借り物競争






はじめまして、アスラン・ザラです。
空はいい天気で、歓声やみんなの楽しそうな声が聞こえます。
借り物競争のスタートラインでイザークにケンカを売りつけられたことを除けば、
とても心穏やかでした。
でした。


でした。









「・・・」

なんだろうこの指令書。














































ほんとうになんだろうこの俺専用の指令書。

ランダムで選んだのに、どうなっているんだ。
これが仮にラクスのことをピンポイントで指しているのだとしても
連れてこれるわけがないじゃないか。
ラクスの家まで行って借りて来い、ってことなんだろうか。
それ、普通に考えて負けるよな。

「がんばれー!」
「がんばってー!」

観客から飛ばされる声援がむなしくなってきた。
だって頑張りようがない。
勝負なんだから当然、負けたくないのにこんなの

「がんばってくださいませー」

ませー?

聞き覚えのある声に俺は弾かれたように顔をあげた。
軍関係者だけのはずの観客の中に、歌のうまい婚約者を見つけてしまった。


「アスラーン、がんばってくださいなー」


「なっ!ら?ど!」


なんでラクスが?どうしてと言おうとしたけれど、うまく人類の言語を話せなかった。


「わたくしお忍びでまいりましたのー、がんばってくださいませー」


ああもう、お忍びでまいりましたのって叫んだ時点で全然忍んでませんてば。
100歩譲ってなんでいるのかは置いておいて
まずい
まずいだろうこれは!
プラントのアイドル、ラクス・クラインがあんなに人に囲まれているところにいて、
バレたら大混乱になってしまう
帽子に髪をすっかりしまっているものの、あんなふうに大きく手を振って
声をだしたりしたらっ・・・!
とめなきゃ!



「や、やめてくださいっ、ラクス!」

はっきりと名前を出して叫んだアスランに観客の歓声が一瞬消えた。






一瞬の沈黙のあと、競技に無関係な歓声が湧き起っちゃった