東京で一番安いアパートを探したは、はからずしも平和島静雄の隣の部屋に住むことになった。
自分の隣の部屋がいつのまにか東京最安値になっていたことには少なからずショックをうけつつ、先日壁にあけてしまった穴はふさがずに遮音・遮光カーテンをひくだけにして、ボロアパートは廊下に出ずに行き来できるコネクトルームに劇・的ビフォーアフターした。
また、の入居をきっかけとして折原臨也は頻繁にこのボロアパートにちょっかいを出してくるようになった。



これはそんな日々の記録である。



ピンポーン

「はい」

中から女の返事が返った。

ピンポーン

ピピピピピピピンポーン!

ピ・ピ・ピ  ピ・ピ・ピ  ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピンポーン!

折原臨也は今日も今日とて池袋某所のボロアパート(2F)のインターホンを連打していた。
臨也が対面する水色の鉄ドアには『』の手書き表札が入っている。隣の部屋は『平和島』と小学生のような字で書いてある。
折原臨也がなぜ来たかというと

『シズちゃんは童貞だからこそおもしろいのに、人間もどきに奪われるわけにはいかない』

という信念に基づいての行動であった。
理性的にはそう考えているものの、本能的には静雄への独占欲であるということを臨也自身は認めていなかった。

おとといは思い切り外開きのドアを開かれ、ドアにぶつかり鼻血を出した恨みがある。

(今回はそうはさせないよ)

今日はドアがぶつからないだけの充分な距離を開け、ドアが開放されるのを待っていた。
ふふんと勝ち誇ったように笑う。

(俺は人間を愛してるけど内臓も脳も人間に似せただけの人間もどきまで愛するほど節操なしじゃない)

(・・・それにしても、返事してからだいぶ時間がたつのにまだドアが開かないということは)

(さては今頃のぞき窓からこっらを見てくやしが「ゴッ!!」



突如廊下の手すりまで跳ね飛ばされた。
臨也が何が起こったのか理解する前に、ドアの横からがひょこっと顔を出す。
はたいそう申し訳なさそうな顔をしてこう言った。

「ごめんなさい。昨日平和島さんがドアの蝶番をはずしてしまって」

ドア枠にはまっていただけの鉄のドアは、巨大な盾のごとく臨也のあごに突進してきたのであった。



今夜の勝者: