借り物競争






イザーク・ジュールだ。
俺は正々堂々と、短距離走でアスランと決着をつけたかったが、
こんなふざけた種目でも勝負は勝負だ。
本気で行く。

スタートダッシュを見事に決めた俺は、頭ひとつぶん奴より早く指令書にたどり着いた。
この勝負、もらった!





























なんだこれは?


変な仮面の人だと?
軍の中で仮面をつけているのはクルーゼ隊長だが、隊長は俺の尊敬すべき人物であり、
思慮深く聡明、数々の輝かしい戦績そして卓越したMS戦闘技術をお持ちの方だ。
俺のような者では思いも及ばないような深いお考えのもとにあの仮面をつけていらっしゃるのに違いない。
よって、どこも「変」ではない。

では誰だ。

仮面、仮面・・・。
よく考えろイザーク
あらゆる角度から考えるんだ。


「ま、まさかこれはっ」


仮面、すなわち真実を覆い隠すもの。
ともすれば、ひとつの可能性が見つかるではないか。


そうそれは


誰もが心の中にもつ、













心の仮面





































「フッ。借り物競争などくだらない競技だと思っていたが」

ふざけた競技といったのは訂正してやろう。
侮り難し、借り物競争。
「心の仮面は借り物競争で借りてこれるような物ではない、すなわち!俺がすべきことは、
何も持たずにゴールテープを切ることだ!」



俺は走り出した。
この手の中に形のない答えをしっかりと掴んでいた。


さきほどよりも一際大きくなった歓声のなか
(ラクスラクスと言っているように聞こえるのは幻聴だろう)
何も持たず
俺はまっすぐにゴールを目指す。

悪いが、この勝負は俺がもらったぞ、アスラン!
あとディアッカ。

そして俺は単独首位でゴールテープを切った。
勝利の拳をあげた俺に、ミゲルが駆け寄ってきた。
ミゲルは審判員だったが、おそらくは俺の行動に感動し、
駆け寄らずにはいられなかったに違いない。



「はい、おまえ何も持ってこなかったから失格ね」