの」

「ええ」

「銃声は三度聞こえましたが、咄嗟に私を突き飛ばしてくださって」


先日、とラクスは続ける。


「イザークさまがお見舞いに来てくださって、突き飛ばしたこと申し訳ありませんでしたと
おっしゃるのですよ」


ラクスは顔を和ませ、アスランもつられて笑う。ひきつる。

なんだか、すごく

負けた気がする。


イザークは彼女を守ったのだからこんなふうに考えるのは不謹慎だと、自省した。


「わたくしの周りは優しい方ばかりで幸せです」

「・・・」

「どうなさいました」

「俺は警備会社に転職したい、です」



にわかにアスランの指に力が込められ、ラクスはその意味をのみこんだ。

その上でいたずらに微笑む。


「どうしてです?外交官のお仕事はお嫌?」

「そうではありませんが・・・」


生真面目に答えようとしたアスランにラクスは小さく笑ってしまう。

アスランもからかわれたことに気づいて、軽くラクスをたしなめた。

それから改めて、生真面目に答えた。



「外交官では距離が遠いですから」



その言葉にラクスは首をかしげ、なにか考えるしぐさをする。



ぺたんと芝生に座り込んだ。



突然座ってしまったラクスを見下ろすアングルのアスランは、ばっと顔をそらす。

上からだと、服の隙間から胸元が見えそうで危うかった。


「アスラン、少しかがんでいただけますか」

「す、すみません!」


手は繋いだままだったので、腕がもちあげられたままでは痛かったらしい。

アスランは慌てて芝生に座った。

あせって膝から崩れるようになってしまった。

座ってから、座らずとも手を放してあげればよかったのだと気づく。

今更に、そっと手を放した。



ラクスはその手を見る。

手の放れたかわりとばかりに、アスランのほうへ少し身を寄せた。



「ラクスッ」


急な接近に慌てるも、逃げることはできないアスランは固まっている。

顔だけが赤い。


アスランはきょろきょろ周りを見、誰の視線も無いのを確認した。


そうしている間に、肩がぴたりとくっついて、アスランは再び凍りつく。


「ほら、とても近い」

「は、はい」

「これでよろしいのではなくて?」

「・・・よろしくありません」



アスランは言葉の最後に、くちづけをおいてきた。

唇のはしではあったけれど、アスランには精一杯のくちづけだ。


「これくらい近くでないと」


アスランは云う。

ラクスは唇の端に指先で触れ、ぱっと赤くなる。

それ以上にアスランは赤い。


「いいえ。よろしくありません」


アスランの真似をしてから、


「これくらい、でないと」


ラクスは言葉の合間に、アスランの唇のはしにくちづけをおいた。

吐息が届くほど近い。


「足りまして?」

「いえ・・・」


すっかりぼうっとなったアスランはラクスの頬に手をあて、

こちらを向かせる。

そしてこれ以上なく近くなる、















寸前、



硬い靴底がアスランの側頭部を蹴っ飛ばした。














「貴様ぁ!ラクス嬢が怪我で逃げられないのをいいことにっ!」



背後に鬼の形相のイザークが、花束を抱えて立っていた。



























真昼に、芝生の上で、手を繋いで、並んで座って、肩を寄せて、

稚拙なキスして、稚拙なキスをされて、本気のキスをしようとして、

蹴飛ばされたのだ。


蹴飛ばされて当然な気がする。



頭がクラクラするのはまだくちづけの余韻を引きずっているからか、

それともイザークの蹴りに容赦の二文字が無かったからか。



イザークに大声でいろいろと怒鳴られる。

しかし、ふと見ればそのむこうでラクスが微笑う。



唇のはしに指をあてて、こっそりアスランだけに微笑うものだから

アスランはパッタリと芝生に倒れた。


両手で顔を覆う。






「フン、この軟弱者が!蹴りの一発でそのざまか」


仰向けのままイザークの勝ち誇った声を聞いた。


けれど、なんとなく

こっそりラクスが微笑うから

勝った、と思った。