俺は明日の式典に向け、来賓警備配置の最終確認をしていた。

「ようイザーク」
「また貴様か」
「聞いたぜぇ」

ディアッカがこういういやらしい顔をして、いやらしい声で、いやらしさ全開のオーラを放っている時はたいてい決まって

「なにをだ」
「おまえの彼女!」

という類の話題だ。
くだらん。






最終確認






「明日のミネルバの就航記念式典でおまえがさんの専任警護やるんだってな!ジュール隊長御自らプリンセスを守るなんて、オレもミリィがいたらそのポジションに行きてーよってオーイ、30メートルも引き離すな」

俺は奴の話など耳を貸さずにさっさと廊下を進んだ。
明日の式典に向けて準備と確認作業は山積みなのだ。ディアッカごときに構っている暇はない。
しかし、ディアッカはわざわざ早足で追いついてきて横に並んだ。

「で?で?どうなのよ、婚約から二ヶ月もたったけど」
「どうもこうもない。婚姻統制制度は我々に必要なものだから婚約をした。それだけだ」
「あのなあ、社会的にはジュールのぼっちゃんとのお嬢様が婚約なんて、クライン家とザラ家以来の大ニュースだっつーの」

両手を頭の後ろに組んでディアッカはため息をついた。
一瞥だけして、ディアッカを無視して歩き続ける。

の専任警護任務にあたらなければならなくなったのは、軍と政府上層部からの指示だ。
俺が希望したわけでもあいつが希望したわけでもない。ザラ家とラクライン家の婚姻が消滅した今、プラントにはそれに代わるポジティブで象徴的な婚姻が必要だった。ポジティブで象徴的な婚姻の広報活動の一環として、式典での護衛というパフォーマンスを任じられたに過ぎない。

「なになになに。さんに不満でもあるわけ?」
「・・・」
「オレ結構好みなんだけどなあ」
「・・・」
さん美人だし、胸あるし、優しそうだし。最高じゃん」
「フン、誰があんな堅物」

「おまえに言われちゃおしま・・・おしま、お、おしまいになってくださいその拳銃を」

「だいたいさっきからなんだ貴様のそのヘラヘラした顔とユルユルのしゃべり方とグダグダの話の内容と情けない存在は!もっとシャキッとして生まれる前からやり直して来い!式典前のこのくそ忙しい時にペラペラペラペラペラペラと、俺はこれから明日の来賓警備配置の最終確認をしなければならないと何度も言っているだろうが!そんなだから貴様はディアッカなどと呼ばれるんだ!反省しろ!」

「度重なるオレの完全否定については愛だ、俺への愛だから落ち込んじゃだめだオレ。がんばれオレ。つうかまた警備配置確認すんの?」
「当たり前だ。婚約者とはいえ重要な来賓であり、任務であることには違いないのだからな」

そうだ。
任務なのだから想定される危害の因子を把握し、分析し、適切な対策を講じる一連のプロセスに全力を注ぐのは当然だ。
別に他意はない。
あいつはしっかりしてるように見えてぽやっとしてるから絨毯の端に足をひっかけて転倒するということさえ充分にあり得る。あり得るということは対策を打っておくべきということだ。よって対策をした。
ほかにも拍手をしている時に隣りの席の男の拍手の仕方が大袈裟で、拍手の振りをして胸部を触られるかもしれない。痴漢は犯罪だ。被害者が婚約者だろうとなかろうと痴漢行為はあまねく言語道断。よってこれについても対策済みだ。
だいたい、
胸部を狙ってくるなど明らかに悪質な手口ではないか。
いや、
胸部を狙ってくると決まったわけではないか。
他にも腰のあたりやふともものあたりも・・・ん?

ふともも?

ふとももか
あいつの、ふともも・・・

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・






「危険だ」
「何が?」

俺は断じて何の魅力も感じないが後方席の変態議員が、あるいは変態軍人が、そう、例えばディアッカのような輩が何らかのよこしまな感情をもよおす可能性は充分にあり得る。あり得るということは対策を打っておくべきということだ。

「も、もしもーし、イザーク?」
「ディアッカ、俺は来賓席後方の最終確認に行く。貴様にかまっている暇はない、じゃあな」
「おーいイザーク!・・・あー行っちゃった。ったく、最終確認ってもう51回目じゃんか。恋ってすげーなぁ」