妹は俺より背が高い。生意気だ。
そのうえ最近、性格まで生意気だ。

「ただいまー」

12月30日、久々に実家に帰ったら玄関の正面にある階段を、がちょうどのぼっていくところだった。
はユニクロのルームウェアにマグカップを持って、外ではゴテゴテに塗ったくってるわりに今はノーメイクで、心底顔を引きつらせて、

「帰ってくんなよ」

とささやき声で吐き捨てて二階へ上っていった。
生意気っ、すぎるっっ!



世良の妹



「母ちゃん!」

リビングにおみやげの詰まったカバンをどっかと落として、俺は不平を訴えた。正当な不平だ。

「なんなのアイツなんなの?すげえ感じ悪ィよ」

母親は台所に向かいながら「ほっときなさい」と、俺の不平を軽く笑って切り捨てた。

「教育間違えたんじゃね!」
「あら、うちの子二人ともかわいいじゃない。大成功よ。そこのおミカン甘いから食べなさい」

振り返りもせずに、大きな土鍋にかかりきりだ。
どうしても腑に落ちないが諦めて、俺はミカンをモミモミすることにした。

はいま、ギャルっぽい。
高校出てから特にファッションがそっち系になり、ストパーかけたヘンにまっすぐな髪も、化粧も、雑誌でよく見る感じになっている。うちの家系はみんなそろって目つきが悪いから、あいつの場合特に見た目がドぎつくなっている。
まあ昔から兄妹ケンカも多かったけど、プリン食われたとか、貸したマンガの表紙が折れてたとか、セーブデータ消されたとか、そんなもんだった。けど帰ってくんなとか、マジ、何様!?なにごと!?

そんな苛立ちも、こたつに入ってミカン食って出てくる夕ご飯を待っていればいいだけの世界のなかでは癒されて、夕飯時には俺はすっかりご機嫌だった。なぜならおでんうまし!

「そしたらさ、ガブのやつ靴紐結んでて立てなくしてんの」

おでんをはさんで軽い話題で母ちゃんと談笑していると、母ちゃんの横の

つーん

として、はんぺんばかり食っていた。見かねた母ちゃんが鍋の底からソーセージを取っての皿においた。

あんたはんぺんばっかりとらないの」
「太るもん」
「無駄な脂肪つけたくないならバランスよく食うほうがいいんだよ」

とは堺さんの受け売りだ。
はキッと俺を睨み、しかし鼻で笑う。

「なにさま」
「(こんっのやろ・・・)お兄様だっつの」
「チビ」
「ブス」
「バカ」
「デブ」
「カス」
「クソ」

この高速のやりとりを見ていたかあちゃんは「んふ、かわいい」とにっこり笑った。

「「どこが!?」」

二人声を合わせて、ハイパー無意味なやりとりに終止符が打たれた。
は黙り、俺は母ちゃんとの会話を再開した。

「そだ。今度さー、彼女連れてきてもいい?」
「前来たじゃない」
「別の」
「あんたまた振られたの?」
「っさいなー」
「なにしに来るの?」
「なんとなく」



「連れてくんなよ!帰れ!」



沈黙していたが突然声を荒げ、ドッと机を押し叩いてこたつを出て行った。
そしてわざと音を立てて階段を駆け上がっていった。
俺は唖然として、すくい上げたがんもどきを小皿に落っことしてしまった。
なんかここまで来ると怒りを通り越して、あいつイライラする病気にかかってるんじゃないかと、心配になってきた。






夕食をおえてしばらくすると、居心地が悪くて世良家の兄は家を出て行った。
すると世良家の妹は音を立てると消えてしまう妖精を見に来たかのような忍び足で、階段を下りてきた。
玄関をじっと見下ろして、無い靴を確かめる。
うつむいて、リビングにやってきた。

「・・・帰ったの?」

テレビを見る世良家の母は「んー?」とこたつから振り返った。

はむすっとした様子でこたつにおさまる。
背は猫背。
へんにまっすぐな髪が力なく肩をすべった。

「・・・恭ちゃん、結婚するの?」
「そりゃあカッコイイものおにいちゃん」



うるん



音できこえそうなほど一瞬で目をうるませ、唇が一文字にむすばれた。
一方で母ちゃんは呆れ顔で笑っている。

「なんで泣くのー」
「きょ、ちゃん、帰ちゃっ、たぁ」
「そんな泣くならなんでひどく言うのオバカ」

わあんわあんと泣く声を俺は、
全然結婚とかの話はなくてただ見せびらかしに彼女を連れてこようとしていた俺は、
コンビニ行こうと思ったらバイクのメットを忘れて取りに戻ってきた俺は、
お兄ちゃんは、
聞いてしまった。







が風呂に行ったタイミングで家に戻って、10分間寒空のした待機させられた寒さをこたつで癒した。
風呂から出てきたは俺がいるのを見つけるとギョっとして、「な、なんでいんの!」と懸命に悪態をついた。入れ替わりで、母ちゃんはリビングを出て行った。

「コンビニ行ったけど、ジャンプ合併なの忘れてた」
「バ、バカじゃん」
「うっせ。これからTSUTAYA行くけどおまえいっしょ行く?」
「え・・・行く」

風呂入ったばかりで最悪なタイミングだろうに、いま、しっぽが揺れた幻が見えたぞ。
俺は腰が重いふりをしてゆっくりこたつから立ち上がる。

「待って、行く、行く」

はバタバタ走って二階へ服を取りに行った。






TSUTAYAへ行くといって出て行った世良家の兄妹は、一時間後、なだれ込むように帰ってきた。
玄関で明るい声が上がる。

「お母さんねえ聞いて!恭ちゃんねウイイレ買ってきちゃったよ」
「母ちゃん違うよ言い出したの。おまえPS3、コントローラあるべ?なかったら泣く」
「あるある、二個ある、とってくる」

いつのまに仲良くなったのか。母は気にしない。
世良母にとっては何千回、何万回と見ている一連の流れなのであった。






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おまけ

「やべえな俺」
「やっばい恭ちゃんのポリゴンやっばいひっどいやっばい似てない超ウケる!」
「これはアレだなー俺の顔は繊細で再現できなかったんだな」
「背小さいのはひどく繊細に描写されてるね」
、それは遠近法といってだな」
「やーん堺選手超カッコイイ」
「聞けよ」
「ねえ次イケメンだけでチーム作ろう」
「ヘヘッ、よせやい」
「入れねェよ?」