プラントの空は夕焼けのグラデーションがかかっている時刻で、軍服だけでは少し肌寒い。
基地の建物の影が長く延びるがますます閑散とするばかり。
背後の第3ハンガーではモビルスーツの整備中。
金属の擦れる甲高い音や制御機械がはきだす空気の音が壁越しに聞こえている。
調整が済むまで待機と命令をうけたが中の轟音を聞いているのはつらかったので外に出た。
外は寒かった。
缶コーヒーを買った。同じく待機命令をうけていたイザークと壁にもたれて、イザークはずいぶん
寒がりだからあたたかい缶を両手で持っていた。

「なあ、イザーク」
「・・・」
「あいつ」
「誰だ」
「あいつ、わかる?」
「だから誰だよ。ああ、あのヘラヘラ笑う」
「そうそうそいつ」
「軍服逆に着てたやつだろ」
「うん、それ」
「それがどうした」
「なあ、あいつ、手ェつないでくれるかな」
「・・・・・」
「勝手に触るとチョップくらうからこっちからできないんだ、三回目だから学習したよ」
「・・・」
「なあ、あの子、やっぱ手ェつないでくれないかな。オレは見かけによらず
そういうの好きなんだよ、ストイックだろ?」
「・・・」
「オイオイなんだよその目は。なんで遠ざかるんだよ」
「悪性のウィルスにでも感染したのか」
「おまえイザーク、ほんとにヤなや・・・つじゃないよね、うんうん」

イザークが缶コーヒーを握りつぶしたので、オレは粛々として黙った。


「イザーク、ディアッカ。整備に異常なかったから戻っていいってー」

へらへら笑う緑の軍服が角から飛び出してきた。
噂の主の登場に思わず二人で黙る。
イザークは壁から背を離してさっさと歩き出していた。
「寒いから先に戻る」と言い置いて。
こういうところイイ奴でそういうとこカワイイと思う。






暗くなっていた。

基地内の電灯は少ないから、ときどきぽつんと立っている灯りの下を離れると
途端に相手の顔さえ見えなくなる。つーか、さむい。

「うー、さぶい」

は言って肩をすくめた。
顔までくしゃっとさせて
ひでー顔になってますよ。



つなだら怒るくせに

怒るならポケットに手ェいれとけよ最初っから。
そんにこすり合わせて息吹きかけて指先と手のひらを赤くしているなら、ポケットにいれたらいいだろ。
そうでないとそんなの、寒そうすぎてつないでやりたくなるだろ。
イヤがられてチョップくらうのにつないでやりたくなるだろ。

「さぶいさぶいさぶいねディアッカ」

あーあーおまえの鼻とか頬っぺたとか、真っ赤たぞ。何が起こった。
さてはチューしてほしいのか。や、さすがに殺されるかな。

明るみからはなれて
暗闇にふたりきりで
寒くて
寒そうで
あーもう!

「・・・これはちがうからな」

そんな目で見んな。
チョップしようとしたってできないぞ。
両手掴んだし

「手ェをつないだんじゃなくておまえが寒々しい格好で寒々しい声だして寒い寒い言うから
手ぇつかんだだけだからな」

ひィー、冷たい手だなー

「鼻と頬っぺた赤いのはチューもしないし面倒みないからな」

は、というと
暗くてよく見えないはずなんだがいかんせん至近距離なだけによく見える。
手を引っ張りぬこうとしてできなくてきゅうと唇を噛んで、目を必死にして。
そんなに一生懸命怒らなくてもいいじゃんか。
わりとショックなんだけど。

「いま」

が「寒い」以外のことをしゃべった。
声が震えてる。
喉から搾り出したような声。



「いま、あかいの、は、ディアッカが手をつないでくれたのが好きと思、った、から」



そんなん
言われましても・・・・・・
十代の若者にどうやって、
どうやって切り返せというんだ。

オレは握りこんだ手に、背をまげて額を寄せる。
震える。
こっちこそ奥歯をぎゅっとかんで
必死になって
喉から声を絞り出す。

「そんなん言われても、好きになるしかできないですけど」































「私まだ、ディアッカとセックスとかするのはできないけどいいの?」
「いいよ」
「そうなの」
「そうだよ。オレはそういうストイックなのが好きなんだ」
「・・・悪性のウィルスに感染した?」
「おまえまで言うか。あ、いや、そうかも」
「え?」
「なんつーか、恋という名のウィルスに」


かかと落しがきた。