地球は嵐というのがある。海は水しぶきを上げ、扉はがたがた鳴る。
大気はゴゴゴウゴゴゴウと呻る
風はカザミドリの赤い屋根ごと吹き飛ばす
五歳の子が布団をかぶる
大地は叫ぶのに水の空襲が止まない。
夜は色を紺から黒の、黒の、最上級の黒へ
もう止まらない
たとえナウシカが王蟲の群れの前に立ちはだかるように、乙女がその身をさらしてもやまない。
水色ビニールシートを引き止める
十歳の子まで布団をかぶる
マーチン・ダコスタの小型ヘリは飛び立てない
この小さな陸は海に囲まれている。
ダコスタは襲い掛かるような海を見、それから島の中央の山を見た。
見上げた山の広葉樹は普段の穏やかさを忘我し、見事な枝振りを振り乱す。
思い出したように額の水滴をはらった。
「高台へ行ったほうがいい」
軍支給の雨がっぱも風を受けて彼をよろめかせるだけだった。雨はしのげない。
「わっ」
打ち上げた高波がダコスタの軍用ブーツを海へ引きずり込もうとした。
浜に近い場所に着陸させてしまったヘリは動かせない。ダコスタは腰に緊急時用のバックを
くくり付け、ヘリを離れた。

山小屋がある。

懐中電灯が斜面の中腹に山小屋を見つけたとき、すでに息はあがっていた。
夢中で斜面をよじのぼったら、手から灯りが転がり落ちた。

「あ!」

斜面を転がった懐中電灯は張り出した木の根で一度跳ねて、それきり見えなくなった。

「・・・こんなだからオレ、いつまでたっても・・・」

ラクス様に存在を気付いてもらえないんだよなあ















真っ暗闇の山小屋に飛び込んだ。

ここなら雨風は防げる。
真っ暗でビュービュー鳴る隙間風が悲鳴みたいで怖いけど、大丈夫、大丈夫。
歌でも歌えば大丈夫。
大じょu
ゴトッ
「すいませんでした!」

自分以外のたてた物音に謝った。
脊髄反射の速度
真っ暗闇で何も、何も、本当に何も見えない。
返事で「ガルル」とか言われたら俺、確実に命はない気がする。だって俺、昨日見た週末占いで
最下位だったし、ラッキーアイテムはラクス様の等身大パネルとか言われたけどそれ持って出歩く
のってそれこそ不幸っていうか。

「こんばんわ」
「わあ!」

おののいた
やわらかな声音
女性の
好きな人の
これは!
ラク・・・

「あなたも雨宿りですの?」
「あ、あの」
「はい?」
「自分はっ」
「はい」
「・・・」

ラクス・クラインは声の主がマーチン・ダコスタであると気付いていない。
この声が誰のものであるか知らないのかもしれない。
”マーチン・ダコスタ”という存在を知らないのかもしれない。
「ダコスタです」と言ってみて「はじめまして」とか言われたら俺はもう立ち上がれない。
もう言い出せない。
自分の軍服の裾をぎゅうと握る。水滴が落ちた。

「じ、自分も雨宿りで」
「そうですね。すごい雨ですわ、風と」
「ええ。・・・すごいです」
「よかった。ふたりなら心強いですもの」

他人を装え
いや、たぶん他人なんだろうけど

他人同士のぼくらは小屋の中心に背を向け合って座った。雨の音も風の音も
銃撃戦の只中みたいだ。なのに俺は体育座りをしているからだろうか、膝に寄せた
頭についてる耳は爆音のような心音ばかり聞こえている。背中の向こうに人がいるのが
わかる。布ズレの音。前髪あたりから木の床へ水滴の落ちる音。真っ暗で感覚は
耳と肌に集中している。背の向こうの人は目で見てはいないけれど髪はピンクだと
知っているし、肌は白だと知っているし、目は鼻は口は首は胸は腰は手足は。
とじた目の奥で再構成された美しい人。ふたりきり、暗い小屋、背の向こう数十センチ。

「くしゅん」

俺はパッと振り返った。
あ、
ああ
どうしよう
寒いんだ。

「あの」
俺が頼りない声をかけるとラクス様は少し笑うような声で
「大丈夫ですわ」
と牽制した。
「そう、ですか・・・」
すごすごともとの座り位置に戻る。寒いんだ。だって俺は今寒い。
叩きつけて吹っ飛ばすような雨に打たれてきたならびしょ濡れなんだ。
ここに入ってきたときに髪を絞ってバタバタと水滴が落ちたらしい音を
きいた。髪が吸った水の分、薄着な分、ラクス様の方が寒いのだ。
薄着かどうかは知らないけれど、彼女が重厚なコートや保温性の高い
ダウンジャケットを着ているところなど見たことがない。地球におりて
からなど特に、ノースリーブのワンピースなどで出歩いては俺たちプラント
の人間をハラハラさせている。
寒いんだ。



ああ、そうだ!

「あ、あの、いいものがあるんです。保温シートなんですけど」

非常時用のバッグをあさる。
暗くてどれがどれだが手探りだ。
身体にまとわりついて汗に混じってベタベタし始めた雨の不快感は吹き飛んだ。
俺はあなたを助けるいくらかの物を持っている。
この嵐、一人ぼっち、逃げ込んだ山小屋、びしょ濡れ、くしゃみ、暗闇、そこにあって「大丈夫」と
微笑んだあなたにこれを
「あった、ありました」
保温シートは手のひら大に折りたためて、広げると男一人は軽く包み込めるくらいの大きさがある。
アルミホイルの薄さでもさすが軍用、機能は抜群だ。
「どうぞ使ってください」
「ありがとうございます、それは二人くらい入れますか」
「入ると思いますが」
「では、ご厚意に甘えさせていただきます。本当は少し寒かったのです」
「お役に立ててよか」
彼女が立ち上がったかと思うと、濡れた布が床に落ちた音がした。

あ、脱いだ。と思った。

暗くて何も見えないとはいえ、俺は心の中で着替えを覗かれた乙女のように悲鳴をあげた。
たたたたたしかに濡れた服を着たままでは充分な温度を保つのは難しいとはいえおおおお俺は
ヘタレとか呼ばれるけどおおおお男でありましてこここのようなきゃー!いやー!ラクス様がこちらへ
いらした!いやあああっ!
いやあああ!と思いながらも自分も上半身だけ濡れた服を脱いで背中をぴったり合わせる形で
保温シートにくるまった。一人用のポンチョのような形なのだが二人で首を出してもまだ余裕がある。
いいのか。いいのかこれ。こんなラッキーな状態に打ち上げられた俺は三分後くらいに死ぬんじゃ
ないのか。これが死亡フラグとかいうやつなのか?
触れた瞬間背中がビクっと震えた。
互いに。
ラクス様の背中が冷たくって、それきり心の中で悲鳴をあげるのは止まった。俺のこの興奮して
上昇した無駄な体温など、すべて背中からあげてしまいたいほど冷たかった。
ずいぶん寒かったろうに「大丈夫」だなんて、なんてお方だ。
山小屋に叩きつける雨はどどどどどどどど!と勢いを増し続け、風に遊ばれてガタ!ガタタ!と
振動さえ伝える。

しばらく声が消えた。



どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど


「雨、すごいですね」

「はい。自然現象というのを甘く見ておりました」
「この島へは観光ですか」

そうだ。この島にラクスクラインは住んでいない。この近くの孤島の寺院に身を寄せている。そこには
フリーダムのパイロットのキラ・ヤマトやザフトのエースだったアスラン・ザラもいる。
こんな島まで一人で来るはずがない。きっと誰かと来たのだ。はぐれたのだろうか。

「知り合いを驚かせようと思いまして、気付いたときには嵐で帰れなくなっておりましたの。悪いことを
しようとした罰でしょうか。あなたは登山家の方ですか」

保温シートなんかもってたらそう思われても仕方ないが、こんな低い山に登山家は登らない
と思う。傾斜はキツイがきっと300メートルくらいしかない、この山。

「軍人をやっておりまして、ヘリでここまで来たんですが雨と風でヘリが動けなくなってしまったんです」
「まあ、軍人さんでいらっしゃいますか。ですからこんな便利グッズを」
「こんなに軍人やっててよかったと思ったのは今日が初めてです。他にもあるんですよ、遭難したとき用の
ろ過装置に医療品、コップとフォーク、ライトは・・・さっき落としてしまったんですけど、非常食もありますし」
「パズーの鞄みたいですわね」
「ぱずー?」
「キ・・・友人が教えてくださったのです。空に浮かぶ島を探すお話の主人公」
キ、ラ ヤマト
「そのハズーさんの鞄ほどじゃないかもしれませんが、便利なのでおなか空いたらおっしゃってくださいね。
チョコ味とバナナ味、あとピーチ味があるんです」
「頼もしいですわ」

顔が一瞬で熱くなった。落ち着け俺。頼もしいのは俺じゃなくて非常用カバンだ。
ラクス様の背中まだ冷たい。
う、やわらかい
はぁ
おれの変態・・・

ひとしきり自己嫌悪に陥っていると少しの間沈黙があった。
軍人などと言ったから、警戒されたのかもしれない。俺はラクス・クラインを擁護する軍の軍人だけれど、
(少なくとも声だけでは思い当たらない程度に)あなたは俺を知らないのだし、あなたは今世界から身を
隠している立場だ。
”身を隠している島の近くに軍人が来た”
その軍が地球の軍であっても、ザフトであっても、危険であることに違いはない。

「あの・・・俺!おれあの・・・ヘリコプターとか船とかそういうの好きで、あなたは趣味とかありますか」

うわー俺なに言ってんだ!唐突すぎたかな。話変えようとしたのバレバレかな。

「わたくしは・・・最近折り紙というのを教えていただきました」

普通に返してくれた。

「四角い紙を折って動物を作ったり、お花をつくったりするのですよ、手裏剣ですとか。手裏剣がどういった
ものか存じ上げないのですけれど、とてもきれいなのです」
「シュリケンって確か中国のニンジャーっていう少数民族の武器ですよね」
「まあ、そうなのですか」
「呪文唱えて消えたり、二つの声を一緒に出して歌ったりするそうですよ。掛け声は確かチチンプイプイ」
「楽しそうな民族ですわ、物知りなのですね」
「いやあ、そんな」

隊長!豆知識ありがとうございました!

「二つの声で歌を歌ってみたいものです」
「ひとつでもすばらしいと思います」
「・・・」
「あ、いえ!あの!さっきからキレイな声だなと思ってて、だからその別に歌を聴いたことがあるとかそういう
ことではないんです!」
「ありがとうございます。歌をうたうのは好きなんです」

自分も好きです。ラクス様の歌をうたうのを聞くのが好きです。大好きで大好きでコンサートも行ったことあります!
チケットとるのが大変で、むかし同僚の友達の友達がラクス様の婚約者だっていうからチケットを頼んだけど全然
チケットもらえなくてアスラン・ザラの靴箱にこんにゃく入れたのは実は俺です。ごめんなさい。

ごごう、ごごうと断続的に嵐が小屋をぶつ。暗闇、木の軋み、打ち付ける波の音もきっと激しかろうに、風の音に
切り刻まれてなにがなんの音だか聞き分けできない。
また沈黙が暗闇に細い糸を張った。
どんなに音の鳴り続ける空間であっても、人間の声のないことを沈黙と呼ぶのだと知った。

「雨、止みませんね」

息を吐くように声がした。なんだか少しもたれかかられた気がした。
背中があったかくなってきた気がした。心臓の振動が伝わってくる気がする。
肌すべすべする
あたまが熱い
鼻血でる
隊長、俺に大人の余裕をわけてください

「あなたはお付き合いをされている方はいらっしゃいますか」
「え!?えっと、いないです」
「では好きな方は?」
「そ、れは」
「いらっしゃるのですね」
「は、はい・・・」
「どんな方ですか」
ぎゃふん!
「あの、えっと、あなたは?」
「わたくしですか?」
「好きな人いますか」

質問返し。苦肉の策。でも聞きたいことでもある。

「・・・むずかしいですわね」
「むずかしいでしょうか」
「とてもきれいな顔をしているんです。萎縮してすぐうつむいてしまうのに目は驚くほどかわいらしい
のです。わたくしが他の島へ行ってみたいと言ったら他のみなさんとおんなじに危ないからやめて
くださいとおっしゃったのに」
「はあ」
「”でもあなたなら何があっても大丈夫だとは思いますが”と」

ああ
いまひとり頭に浮かんだ。
口下手で女性が苦手そうで、なのに一言多い顔のきれいな少年。目が驚くほどかわいい、って
いうのはきっとあなたの目がそのように彼を映すだけだ。

「だから・・・嵐の中にひとりでここまで来て、あの人は今頃心配などせずに興味もないくせに
歌番組とサッカー中継を交互に見ているのかしらと」

自嘲するようだった。
知ってる
(あーなにやってんのかなー自分)っていう感覚
きっとその感覚については俺はあなたよりはるかに詳しいのです。
そしてさびしい
あなたは「うまくいかないなあ」と思い悩みながら恋をしている。
それは真っ当な恋だ。
俺は介在しない、恋だ。
泣きそうだ、俺がね。
膝を抱く。顔をうずめる。

保温シートがつっぱる。

慌てて顔をあげた。
おれがシートをひっぱったらあなたは苦しい。
そうだ。
ここでおれは絶対になさけなく膝を抱くことはしてはいけない。してはいけない。絶対絶対しない。
するものか。
背筋を伸ばした。あなたの背中と触れる面積が増えた。これまで肌の触れていなかったあなた
の背中の箇所はまだ冷たかった。ささやかなる発見だ。背筋を伸ばしてよかった。あなたより少し
背中が広くてよかった。あなたの背中全体を余すとこなくあたためて、もたれかかられることが
できる。

「きっとあなたを心配してほうぼうに電話をかけて探し回っていますよ」
「・・・」
「着信履歴とかすごいことになってると思います、きっと」
「・・・」
「大丈夫、心配してますよ」
「・・・」
「大丈夫」

声は返らなくてけれど接する背中がずると下がった気がした。

「わたくしにはいかなる児戯も許されないと知っているのです。速やかに理解して
そのようにしていたはずが、なんという気の迷い、なんという」

保温シートがちょっとだけひっぱられた。
膝を抱いて顔をうずめたのだろうか。
ぐす...とかすかな息遣い
いかなる児戯も?鬼ごっこや手つなぎ鬼やしりとりやあやとりやどろけいや大貧民、UNOのこと
だろうか。それとも好きな人が無神経なことを言って「こんにゃろめ!」と思ってみることだろうか。
『超然と在れ』
誰かにそう言われたんだろうか
世界に言われたんだ。知ってる。
俺も言ったことあると思うから



ごごうと大風
ばばばと大雨
どどんと稲妻
ぐす...

「・・・」
「・・・」

背をぴんとし、顔をあげ俺はこう言った。

「あなたは」

ドモることなくこう言った。

「あなたは困ったことがあったらボロボロ泣いて泣きつかれたころに
おかあさんがいれたホットミルクをのんでおやすみなさいってちゃんと
言ってから毛布に入っていい年頃だと思うんです。かみなりやミサイルの
音を聞いて内心ビックリしているのに全然平気なふうを装って、なのにまばたき
するのは忘れてしまっているようなことしていいと思うんです」

どどどどどどどと雨が打つ。

「大丈夫、あなたの好きな人の靴箱にこんにゃくいれといてあげますから」

やがて雨はばっさばっさと風に吹き飛ばされる

「こんにゃくを?」と泣き声混じりに笑い声がした。

風は雷に驚いて遠くへ吹きぬける
吹き抜けて、ずっと向こう
アスラン・ザラのいる島まで届いたろう。
雨が彼の島をも通り過ぎたころ、彼はきっとまだ半べそかいてあなたを探しているよ
雨の中走り回って疲れた膝に手をついて、雨だれが鼻筋をとおってぜいぜい息をしているよ
ハロにあなたのネックレスのにおいを覚えさせて探させようとするんです
そんな機能ないって、とキラという少年にツッコまれてやっぱり半べそなんです
静かな波の音が聞こえ始める頃あなたが浜辺に帰ってきて、それを玄関で見つけた彼はいつもは
そんな勇気ないくせにあなたの名前だかなんだかわからないことを叫びながら抱きしめるんです
あなたは抱きしめ返して「心配かけてごめんなさい」とちゃんと謝るんですよ。いいですね。それから
彼は興奮のあまり気付いてないだろうから言ってあげてください。
「でもアスラン、お靴の中にこんにゃくが」と。俺のささやかなる嫉妬をくらえアスラン・ザラ。

ねえ、ほら風の音が遠ざかってく。


どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど
ど どどどどどど どどど どど   どどど   どどどどど  ど
ど  どど ど  ど   どど   どど     ど  ど  ど
ど   ど    ど    ど   ど      ど     ど
ど        ど    ど          ど     ど
ど        ど                     ど   










ポタ、ポタ...



まだ真っ暗闇のうちにぼくらは服を着た。

「先ほど聞きそびれてしまいました。あなたの好きな方はどんなかた」
「うえ?!おおお教えれませんっ」

この際、教えましょう
それほど遠くない昔”わたくしはラクス・クラインです”と戦場の真空に響いたその声音
孤高の指導者、凛然たる人格、爆音に驚きまばたきをわすれた聡明なるこども、いま
聞こえる生々しい着替えの音、肌で感じていた体温、聞いたかわいいくしゃみ、震え、
おしゃべり、趣味と好きな人のこと、ぐす...

「あなたのような優しい方が愛する人なのですから、きっと素敵な人なのでしょうね」
「それはもう、すごく」

なんだか、うっとりした言い方になった。おれは告白したときのようにはにかんでいた。
まだ顔もみえないほど真っ暗闇。あなたは一足さきに夜に踊り出て、真っ暗闇の小屋の中の
俺の姿は見えないだろう。こちらからはあなたが見える。風で雲がふきとばされていって
月がでたらしい。
あなたは月を背景にしてこちらを一度振り返り、大きくゆっくり手を振った。



「ありがとうございました。とても楽しい時間でした、わたくしが好きな人にふられたらまた会ってくださいな」

「ええ、また嵐の夜に」

「嵐の夜に」














***



見えないと知りながら振り返した腕をおろし、手を見つめ、強く握って目にあてた。
乱暴に腕でぬぐって、ヘリコプターのところまで走って下った。
そしたら隊長が手を振ってて

「おー、生きてたかダコスタくん」



「た」
「心配したんだぞ」
「たいちょおおおおおおおおぅうぃうhとえほてょsてj」

隊長の腰に泣きじゃくりながらタックルして、隊長は「おうおうどうした」とか言いながら
受け止めてくれた。隊長ぉおおっ!

「そんなに嵐が怖かったのか?わかったわかった。今日はなんでも好きなモン買ってやるから」
「ううう」
「ほれ、なにが欲しいんだ?ラクスの生写真か?」

「こんにゃく!」